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17.尻尾穴を開ける

「それじゃ服を探すか。ロココの体に合う服が見つかればいいけど」


「私はこの格好のままでも構わないよ。お兄ちゃんの臭いが濃いから」


 黄ばんだ白シャツに鼻を押しつけて臭いを嗅がれると俺が反応に困る。

 狼というより犬っぽい。

 俺はノーマルなので小さな女の子にそんなことをされて喜ぶ趣味はなかった。


「きっとロココが気に入る服もあるからさ」


 どうにか説得して千晴ちゃんがいた102号室に連れて行った。

 きっと小学生の千春ちゃんの服が一番着やすいだろう。


 クローゼットを調べると、千晴ちゃんとお母さんの服がずらっとハンガーにかけられて並んでいる。


「すっごおぉい。ここってお姫様の隠れ家?」


 日本人ならこれぐらいの衣服は持っていて当然だと思うが、ロココは興奮して尻尾がピンと立っていた。

 銀色の毛が逆立っている。


 この世界の平民は持っている服の数が2着から3着が普通だ。

 古くなって破れても継ぎ接ぎしてボロボロになるまで着ていた。


「ど、どれを選ぼう。ふわぁ、何の布かな。こんなにスベスベで綺麗な生地なんて見たことない」


 ありふれた化学繊維の服だが、ロココの目は生き生きとして宝石のように輝いていた。


 野生児のように見えても女の子。

 お洒落には興味津々な様子だ。


「別に選ぶ必要はない。全部ロココの服だ」


「ぴゃ!?」


 驚き過ぎたのかロココの目がまん丸で硬直している。


「さすがに冗談だよね」


「いや、本気だぞ」


「だってお姫様に悪いよ」


 クンクンと服の匂いを嗅いですまなそうな顔をしている。


「お姫様なんてもういないから。ロココが好きな服を着ればいいんだ。あ、でも尻尾穴を開けないといけないな」


「私一人の為だけにもったいないよ。私は一着でいいから孤児院に寄付するとか」


「ダメだ!」


 思ったより硬い声が出た。

 憎しみも混じっていたかもしれない。


 急変した態度にロココは驚いていたが、俺自身もいきなり飛び出した感情に面食らった。


 ロココの優しさは尊重したいが、俺は仲間以外に対して恩も義理もない。

 俺を召喚した異世界の人間には不信感しかなかった。


 声を大にして言いたいわけではないが、恨まないだけ感謝しろと思っている。


「お兄ちゃん。ごめんね」


 ロココに対して怒ったわけではないのに怖がらせてしまった。

 シュンと尻尾が小さく丸まっている。


「これは頑張ったロココへのご褒美だからさ。胸を張って受け取ってくれよ。それにロココが着飾った姿を俺が見たいんだ。俺の我儘を叶えてくれよ」


 可能な限り優しい声で頼む。

 ちょっと卑怯な言い方だったかもしれない。


 でも、ロココの優しさは世界を救ったことで十分だと思う。


「そっかぁ。うん、わかったよ」


 ロココが困ったように笑っている。

 小さな女の子に気を使わせてしまった。


 ロココの表情はしばらく硬かったが、それでも服を選ぶうちに明るくなってきた。

 ほっとする。


「こんなの初めて。本当にお姫様みたい」


 フリルスカートを履いたロココは、軽いステップでクルクルと回転した。

 興奮した尻尾でスカートが持ち上がって、子供パンツがチラチラ見える。

 子犬がプリントされた柄だ。


「くっ、つい見てしまう」


 子供パンツに興味はないのだが、男の本能的な反応なのか目が追ってしまう。

 うーん、困った。


 その後もロココは色んな服を試着して楽しそうだった。

 ただ最終的に選んだのは、ポケットがたくさんついたオーバーオールだ。

 深緑で何となく地味だ。


「それでいいのか?」


「これが一番丈夫で動きやすそうだったから。それに狩りでも隠れやすそう」


 実用的な面で選んだらしい。


「もっとお洒落なものを選べばいいのに」


「私が着たら絶対に破いちゃうよ。そうしたら悲しいもん。お姫様みたいな服は特別な日だけで十分」


 確かに活発なロココにはオーバーオールの方が向いている。

 子供は外で元気に遊ぶのが一番か。

 ロココが納得しているならいいだろう。


「それじゃ尻尾穴を開けないとな」


 オーバーオールの内側で尻尾が丸まってそこだけ盛り上がっている。

 印をつけて尻尾穴を開けることにした。


「慎重に、ずれないように」


 ちょっと歪んだが、俺にしてはましな形だ。

 時間にして三十分。

 手が汗だらけになっていた。


 これだけで一仕事終えた気分になったが、ロココは着ようとしない。


「縫わないの?」


「あっ!」


 このままだと切ったところから生地がほつれてしまう。


「集中、集中」


 針と糸があったのはいいが、不器用な俺では針孔に糸を通すだけで一苦労だ。

 脂汗で針が滑って床に落ちる。


「お兄ちゃん、代わって」


「……はい」


 結局ロココが切り取った布で補強しながら尻尾穴を縫うことになった。

 考えてみると白い廻しはロココお手製だった。

 俺が出しゃばることはなかったのだ。


「エヘヘ、お兄ちゃんが開けてくれた穴」


 それでもロココが喜んでくれるならよしとしよう。

 フリフリと銀色の尻尾が機嫌良く振られていた。

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