夢のようなご家庭で
永遠なんてない。
それは頭の片隅、どっかで理解はしてたけど、いざそれに直面するとちょっと惜しいなと思ってしまう。
夕食を終えて部屋で一人、適当に選んだラジオ放送を流しながら絵を描く。キャンドル・コーヴは余所に、記憶を頼りに色々とスケッチを始める。
僕は別に芸術大学を目指してる訳でも、絵を仕事にしようとしてるわけでもない。絵はどれだけ行っても趣味だし、そもそももっと明瞭でしっかりと安定した収入が入る仕事を選びたいんだ。
だから、ってわけじゃないかもしれないけど、画材に拘りを持ったことは、少なくともここ数年はない。スケッチブックもシャーペンも全部百均で買ったものだ。
二年生に上がった時に美術系を選ぶ人もいるけど、総じて変わり者ばっかりだ。そうじゃない人は二年生としての一度目の秋を過ぎることなくどこかを壊す。結果変わり者になる。
僕は変わり者じゃない。ただの根暗な人間だ。だからそんなに絵に本腰を入れられる気がしない。
ただ、ただ……羨ましいなとは思う。絵の実力だけで言えば僕よりも下手な人も何人かいるうけどお、そのどれもが芯を、背景を持ってる。どんな経緯で、どんな気持ちで描かれたのか、何となくだけど僕でもくみ取れる。そんな説得力のある絵に憧れている。ただ、だけれどやっぱり僕には縁遠い存在だ。
もっと多くの経験をしていれば。もっと数奇な人生を辿っていれば絵で人を感動させられるのだろうか。
まぁ、そもそも絵を仕事にして食っていける保証なんてない。それ以前い、それを認めてくれる父親じゃないから説得も大変だろう。
「は~……何も考えなくていいなら」
熟考しすぎる悪い癖が出ている。
そこいらに這いつくばってる芋虫や、そこいらで啄んでる烏なんかを見て羨ましいとさえ思ってしまうあたり、相当気を落としているんじゃないか。
嗚呼、もっと、もっともっと、中途半端を許さない性格であったのであれば、そうであれば、僕は何も考えずに、何にも惑わされずに生きれたのかもしれない。ただ、無心で、無言で敷かれたレールを這いつくばるようにして歩く。その方が、幾分かマシだろう。
今日私が家を出たのは学校の一度だけ。部屋を出たのはトイレの一度だけ。
缶詰にされた私の心が開いたのは、たったの一度だけ。
悠真くん。今何してるのかな。
そのことを口に出してはいけない。思うだけで留めなければあの意地悪な家来が何時何処で両親に言うか分かったもんじゃない。今だってチークの扉越しに聞き耳を立てているかもしれない。
疑心暗鬼になる程度には、私は狂ってる。キチガイにはなれていない。
妹たちは今も勉強に勤しんでいるんだろうか。死に物狂いで高校受験する千恵と、これまた死に物狂いで中学受験をする香澄。目を血走らせて、嗚呼もう、口から涎が出ているのさえ目に浮かぶ。手はどうんってる?ペンの持ち過ぎで馬鹿げた硬さになってるんじゃないか。足は反面死人のように細いのではないか。
そんな、まるで宇宙人みたいな妹たちを見て親は喜ぶんだ。成績さえ良ければ。
名門中学に入って、名門高校に入って、そして日本トップレベルの大学に入って……
嗚呼、なんでそんな絶対ルールに縛られなくちゃいけないの!? 私は私のしたいことをしたい。たったそれだけの願いなの。
ゲームセンターってどんなところなのか。カラオケは歌うところだっけ? 夢は膨らむ。膨らませるだけなら酸素も何もいらない。それを浮かすには、手から離れないといけないんだ。
目の前の科目に集中が出来ない。誘惑がなければ、って言って教材と家具以外全てを許さなかったあの阿呆の代表みたいな母親のせいで逃げようにも倒れように勉強、勉強、勉強……
いっそ、キチガイにでもなろうかな。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
さて、この二つの家計、悠真の方は見たことある方はいるのではないでしょうか? 一般だけど中途半端にいろいろと厳しいみたいなのをイメージしました。美香の方は話で聞いた友人の私生活を更に厳しくした感じなので、これほどの家庭は流石に無いと信じています。
では、次回。次はもうちょっと早めに出すよう尽力します。




