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10.見合って見合って

「ドワーフの使者じゃった。どうやら姫君がこれから到着されるらしい」


「……う、うーん、わかった」


 コンロの火を消す。

 これが七龍チーロンの言っていた見合いってやつだろう。


「ドワーフの使者ならラピィが来ると思ったよ」


「ヒゲの白い年老いたドワーフじゃったな。あやつも忙しいのだろう」


 確か第六王子で冷遇されていると聞いたことがあった。

 それでも混沌の怪物を倒したのだから立場は改善されたはずだ。


「喫茶店とかがないのが痛いな。二階の空き部屋を使うしかないか」


「それがまだ無難としか言いようがないのぅ」


 異世界の見合いなんてどう対応すればいいのかわからない。

 日本にいた頃だってそんな経験はない。


 幽霊が出るとかいう噂でずっと入居者が決まらなかった部屋がある。

 まさかカレーの匂いをプンプンさせている俺の部屋に通すわけにもいかない。


「……さすがにこの格好で会うのはまずいよな」


 半ケツを出したままお姫様に会うのは俺でも気が引ける。

 こんなブサマンでも第一印象はましなものにしたい。

 俺にだって多少の見栄はある。


「これもいい機会か」


 異世界では何が危険なのかわからないので、ずっと廻し姿で過ごしていた。

 臆病すぎるとは俺も思っているのだ。


 白い廻しを脱いで就職活動で使ったビジネススーツとワイシャツ、ネクタイを取り出した。

 就職活動に失敗した俺は、スーツにいい思い出はない。

 面接でしどろもどろだった苦い記憶が蘇るが、きちんとした服装はこれくらいしかなかった。


 ただ窮屈でどうしても猫背になりそうになる。

 ズボンのボタンはきつかったので、ベルトで誤魔化した。


「そんなに無理をすることはないと思うがのぅ。勇者の格好は良く知られた話じゃ」


「俺なりの礼儀ってやつだよ」


 ネクタイに首を絞められている俺を気の毒そうに七龍チーロンは見ていた。


 日本での俺の髪型は長くなった髪を切るのが面倒でざっくり縛っただけのちょんまげヘアーだった。

 それが異世界でも続いている。


 今日のところは髪を切る時間もないので、櫛で整えただけのロン毛だ。

 イケメンがやれば似合うのだろうが、俺がやると胡散臭さが滲み出ていた。


「ダッセェ」


 自分の姿にがっかりしながらアパートに馬車が到着したので出迎える。

 貴人の馬車の後ろには荷馬車もあった。

 俺に贈る貢ぎ物だろう。


 一人では不安なので七龍チーロンにも立ち会ってもらった。


 ドワーフの兵士が馬車を護衛していたが、老人ばかりで顔色も悪い。

 やけに緊張していた。

 俺を見る目に恐怖が混じっているようだった。


 疑問に思いながらも馬車の扉を開ける。

 ベールで顔を隠した姫君がいたが、何となくおかしい。

 カラフルな糸で織られたドワーフの民族衣装ではあるがズボンなのだ。


「……お手をどうぞ」


 礼儀として手を差し出したが、姫君の手はやけに硬く分厚かった。

 武器を持つ手だ。


「……どうして姫君の手はそんなに大きいのですか?」


「働き者の手だからです」


「……どうして姫君の声はそんなに野太いのですか?」


「明るい性格だからです」


「……ベールからヒゲが見えるのはどうしてですか?」


 この世界のドワーフの女性は成人しても少女のように愛らしい。

 もちろんヒゲも生えない。

 合法ロリなのだ。


「そりゃオイラだからだよ。うわ、なにアニキ。似合わない格好しちゃってさ」


 こいつは純粋なドワーフではなく悪戯好きなハーフリングとの合いの子に決まっている!


「よくも騙したな。俺の純情でピュアなハートを弄んでくれたなあアアァ!」


 怒り狂った俺はスーツやワイシャツを脱いで投げ捨てた。


 そりゃ俺の外見の好みはスリムな女性だが、そこまで高望みしていたわけじゃない。

 ブサメンの俺が女の子とつきあえる機会なんてそうそう得られるとは思っていないからだ。

 内心では見合いを面倒だと思いながらも、ちょっと、いやかなり期待していた。


「金剛おおおぉぉぉ!」


 手の平を天高く掲げて思いっきり叫ぶ。


「ちょ、ちょっと、アニキ、本気過ぎない」


 ラピィがビビっているが知ったことか。


 天から七色の光を放ちながら金色の布が舞い降りてくる。

 まるで天女の羽衣のようだ。


「アニキがその気だったらオイラも手を抜かないよ。アニキの弱点はわかっている」


 金剛布が着用される前にラピィが飛びかかってきた。


「へへん、アニキは廻しをしてなければ弱いからね。この隙に押さえさせてもらうよ」


 変身シーンで襲ってくるなんて悪役の美学がわかっていない。

 そこは大人しくしているべきだ。


「甘いんだよ」


「なああ!? アニキがオイラの突進を受け止めるなんて、そ、それは?」


「これは赤褌だ。廻しも褌の一種。つまり力を発揮できるんだ!」


 赤褌は冒険の初期に締めていたもので、最後に仲間になったラピィはこの姿を見たことがない。

 ロココがくれたサラシで作ったので思い入れが強かった。


 廻しほどの金剛力は得られないが、その分筋肉の膨張も控えめだ。

 ワイシャツくらいなら着られる。


 金剛力は裸に近い状態でなければ発揮されないので、いったん服を着てしまえば筋肉の膨張も収まるというわけだ。


「ひ、卑怯な」


「貴様に卑怯者呼ばわりされる覚えはない!」


 油断していたラピィを投げ飛ばす。

 ラピィが倒れている間に金剛布が巻かれていく。


「アニキがしているのはパンツにパンツを履くような行為。そんなことが許されていいのか!?」


「これは不浄で金剛布を汚さない為の気配りってやつだぁ」


「き、詭弁だ」


 確かに素っ裸で金剛布を締めるより神力は落ちるが、決戦でもないのにそこまでする気はない。

 お調子者に罰を与えるだけだ。


「ハアアアアァァァ!」


 金剛布を締めた俺は張り手を繰り出し、四股を踏んで体の調子を確かめる。

 よし、体のキレは悪くない。


「さぁ、見合って見合って。はっけよい残った!」


「ちょっと爺さん!?」


 七龍チーロンの掛け声で俺は飛び出した。


「フンフンフン、仁王乱舞!」


 高速の張り手を繰り出すが腐ってもドワーフの勇士。

 直撃は避けていた。

 短足なドワーフの癖に素早い。


「ちょこまかと。風神掌!」


 左手から放たれた突風がラピィに吹きつける。

 竜巻がラピィの体に絡みついて動きを阻害していた。

 これで逃げられない。


「俺の魂が友を騙る邪悪なドワーフのヒゲを滅せよと訴えかけるうううぅ!」


 俺の右手が真っ白な炎に包まれた。


「さぁ、覚悟はいいな。変装するならせめてヒゲを剃れ」


「ドワーフにヒゲを剃れなんて無茶な注文だよぉぉ!」


 ラピィが叫ぶが俺の知ったことではない。


 ドワーフのヒゲはプライドの象徴なのだ。

 ヒゲ専用のブラシや香油もあって、旅先でもお手入れは欠かさない。


 もし成人してもヒゲなしのドワーフがいたら、同族から凄まじくバカにされて笑い者になるだろう。

 一生の恥だ。


「今日はカレーの気分だったのにクソッタレな気分になってしまった」


「アニキが何を言っているかわからないよ」


「許せんってことだ。喰らえ、ひいいっさつ! バサラ天掌!」


 白く燃える手がラピィの顎をかち上げた。

 白炎によって夜空のような艶を持つヒゲがチリチリと焦げていく。


「さぁ、このままヒゲを消し去ってやる!」


「待った。そこまでじゃ」


 ヒゲを全て燃やしてやろうと思ったが、七龍チーロンの待ったで手を離した。


「やり過ぎはいかん。それに言い訳ぐらいは聞いてやってもよかろう」


「……くだらない理由だったら容赦しないからな」


「うう、アニキ、オイラのヒゲをチリチリにするなんてひどいよ。だってさ、アニキの条件ってのが無理なんだよ」


「どこが無理なんだ。俺は当たり前のことしか求めてないぞ」


 無茶難題を言う気はないので、七龍チーロンの報告書には年齢以外の好みは伝えないよう頼んだのだ。


「そのアニキにとって当たり前ってのが問題なんだよ。王侯貴族の女性は十二歳を超えれば婚約者がいるのは当然。結婚していることだって珍しくない」


「……なんだと」


「それでもアニキは英雄だからさ。婚約者のいるオイラの妹を差し出すという話に決まりそうになったんだよ。で、妹に泣かれちゃってさ」


「ったく、正直に理由を話せばいいものを。悪戯をするから話がややこしくなるんだ」


「オイラも女性に興味がなさそうなアニキがあんなに怒るとは思わなくて、ごめんごめん」


 軽い口調でラピィが謝る。

 興味がないんじゃなくて初めから諦めているだけだ。


「それにアニキのところにはもう何人もお嫁さん候補が来ているんでしょ」


「ゼロだ」


「えっ?」


「ゼロだと言っている。お前が初めてだったんだ」


「……ごめんなさい」


 ラピィが直角に頭を下げた。


「さて、ワシは腹が減ってたまらんぞ。仲直りで一緒にメシを食ってはどうじゃ。友情の料理なのだろう」


「仕方ないな。ラピィにも俺の故郷の料理を食わせてやる。来いよ」


 一応はラピィも反省しているようなので、俺は白炎に燃える金剛力を引っこめた。

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