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11.カレーライスで仲直り

「へぇ、ここがアニキの部屋か。すげぇ変わっているね」


「下手に触って分解とかするんじゃないぞ。俺じゃ直せないんだからな」


 太郎に注意された矢先に蛇口を捻って水を出したラピィは頭をはたかれた。


「油断も隙もねぇ。このハーフリングとの合いの子め」


 太郎の愚痴を聞き流してラピィはせわしなく首を動かす。

 異世界の設備は好奇心を刺激されるものばかりだ。

 それに胃袋を刺激する香ばしい匂いが充満していてワクワクする。


「コタツで大人しく座っていろよ」


 太郎に布団がかけられているテーブルを指差された。


「へぇ、これだけでちょっと温かい」


 布団で空気が逃げないので人の体温で温まるのだろう。

 ラピィが面白い知恵だなと思っていると、テーブルから赤い紐が伸びていることに気づいた。


 紐についた出っ張りを動かすとカチッという音がして、コタツの中が赤くなる。

 急にコタツの中が温かくなった。


「どんな仕組みかわからないけど、ポカポカして気持ちいいなぁ」


「少し目を離すとコレだ」


 太郎は呆れた顔をしながら料理が入った皿とスプーンをコタツに置いた。

 他には赤と緑の野菜が入ったボウルもある。


「これが俺の故郷で一番人気のある料理、カレーライスだ。もう材料はないからな。味わって食ってくれよ。サラダはトマトとキュウリだ」


 お見合いの件で不機嫌だった太郎だが、カレーライスを前にすると急に機嫌が回復していた。


「さぁ、食おうぜ。いただきます」


「……匂いは凄くいいけど、これって仲直りの為の宗教的な儀式とかじゃないよね」


「そんな意味はないぞ」


 白くてテカテカしている大量の虫の卵みたいなのと排泄物に似た茶色いドロドロしたものが皿に盛られていた。


 ドワーフは酒と食にはこだわる。

 王族の出だけあってラピィは美食を知っていた。

 その感覚からすると見た目で既に失格だ。


 ただここで余計なことを言って太郎を怒らせるのはさすがに避けたい。

 これは仲直りの料理なのだ。


「この白いのはおそらく米じゃな。東方の島国ではよく食べられておるよ。もっと黄色いがのぅ」


「へぇ、米があるのか。うん、美味い」


 太郎は躊躇なくカレーとご飯を乗せたスプーンをぱくり。

 満面の笑顔に涙まで滲ませていた。


 正直やばい薬でも入っているんじゃないかと疑う。

 旅の間見せたことがない幸せそうな顔だ。

 太郎はいつも眉間にシワを寄せて不機嫌な表情をすることが多かった。


「オイラはサラダからもらうよ」


 まずは不気味なカレーライスを避けてサラダから手を出す。

 赤い野菜は瑞々しくて酸味があるが甘い。

 緑の野菜はポリポリとした食感で歯応えが爽やかだ。


 カレーライスで身構えてしまったが、サラダは思ったより美味しかった。


「米は東方で食べられているものより粘り気があるのぅ」


 七龍チーロンが米を食べたので、ラピィも仕方なく食べてみた。


「うん、クニュクニュして変わった食感だね。淡白な味だしさ」


 米は決してまずくはないが、多少の甘みがあるだけで物足りない。

 ご馳走には思えなかった。


 ラピィは米を味わったあと今度はスプーンでカレーをかき混ぜた。

 ドロドロに溶けた異世界の野菜が浮かんでいる。

 太郎が作ったものだから仕方ないが、野菜の下処理がなっていない。


「うん、匂いはめっちゃいいんだけど、見た目がなぁ。罰ゲームってことはないよね」


「俺だって食っているだろ」


「そうだけど……」


 ためらいながらもラピィはカレーを口に入れた。


「かっらああぁ、辛いよ、これ。舌が熱くてピリピリする。え、ワケわかんない」


「ほう、辛いが美味い」


 カレーだけを食べたラピィは目を白黒させて驚いていた。

 額から汗が吹き出してくる。

 七龍チーロンはカレーと米を一緒に食べていた。


「ラピィはお子ちゃま舌だなぁ」


 太郎がニヤニヤ笑っていた。

 香辛料をふんだんに使った料理は珍しい。

 舌が慣れてないのでラピィには衝撃だった。


「うう、でもこんなに辛いのにまた食べたくなる」


 舌がヒリヒリするのに手が動いてしまう。

 今度は太郎を習ってカレーとご飯を一緒に口に入れてみた。


 米の淡白な甘さが辛さを抑え、同時にカレーの味を引き立てていた。

 複雑な旨味が余すことなく舌に押し寄せてくる。

 圧倒的な旨味の奔流にラピィの意識は翻弄された。


「……オイラ、真理を悟ったよ」


 不揃いな野菜が煮崩れていることなんて些細なことだった。

 まるで混沌の怪物のようなおぞましい見た目は神の試練だったのだ。

 その先に楽園が待っている。


「これこそが神の料理だよ。アニキ、これは世に布教すべきものだ!」


 このカレーには数多の食材を受け入れる神の愛がある。

 ラピィは無限の可能性を感じていた。

 試しにトマトをカレーに混ぜると酸味が増して味わいが深くなる。


「大げさだな。そりゃいつでもカレーが食えるなら俺は嬉しいけど」


 あまりにラピィの過剰な反応に太郎の腰が引けていた。

 急にガツガツとカレーライスを食べ始めたラピィは恍惚とした目で滂沱していた。


 ラピィの様子は急変したが、七龍チーロンは平気な顔でカレーを食べていた。

 その落差が激しい。


「ドワーフにだけ効く香辛料でも入っていたのかなぁ。目がやべぇ」


「アニキ、お代わり!」


「わかったわかった」


 もちろん太郎もお代わりはしたが、大量に作ったカレーの大半はラピィが全て食べてしまった。

 空になった鍋を見て、太郎は悲しそうな顔をしていた。

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