18.これで全員が集まった
ロココの服が決まったところで、俺の部屋に七龍とラピィを呼んだ。
これで俺のパーティメンバーがまた全員集結することになったのだ。
二人の顔が違うのは些細なことだ。
ラピィは自業自得である。
「アニキ、その子は? 隠し子でもいたの?」
「気配はあやつに似ておるのぅ」
「たちの悪い冗談はやめろ。俺には恋人も女友達もいたことはないわ」
おい、そこでラピィも七龍も可哀想なものを見る目はやめてくれ。
「はいはい、私がお兄ちゃんの友達」
大きく手を挙げてくれたロココに胸がほっこりする。
頭を撫でると子猫みたいにロココは目を細めた。
「この子は俺たちと一緒に旅をしたロココだ」
「やはりか。そんな気がしたわい」
「えっ、オイラみたいに天罰を受けたの?」
「腐れドワーフでもないのにロココが天罰を受けるとかありえないだろ」
俺はロココが父の魂を憑依させて今まで戦ってきたことを説明した。
「気配を二重に感じることがあったからおかしいと思ったのじゃ」
「オイラ、全く気づかなかった。ロココ、またよろしく」
ラピィが差し出した手をきょとんとロココは見詰めている。
「ハーフリングのお姉ちゃん、誰?」
「ドワーフのお兄ちゃん。いやいや、オイラだよ、オイラ。ラピィズラヴァリだって」
見た目でロココがラピィをわからないのも無理はない。
お兄ちゃんと呼ばれたいならせめてスカートはやめるべきだ。
「んーっ? ヒゲがない。声も違う」
ラピィの手の匂いを嗅いで、ロココが首を傾げる。
それから何かを確認するように平手でパンパンとラピィの体を叩いた。
「な、なにすんのさ」
股間までパンパンされたラピィが顔を赤くした。
「小さい?」
「ち、小さくなんかないやい。オイラ、若返っちゃったんだよ」
ロココはまだ疑っているようで、ジットリとした目をラピィに向けていた。
「こいつは本当にラピィだよ。俺と再会した時はヒゲがあった」
笑いを噛み殺しながら俺が保証すると、
「うん、お兄ちゃんが言うなら信じる」
「本物なのに……」
信用がなくてがっくりとラピィは肩を落としていた。
「決戦の地から急にいなくなって心配したわい。また再会できて嬉しいぞ、ロココよ」
「私もおじい、ではなくて七龍に会えて嬉しい」
大きくゴツゴツとした手と小さな手が固く結ばれる。
「オイラも最高の気分だね」
その握手の上にラピィが手を乗せた。
「いってぇ。アニキ、ちょっと力強すぎ」
「これで全員集合だな」
照れ隠しで俺もパシンと叩くように手を乗せる。
この四人が揃っていれば困難なことは何もないと思えてしまう。
「よし、今日は揚げ物フィーバーだ」
仲間が全員揃ったのだ。
急な別れで混沌の怪物を倒したのに打ち上げをする暇すらなかった。
「七龍の部屋を貸してくれ。そこで宴会をしよう」
「もちろん構わぬぞ」
105号室の冷蔵庫にはまだ大量の冷凍食品が眠っている。
今日はそれをパーッと使ってしまおう。
「みんなは自由に寛いでくれ。俺が食事の準備をするからさ」
この部屋にある電子レンジはオーブン機能もある高価なやつだ。
オーブンレンジを使って鶏の唐揚げや各種フライ、コロッケなんかを温める。
俺の部屋にある安物と違って、カラッと仕上がるのが素晴らしい。
甘口のレトルトカレーを湯煎して、ロココ用のカレーライスも用意した。
ロココにもカレーを味わってもらいたい。
テーブルにはズラッとご馳走が並んだ。
「香ばしい匂いじゃのぅ」
「うはぁ、どれも見たことのない料理ばかりだ」
「すっごーい」
三人とも期待に溢れた目をしている。
全員の手にグラスを握らせてまずは七龍にビールをついだ。
「ほぅ、こうして見ると琥珀のように美しい色をしたエールじゃのぅ」
透明なグラスを明かりにかざして七龍が感心していた。
この世界にもガラス製品はあるが高価なものだ。
ガラス作りには高温が必要だが、燃料の確保が難しい。
「オイラも早く、早く」
「ヒゲのないお子ちゃまにはまだ早いんじゃないか」
「生殺しだよ。ドワーフにとって酒は水も同然だって」
「わかった、わかった」
勢いよく注いで泡だらけのビールにしてやる。
泡が落ち着くと中身が半分になっていた。
しょんぼりするラピィに笑ってから、中身がまだ残っている缶ビールを渡してやった。
「エヘヘ、アニキ、愛しているぅ」
「腐れドワーフに言われても嬉しくねぇ」
悪ふざけしたラピィに投げキッスされたが、両手でガードしてやった。
「鉱物に関してはオイラたちドワーフが一番だと思っていたけど、こいつは見事だね」
ラピィがカンカンと缶の表面を指で叩く。
一分の狂いもない円筒の形やアルミの薄さに驚いていた。
「ロココと俺はコーラだ」
シュワシュワと泡が弾ける黒い液体にロココは目を丸くしていた。
グラスに目を凝らして立ち昇る泡をじっと見ている。
「では、再会を祝して。かんぱぁぁい!」
「かんぱーい!」
照れ臭くはあるが、リーダーである俺がグラスを掲げて乾杯の音頭を取る。
まさかこの四人が再び揃うことになるとは思わなかった。
今日の料理は特に美味しく感じられる。
「カレー以外にも再現したい料理がこんなにあるなんて驚きだよ」
大食漢のドワーフにしては珍しくラピィはじっくりと料理を味わっていた。
調理方法を聞かれたが、小麦粉で衣をつけて油で揚げたものとしか答えられない。
「今度ちゃんと調べるから」
「絶対だよ、アニキ」
ラピィの押しに負けて、お料理サイトを一緒に見ることを約束させられてしまった。
「舌の上がパチパチする」
おっかなびっくりでロココはコーラに舌を伸ばしていた。
ペロペロと舐めるようにコーラを口にしている。
「こっちも美味いぞ」
甘口カレーをすくってロココの口に差し出すとパクッと食べた。
「おいしーっ」
まだ子供であるロココには甘口カレーが舌に合うようだ。
尻尾がパタパタ振られている。
「お兄ちゃんも」
ロココの前にしかカレーライスが置かれてないことに気づいて、俺にも食べさせようとする。
ロココが咥えたばかりのスプーンにカレーライスがこんもり盛られていた。
久しぶりに食べる甘口カレーは、俺が思っていたより甘い気がした。
「オイラも、オイラも」
手を振り回して大きな口を開くラピィ。
「ヤダ」
ロココはすげなく一刀両断した。
「これは私の」
対面に座っているラピィからカレーを体で隠す。
「ロココってばオイラにだけ当たりがきつくない!? ここで食わせてくれればいつかカレーを再現してみせるよ。そしたらまた食えるじゃん」
「うーうー、仕方ない」
非常に迷った顔で唸りながらも、ロココはちょっぴりカレーを乗せたスプーンを差し出した。
「すくなっ」
厚い唇で拭うようにしてラピィはカレーを口に入れた。
「辛さを抑えて甘くすることで子供でも食べやすくしたカレーかぁ。やはりカレーは可能性の塊だよ」
ラピィがまたもカレーに感動する。
磨かれたようにスプーンには何も残らない。
その唾液でテラテラ光るスプーンを返されて、ロココが無言で台所に走っていく。
念入りにスプーンを洗っていた。
「……うげ、ラピィと間接キスになっちまった」
ラピィが食べる前にスプーンを咥えたのは俺だった。
何となく微妙な気持ちになった。
「こいつは魚の白身を油で揚げておるのか。うむ、美味い」
七龍だけが落ち着いて料理を味わっているように見えたが、白身フライやイカフライの減りが早い。
魚を食べるのは七龍にとっても久しぶりのようだ。
島国に住んでいた七龍も魚介類に飢えていたらしい。
ついつい唐揚げばかり食べていた俺も急いで白身フライを確保した。
この爺さん、油断ならねぇ。
揚げ物は一人で食っても美味いが、四人で食うと格別だった。
これなら大学生が騒ぎたくなるのもわかる。
俺もついついビールを飲んでしまった。
「いい気分じゃ。歌ってみるかのぅ」
七龍がギターを弾きながらアニソンを歌う。
テンションが高くなった俺も一緒になって歌った。
俺が歌うとロココやラピィも真似をしだす。
結局は肩を組んで全員でアニソンを熱唱してしまった。




