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14.汚い毛玉から現れたのは獣耳少女だった

 薄汚れた小さな毛玉は、ズルズルと毛を引きずりながらフラフラと歩いていた。


「痛い、痛いよぅ」


 こんなのらしくないと思うけど、弱音が漏れてしまった。

 体から力が抜けて全身が痛い。


 今まで無理をしてきた反動が出ていた。

 こんな状態では野良犬にすら劣るだろう。


「お兄ちゃん、会いたいよ」


 消えてしまったはずの太郎が帰ってきたという風の噂を聞いた。

 本当かどうかはわからない。

 でも、太郎に会いたい。

 心にぽっかりと開いた穴は何をしても埋められそうにない。


 毛玉は光が差す方向に希望があると信じてノロノロと足を動かした。

 その方向から懐かしい臭いがする気がした。


「ここ楽園?」


 毛玉がやっとの思いで太陽の光が差しこむ土地に入ると、植物の匂いを感じた。

 植物が生き生きと芽吹いている。

 他では見られない光景だ。


「クンクン、お兄ちゃんの臭いがする……」


 臭いという人が多いだろうが、毛玉にとっては安心できる臭いだ。

 見たこともない建物から太郎の臭いが強く漂っていた。

 毛に隠れた目を輝かせながら、茶色い毛玉は最後の力を振り絞った。






 扉に何かがぶつかる音がした。

 土俵結界は取り払ったが、七龍チーロンの呪符結界で敵意のある存在はアパートの敷地内には入れない。

 危険はないだろうと判断して、俺は恐る恐る扉を開いた。


 そこにうずくまっていたのは茶色く汚れた毛玉だった。

 獣人の一種だと思うが、泥水に濡れた犬の毛皮を圧縮したような強烈な悪臭が襲ってくる。

 目と鼻が痛い。


「間に合っています」


 反射的に扉を閉めようとしたが、茶色い毛玉が持つ槍が目に入った。

 見覚えがあるどころではない。

 あれはロココが愛用していた槍だ。

 苦楽を共にした彼の槍を見間違えるはずがない。


 ロココは俺の最初の仲間で頼れるアニキだった。

 旅に出たばかりの俺は今よりもっと臆病で生きる為の知識もなかった。


 野宿や狩り、食べられる野草など。

 およそサバイバル術といえるものは全てロココから教わった。

 もっとも、俺は狩りに失敗してばかりでロココの獲物を分けてもらうのが常だったが。


「もしかしてロココの紹介か?」


 俺がそう訊ねると毛玉は首をコクンと振った。

 それなら毛玉は俺の客だ。

 客はもてなそう。


 こんな弱そうな毛玉にロココが槍を奪われるなんてありえない。

 槍を預けただけの理由があるはずだ。


「まずは体を洗わないといけないな」


 さすがにそのまま部屋にあげるわけにはいかない。

 俺は毛玉を持ち上げて浴室に運んだ。

 思ったより軽い。


「大人しく座っていてくれよ」


 お湯のシャワーをたっぷりと浴びせた。

 それだけで泥水が流れていく。


 ぐっしょりと濡れたところでシャンプーをぶっかける。

 シャンプーだって限られているが、ロココの知り合いなら特別サービスだ。


 思いっきり毛を泡立てると、シャボン玉が飛んだ。

 毛玉はシャボン玉を触っては割って楽しそうだ。


「あれ、茶色い毛じゃなかったのか」


 十分に泡立てたところで汚れをシャワーで流した。

 茶色だと思った毛が銀色の輝きを取り戻していく。

 日に焼けて痛んでいるが美しい髪だった。


 ロココの髪の色と似ている。

 同族なのだろうか。

 だが、銀狼族の生き残りはロココ一人だったはずだ。


「ん、んーっ!」


 大人しく座っていた毛玉だが、急に手足をバタつかせた。

 何だか苦しそうだ。

 顔だと思われるところを見ると、濡れた毛が鼻や口を塞いでしまったらしい。


「まじぃ、やばった」


 歓迎するつもりで毛玉を洗ったのに裏目に出てしまった。

 慌ててハサミを持ってきて、バッサリと銀の毛を切った。

 ちょっと勢いが余ったかもしれない。


 大量の毛が一気にドサッと落ちた。

 体中から生えている体毛だと思ったが、髪の毛だったのだ。


「え、えーっ?」


 パチパチと湖のように澄んだ青い瞳が俺を見ている。

 毛玉から出てきたのは可愛らしい少女だった。


 まだ幼いと言える見た目だ。

 日本だったら小学生くらいだと思う。

 顔にはロココの面影があった。


「……ひどいな」


 全身が見えると痩せている。

 それに肌は雪のように白いが、数え切れないほどの傷痕があった。

 肌が白いだけに赤い傷跡が痛々しい。


 まさかロココのような勇士が虐待などするはずがない。

 少女の正体がわからなくて混乱する。


「あとは一人で風呂に入れるよな」


 女の子だとわかったからには俺は去った方がいいだろう。

 傷が気になってジロジロと少女の体を見てしまう。

 それでは落ち着くまい。


 言っておくが、俺はデブでも紳士だ。

 これくらいの年齢は対象外だ。


「……一緒がいい」


 立ち去ろうとしたが、少女が廻しを掴んで離さない。


「わかったよ。仕方ないなぁ」


 誰かがいると廻しを脱いで無防備になる気はしないのだが、どうもこの少女に頼まれると弱い。

 俺を見詰める青い瞳がロココに似ているからだろうか。


「まさか俺が女の子と一緒に風呂に入る日が来るとは……」


 今日は驚きの連続だ。


 少女は俺の胸に頭を預けて非常にリラックスしていた。

 銀色の尻尾がワサワサと動いて、太鼓腹をくすぐってくる。

 初対面のはずなのに全く警戒してなかった。


 つい頭を撫でると髪に隠れていた三角の耳が飛び出してプルルと震えた。

 小動物みたいでほっこりした。

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