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20.巨大ジャガイモとの戦い

「もう収穫できるようになったのか」


「オイラもビックリだよ」


 一週間もする頃には作物は実っていた。

 驚異的な早さだ。


 家庭菜園には青々とした葉っぱが茂っている。

 地面が見えないくらいだ。


 ニンジンやタマネギ、それに米は植えた数が少ないので増やす必要があるが、ジャガイモは大量に実った。


「うわあぁ、こんなになっているよ」


 ロココも農作業をお手伝いだ。

 土から引き抜くと鈴なりに実ったジャガイモが現れる。

 丸々と育ったジャガイモを見て、興奮したロココは尻尾をブンブン振り回していた。


「こんなにたくさん実って、土地の栄養が枯れないのか?」


 心配になったが土は黒々として肥沃そうに思えた。


「オイラも気になって調べたけど土には問題ないみたいよ。この建物の周りだけやけに成長がいいね」


 道化師の顔が思い浮かんだが、こんなサービスをするはずがない。


 試しに日差しが当たる境目にジャガイモを植えたというので見に行くと、そちらはようやく芽が出たばかりだった。

 まだまだ収穫には時間がかかりそうだ。


「そんなに日当たりも土も変わりないように思えるんだが」


 どうしてこんなに植物の成長に差が出るのかわからない。


「俺が何かした心当たりはないぞ」


「巨人の足跡はあるけどね」


「うっせぇ」


 ラピィがからかったので頭をはたこうとしたが、少女っぽい見た目では手の勢いが減ってしまう。


 おさげ髪というのが女の子っぽさを強調していて卑怯だ。

 ポンっと頭に手を乗せる結果になってしまって、ラピィが不思議そうにしていた。


「いつまで経ってもあの足跡は消えないよなぁ」


 雨が降っても足跡が消える気配はない。

 思いっきり土を踏み固めてしまったからか、全く崩れもせずに足跡は残っていた。


「金剛力には邪気を払う力があるのはわかっているけど」


 俺の四股踏みには邪気を払って瘴気を浄化する能力はあるみたいだ。

 だが、果たして豊作にまで関わっているのだろうか。

 ただもしそんな力があるとしても人を助ける気にはなれなかった。




 ジャガイモが実ったということで今後の食料に対する不安は解消された。


「アニキ、これでカレーに必要な作物も植えていいだろ」


「そうだな」


 地球の作物でも問題なく実ったことが確認できたので、トウガラシやショウガといったカレーに必要な作物も植えることになった。


「ジャガイモがたくさん実るようになったのはいいんだが」


 ジャガイモは優秀だ。

 地球ではジャガイモが主食な国もあるほどだ。

 炭水化物は正義である。そうは思うのだが、


「またジャガイモか」


 十日以上もジャガイモ料理ばかりだと飽き飽きしてきた。

 見るのも嫌になってくる。


 そりゃ旅の間は粗食でも我慢できたが、いったん舌が日本の贅沢な味を思い出すとダメだった。


「オイラも色々と献立を考えているんだけどね。料理のレパートリーが一気に増えたよ」


 四人分くらいなら手間は変わらないと毎日の食事を用意しているのはラピィだ。

 それで食事時には全員が集まっている。


 その点は非常に感謝しているが、飽きるものは飽きる。


「お料理サイトを見ても目新しいジャガイモ料理はなくなったな」


 上手い飯を食いたいのでラピィに積極的に協力したが、ジャガイモだけでは料理も限られる。


 朝食はふかしジャガイモだった。

 ロココや七龍チーロンもまたかという顔だった。


「お肉が食べたい」


 ロココの尻尾が力なく床に落ちていた。

 狼の血を引くロココは肉を食べないと元気が出ないようだ。

 俺もそろそろ肉が食いたい。


 朝食をモソモソと食い終わると、ラピィは畑仕事に行った。

 俺はロココに算数を教えている。

 七龍チーロンは音を小さくして音楽を聞いていた。


「どわああぁぁ!」


 いきなり外からボーイッシュな女の子っぽい悲鳴が聞こえた。

 声の響きに騙されて腰が浮きかけたが、どうせラピィが悪戯でもして失敗したのだろう。


 無視していると今度は扉を乱暴に叩く音がした。

 ノックの音は立て続けに鳴っている。


「しつこいな」


 急な訪問者が来てもすぐ着替えられるようにこのところは赤褌をしている。

 廻しというのは着替えが面倒なのだ。


 ただ来客なら外にいたラピィが対応するはずだ。


「扉には人の気配はしないんじゃがのぅ」


「うん。変な感じがする。私が見てくるよ」


 ロココはいつも近くに置いてある槍を手に取った。


「俺が見に行くよ」


「大丈夫。お兄ちゃんは私が守るから」


 いやいや、そんな男前な台詞を小さな女の子に言われても頷けるわけがない。

 俺もロココの後を追っかけた。


 槍を持ったロココが警戒しながら扉を開くと、緑色の触手のようなモノで視界が埋め尽くされていた。


「ハアアァ!」


 ロココは躊躇なく槍を振るう。

 あっさりと緑の触手が床に落ちて視界が開けた。


 父親の力を借りなくてもロココの槍の腕前は落ちるものではないらしい。


「どう、お兄ちゃん」


 褒めて褒めてというように耳がピクピクしている。


「よくやった」


 俺が頭を撫でると尻尾が横にパタパタと振られた。


「これってジャガイモの蔓や葉っぱみたい」


 ツンツンと槍の穂先で床に落ちた触手をロココが調べていたが、それ以上動く気配はない。

 外を見るとラピィが巨大ジャガイモの蔓に足を取られて逆さ吊りになっていた。


「おーい、おーい」


 ラピィが助けを求めるように手を振っている。

 開けっ広げになったスカートが揺れていた。

 黒いパンツに包まれた尻が見える。


「ホント、誰得だよ!」


 服だけでなく下着も女子大生のものらしい。

 変な方向に変装には気合が入っている。

 ドワーフが腐るのはともかく、全く嬉しくないパンチラを見て俺の目まで腐りそうだ。


 俺のため息に気づいたロココが身軽な動きで太い茎に駆け上る。

 ズバズバと蔓を切り裂くとドサッとラピィが落ちてきた。

 それなりの高さから落ちたが、頑丈なドワーフには掠り傷一つない。


「今度は何をやったんだ?」


「オイラは倉庫にあった肥料を撒いただけだよ。いや本当に」


「今でも十分に育っているのに余計なことはするな」


 化学肥料の使用は中止にしていたのに、好奇心に逆らえなかったらしい。

 巨大ジャガイモがアパートに蔓を伸ばしてきたのは、化学肥料を求めたからだろう。


「反省しろ」


「ヒャン」


 頭ではなく今度は尻をはたいたが、思ったよりも柔らかくてギョッとする。

 手に艶かしい感触が残っていた。


 ラピィも変に高い声を出すんじゃない。

 反応に困るだろ。


「おおきなかぶみたいだね」


 童話が好きなロココが頭を出した巨大ジャガイモを見て笑った。


「うんしょ、うんしょ」


 ロココが巨大ジャガイモを引っ張り出そうとするが、女の子の力ではかなわない。

 槍の技には優れていても力まではないみたいだ。


「どれ、ワシも手伝うかの」


「オイラも引っ張るよ」


「うんしょ、こらしょ」


 四人で協力して引っ張ったが、それでも巨大ジャガイモは地中に根を張って必死に抵抗する。

 赤褌では力が足りない。


「金剛おおおぉぉぉ!」


 俺の呼びかけに空から金色の布が舞い降りてきた。

 金色の廻しを締めて金剛力を発揮すれば、さすがに巨大ジャガイモも引っこ抜けた。

 勢いがつき過ぎてジャガイモが空中に浮かんでしまう。


「はた迷惑なジャガイモめ! ひいっさつ、バサラ天掌!」


 巨大ジャガイモを右手一本で受け止めた。

 俺の手から白炎が立ち昇る。

 ジャガイモが白炎に包まれて、茎や葉、根っこが燃やし尽くされた。


 ジュウジュウと巨大ジャガイモも焼けている。

 このまま消してしまおうとしたが、


「待った、そこまでじゃ」


 七龍チーロンの制止に巨大ジャガイモを地面に下ろした。

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