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Scene6

 地平線から伸びる茜色の光が社の中に差し込み、一人の生徒の顔を照らした。ショートカットの髪と中性的な容姿をしており、見る人によっては男子と勘違いするかもしれない。だけど、制服のスカートというドレスコードと、すらりと伸びる脚が、スレンダーな女性であることを伝えていた。


 夕日に顔を照らされた彼女、杏香きょうかは瞼をうっすらと開け、体を起こそうとしたが、手足を縛る縄に邪魔をされ、埃の被った床に倒れた。


 しばらくすると社の戸が開いた。


 開いた戸の先にはポニーテールの少女が立っている。ポニーテール少女は顎のホクロに指を当て、


「元気そうでよかった」


 杏香は目を見開いた。


きよら、いい加減放しなさい。」


 ポニーテールの少女、清はニコニコと笑みを浮かべ、杏香に歩み寄った。


「杏香ちゃんが悪いんだよ。私の人生を賭けたプロジェクトを邪魔するから」


「海路や霞や胡桃に自分のチョコ配らせるなんて間違ってるよ。そうやっていろんな人からもらったように見せかけて、ぬか喜びさせて何が楽しいの?」


 清は頬をヒキツらせた。


「だからって私が大地くんに配ってねって渡したチョコを持ってこないで、杏香ちゃんの手作りチョコを下駄箱に入れようとするって酷いよね。同じ色の包みだから気づかないと思った? 私の包みは皺が寄ったりしないから。そういうことだから、清ちゃんには今日一日、後者裏の社で眠ってもらいました。あ、杏香ちゃんのチョコは胡桃ちゃんに処分してもらったから」


「他のみんなが嫌になるほど大地に配るなら、私くらいはあいつにあげた事実があっても良いじゃん。少なくとも二人からチョコもらったくらいにはなるでしょ?」


 すると清は杏香の髪を掴み罵った。


「私だけがチョコをあげてる状態にしないと意味がないんだよ。今年のチョコは結糸様にお供えしてあるんだもん」


「結糸様って……あんなの都市伝説でしょ?」


「都市伝説じゃないよ? その証拠に私のママと大地くんのパパが結ばれた。二人は結糸様にお供えしたチョコで結ばれていたからこそ、遠回りであれ最終的に結ばれたんだよ……ねぇ、何で私の邪魔をするの? 私の人生を壊して何が楽しいの?」


 杏香は苦笑した。


「清こそ、大地の人生を壊して何が楽しいの?」


 そう言ったとき、清が表情を堅くした。


「そっか、きっと杏香ちゃんは心を壊されたことがないから、そういうこと平気で言えるんだ……いいよ、人生を壊される痛み、教えてあげる」


 そう言うと清は鞄からナイフを取り出した。


 そして彼女は制服の袖を捲り、痣だらけの腕を晒した。


「私のように、体をズタズタにされて、男の人達から気持ち悪そうに見られればきっと私が必死な気持ちがわかるよ」


 清はナイフの側面で杏香の首筋をナゾり、襟を湿るリボンを落とした。杏香も観念したように顔を背け、そっと瞼を伏せた。


「待て!」


 社の入り口から、男子生徒の声が聞こえたのはそのときだった。清と杏香は社の入り口に向き直り、そしておそらく、それぞれの理由で涙を流した。


 清はその男子生徒、大地に尋ねた。


「大地くんどうして?」


 大地は一度視線を泳がせ、返答した。


「お前はオレの妹だからだ」


 瞬間、清は腰が抜けたようにぺたりと座りこんだ。

 そして清の手からこぼれ落ちたナイフが杏香の足下に滑った。

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