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Scene4

 三つ目のチョコレートを獲得したのは、大地が鞄を持って部活動へ向かう途中だった。


 大地が渡り廊下の角を曲がろうすると、向かいから飛び出した黒縁メガネをかけた女子生徒と衝突した。大地の胸板に弾かれた女子生徒は尻餅をついた。その拍子に彼女が持っていた二つの包みが廊下を滑り、窓から差し込む光に照らされた。


 メガネをかけた少女は相手が大地と気づくと。慌てて二つの包みを拾い、大地の視界から隠すように両手で抱えた。包みに気をとられているからだろうか、彼女は脚を広げ過ぎてミルク色の腿を際どく露わにしていた。


 大地は視線を彼女から反らし、


「ごめんね胡桃ちゃん。それ誰かにあげるチョコだよね……大丈夫?」


「私こそすみません。チョコは大丈夫です」


 胡桃はゆっくり立ち上がると、大地の鞄のファスナーを開け、包みの一つを押し込んだ。


「一つは大地さんのです。責任とってください」


「お、おう……責任? もう一つはいいのか?」


 すると胡桃は大地を上目遣いで見て、


「それについてはお話を聞いてほしいです」


「え? あぁ、いいけど……」


「カフェテリアでお願いします」


 胡桃は大地をカフェテリアに引っ張った。

 放課後のカフェテリアは閑散としていた。胡桃は人目の付かない隅の席に大地を座らせ、意を決したように言った。


「大地さんは、清のことどう思いますか?」


「どうって、可愛い妹だと思うけど」


「清と大地さんは義理の兄妹ですよね?」


 大地は深く息をついた。


「三年前、清が家族になったばかりの頃は、かなり意識した。一人っ子だから、年の近い異性と一緒に暮らす想像とかできなかったし、清が可愛いから、間違いが起こればと妄想したこともある」


 でも、と大地は続けた。


「清は実父に暴力を受けて、男性にトラウマを抱えている。今年になってようやくオレの目を見て話すようになったんだ」


 そして大地は我に帰り、照れ笑いした。


「だから、オレは清に寄り添える兄になりたいんだ。清のことは可愛い妹だと思ってる」


「……大地さんは優しいですね」


 胡桃は頬杖をついて、自嘲した。


「私は清と良い友達でいたくないんです」


 大地は顔をしかめた。


「清と喧嘩でもしたの?」


 胡桃は首を横に振った。


「私は清に片思いしています」


 大地は虚を突かれたように固まった。だけど数秒すると頬を綻ばせた。


「……そっか」


「バカにしないんですか?」


「好きな気持ちをバカにはしないよ。妹が可愛いのはオレもよく知ってるからな」


 すると胡桃は目を潤ませた。


「大地さんなら結糸ゆいと様にご縁を結ばれても許せちゃうかも」


「結糸?」


「知らないですか? この学校の裏には結糸という神様の社があって、バレンタインの日にチョコをお供えすると送り主と送った相手を運命の糸で結んでくれるっという伝説があるんです。まぁ、社の中に入ると罰が当たるとも言われているから誰もお社には近寄らないんですけどね」


 そして胡桃は席を立ち、大地に頭を下げた。


「お話聞いてくれてありがとうございました」


 胡桃は鼻歌交じりででカフェテリアを退室する。そんな彼女の後ろ姿が見えなくなるまで見送った後、大地は席を立った。


 胡桃がいなくなったカフェテリアには大地だけになり、時が止まったように静かになった。


「オレも部活にいこうかな」


 そう言って、カフェテリアを退室しようとしたとき、足下でチリンと鈴の音が聞こえた。大地が脚を見下ろすと、そこには三毛猫がいた。三毛猫は大地の脛に頬を寄せ、唸っていた。


「ちょこくれちょくれちょこくれちょこくれちょこくれちょこくれちょこくれちょこくれちょこ」


 大地は悲鳴をあげた。


 その後、この猫は、子役のような甲高い声で自分が豊穣の神結糸であることを告げ、チョコと引き替えに送り主と運命の糸で結んであげると大地に言った。


 それを聞いた大地はチョコをやるからオレの家に来いと言い、部活動を休む旨を海路に一方的に伝え、帰宅したのだった。

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