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1.世界を苦しめる元凶との決戦

 長い旅路の果てに俺たちは世界を苦しめる元凶、混沌の怪物と対峙していた。


 混沌の怪物は腐敗臭のする瘴気を撒き散らしながら、無数に浮き出た赤黒く濁った瞳で俺たちを見下ろしている。

 腐った泥を盛り上げたような見た目で、常にその姿はウネウネと不気味に蠢いていた。


 見ているだけで人の本能的な恐怖を揺さぶり吐き気がしてくる。

 無意識に足が後ろに下がっていた。


 巨大な怪物からすれば取るに足らない四人組に見えたのだろう。

 醜い乱杭歯を生やした口が軋んだ笑い声を立てた。


 たくさんの口から放たれる不吉な笑い声が不協和音となって耳を襲う。

 頭が割れそうだ。


「臆するな。太郎は私が必ず守ってみせる」


 広い背中で長い銀髪が踊る。

 巨大な狼の頭蓋骨をかぶった獣人の戦士が俺の前に進み出た。


 銀狼族の唯一の生き残り。最後の族長ロココは約束した言葉を絶対に違えない。

 寡黙で喋る時ですら唇が全く動かないが、俺が最も信頼する戦士だ。


 いつでも身を挺して俺を守ってくれた。

 俺が弱音を吐くと黙って聞いてくれた。

 最後には頭を撫でて慰めてくれた。


 俺は彼を真のオトコと認めてアニキと呼びたかったが、そのたびにロココは首を横に振った。

 その資格はないのだという。それがいつも不思議だった。


「ほっほっほ、ワシらに時間稼ぎは任せておけ。お主は気を溜めることに集中するんじゃ」


 飄々とした喋り方で龍人族の長老、七龍チーロンが棒と呪符を構える。

 お節介なこの爺さんは龍人族のお偉いさんにも関わらず困難な旅に同行してくれた。


 俺が爺さんなんて呼ぶと「ワシはまだ七百歳じゃぞ」と言い返すのが口癖だが、実際の年齢は千歳に近いらしい。


「オイラだってみんなには負けないよ」


 背の高い二人とは違って小人が陽気な声で自己主張する。


 ラピィズラヴァリはドワーフの神官戦士だ。

 ドワーフの名前は濁音が多くて舌を噛みそうなので、俺たちはラピィと呼んでいる。


 背が低くてタルのような体型は、俺と似ていて親近感がある。

 お調子者で悪ふざけが好きなところが玉に瑕だが、年が近いこともあって俺とは気が合う。


 三人ともが頼れる仲間だ。


 怪物が泥の体から触手を伸ばした。

 鞭のようにしなる触手が黒い津波となって襲いかかってくる。


 一本一本が岩を砕く威力を秘めている。

 その怒涛の攻撃をロココはたった一本の槍で黙々とさばいていた。


 触手だけでは決定打にならないと業を煮やした怪物が、血走った禍々しい目を真円に開く。

 邪悪な瞳から雨のように怪光線が降り注いだ。


「ほいほい、青竜・白虎・朱雀・玄武・麒麟。むぅううん、五霊破邪結界!」


 七龍チーロンが呪符を空中に放り投げる。

 五枚の呪符が五芒星を形作って怪光線を防いだ。


「くぅ、なかなかきついわい」


「高齢なのに無理すんなって。ホーリーシールド!」


「誰がヨボヨボのジジイじゃ。ワシはまだ七百歳じゃぞ」


「オイラ、そこまで言ってないよ!?」


 結界が突破されそうになると、ラピィが神聖術で盾を作って七龍チーロンをフォローしている。


 満身創痍になっても仲間たちは不甲斐ない俺を信じて諦めない。

 仲間の奮闘を見て威圧的な怪物の姿に怯えていた俺の闘志にようやく火がつく。


「うぉおおぉ! 頼む、燃え上がってくれ、俺の魂よ!」


 俺は金色の廻しを締めて力士の格好をしているが、実際は神仏の加護を受けたタダの素人。単なる一般人。デブのモブ男だ。


 それでも俺を信じてくれる仲間がいるなら今だけは本物に、勇者になりたい。


「いいか、怪物! よく聞け!」


 恐怖に負けまいと俺は大声で張り叫ぶ。


「俺は汗っかきのデブで、足の裏は臭くて、定職にもつけない、取り柄なんて全くない人間だ!」


 わけのわからない告白に怪物は嘲笑うように牙を鳴らす。


「だがな、そんなクソ以下の人間でもお前はこの世に存在しちゃならない邪悪だってことはわかる!」


 金剛力を宿した俺の体が白炎に包まれた。


 脅威を感じたのか怪物が太い触手を一本に束ねた。

 巨大な蛇と化した触手が一直線に襲いかかってくる。


「待たせてごめん」


「ほっほっほ、真打の登場じゃな」


 俺はロココの前に立つと右手だけで黒い蛇の突進を受け止めた。

 白銀に光る手に触れた黒い蛇は浄化されて光の粒子に変わっていく。


「さぁ、行け」


「おぅ!」


 ポンと背中をロココに叩かれた俺は、怪物目がけて跳躍した。

 弾丸のように飛び出した俺に触手が殺到する。


「デブが触手に囲まれても誰得なんだよ! ったく囲むなら女の子にしてくれぇ!」


 触手は俺の体に触れるだけで弾けて消え去っていく。


「俺はフリーターで、勇者の太郎だああぁ!」


 金色に輝く勇者の紋章が隈取のように顔に浮かぶ。


「ひいいっさつ! バサラ天掌!」


 金剛の力を宿した手が一際強く輝いた。


「光の彼方に消え失せろぉぉ!」


「ギィエエェェェェ!」


 白銀に燃える手を混沌の怪物に打ちこむと、巨人のような掌が怪物の体に刻まれた。

 そのまま巨大な手は怪物を押し潰しながら光の粒子に変えて浄化していく。


 怪物の呻き声は少しずつ小さくなり、あとには静寂だけが残った。

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