12.ドワーフのヒゲが消えた
「アニキがこれからもカレーを食いたいならオイラを手伝ってくれよ」
カレー臭い息を吹きかけながら、ラピィが面倒そうなことを言い出した。
俺はアパートに引きこもって可能な限りダラダラと過ごしたいというのに。
「オイラは大地と豊穣の神エギルの神官だから、作物を育てやすいんだ」
「ああ、そうだったな。神官らしくないから時々忘れる」
ドワーフは鉱山から取れる金属を加工する術に長けている。
その関係で炎や大地の神を信仰する者が多いのだ。
「とりあえず野菜クズをやるから考えさせてくれ」
生ごみの入ったビニール袋を渡すと、ラピィはまるで宝物を扱うように恭しい態度で受け取った。
いつも悪ふざけをしようとする態度とは正反対で困惑する。
この時点ではまだラピィがアパートに住むことになるかは決まっていなかった。
「うきゃあああぁぁぁ!」
翌朝にやけに子供っぽい悲鳴で起こされた。
悲鳴を聞いて七龍もやってくる。
「どうしたのじゃ?」
俺の部屋で雑魚寝をしていたラピィが泣きそうな顔をしていた。
多少はチリチリになったが、立派なヒゲが跡形もなく消え去っていた。
脱毛したように顎がツルツルになっている。
「ドワーフにはヒゲを剃って反省を見せる習慣でもあるのかよ」
頭を丸めて反省を表すようなものかと寝惚けた頭で考えていた。
ヒゲがなくなったラピィは童顔で思ったよりも愛らしい顔立ちだ。
初めからヒゲを剃っていれば、外見だけは見合い相手だと俺を騙せたかもしれない。
「プッ、おいおい、ヒゲを剃ったらやけに可愛いじゃないか、ラピィちゃん」
「ううぅ、オイラ、おそらくは若返ってヒゲの生えない体にされちゃったんだよ」
俺がからかうと、中性的な高い声でラピィはべそをかく。
潤んだ瞳が瑠璃色に光って妙な色気があった。
ラピィの癖に一瞬だけドキッとしたからやめて欲しい。
「どうしたってんだよ」
話を聞くと勇者の俺を見合いで弄んだことで、エギルから天罰を受けたらしい。
大地と豊穣の神だけあってエギルは婚姻も司るので、神官として神の不興を買ったようだ。
「どうせ何年かすれば年を取ってヒゲも生えるようになるんじゃないか」
「高い声が出せるようになって羨ましいのぅ。ワシも若返りたいものじゃわい」
「そんな楽観的なぁ。オイラその間みっともなくて国に帰れないよ。何でもするからオイラをここに置いてよ」
ラピィは必死だ。
この姿で国に帰ったら一生笑い者なのだろう。
悪ふざけが大好きなラピィでもそれは辛いようだ。
「何でもするって言ったな」
「う、うん」
俺が悪い顔をするとラピィが後退る。
「ま、まさかオークみたいにオイラの体を弄ぶ気!?」
「うっせぇ、誰がそんなことをするか! 俺の飯を毎日作ってくれって話だよ」
「うわぁ、何かプロポーズっぽい台詞」
寒気を感じたようにラピィが震える。
ラピィはドワーフだけあって手先が器用だし、野宿で作る料理もまずくはなかった。
「いちいち一言余計なんだよ。俺が不器用なのはわかっているだろ。あと家賃はちゃんと取るからな」
王都に戻って王に謁見すれば報酬を貰えるだろうが、また厄介事に巻きこまれそうで嫌だ。
今まで稼いだ金で十年以上は暮らせるだろうが、金はあって困るものではない。
大家さんになって不労所得で暮らせたら言うことはなかった。
「ちゃっかりしているなぁ。それならオイラの畑仕事も手伝ってよ。食材と調理方法がわかれば、毎日の食事も充実するよ」
「……仕方ない。ちょっとだけだぞ」
いつかはアパートの食料もなくなる。
その前に日本の食材が手に入るようになれば、異世界暮らしも多少はましだろう。
畑仕事が順調になれば俺の出番も少なくなるはずだ。
生活を楽にする為にそれくらいの損得勘定は働いた。
「兵士の爺さんたちはどうするんだ?」
「元々はオイラの世話役で口も堅いから残ってもらうよ。もうかなりの年だからオイラがいない国に戻っても厄介払いされるだけだしさ」
「それじゃ101と106を貸すけどかなり散らかっているぞ。でも、整理だけして下手に捨てたりするなよ」
「わかってるよ。異世界の品はどれも貴重だからね」
野営していた五人のドワーフの老兵士を集めてラピィが今後の方針を説明した。
ラピィのヒゲがなくなっていても騒ぐようなことはない。
ただやれやれといった顔つきだ。
どうせいつもの悪戯の失敗だと思ってそうだった。
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