第58話「初めての共同作業」
「本当に何も無かったんでしょうね?」
「しつこいなぁ、無いっての」
帰りの車の中。
羽生さんと楓花はこうしてずっと言い合いをしており、隣に座る星野さんはずっとその話を聞きながらうんうんと頷いていた。
そして柊さんは、そんな三人の様子を見ながら楽しそうに微笑んでおり、そんな何だか行きの時より距離が近づいている彼女達の様子に、俺は自然と笑みが零れてきてしまう。
柊さん家の別荘で一日過ごして、特に何があったわけでも……なくは無いけど、この一日で色々得られるものが沢山あったように思う。
そして最寄り駅に到着した俺達は、そのまま車から降りて柊さんのお母さんにお礼をする。
「どうも、色々とお世話になりました。とても楽しかったです」
「あらあら、いいのよ全然。これからも麗華のこと宜しくお願いしますね」
「はい、勿論!」
上品に微笑む柊さんのお母さんは、とても同年代の娘を持つ母親だとは思えない程、改めて綺麗なお姉さんという感じだった。
「何緊張してるの」
「鼻の下伸ばしてさ」
「駄目ですよぉ~……」
「うふふ、わたしも大人になったら、母みたいになるかもしれませんよ?」
そして四大美女と呼ばれる美少女達は、口々に俺に対しておちょくるようなことを言ってくるのであった。
◇
こうして一日楽しんだ俺達は、駅で解散となった。
星野さんは同じ方向なのだが、これから寄って行きたいところがあるとの事でそのままお別れした。
時計を見るとまだお昼の12時前だったため、このまま真っすぐ帰るのもちょっと勿体ない気がした俺は楓花に声をかける。
「どうする?昼飯でも食ってくか?」
「うん、行く」
即答する楓花。どうやら楓花も同じ考えだったようだ。
とりあえず駅前の飲食店が立ち並ぶエリアを歩いていると、道行く人の視線がこれでもかってぐらい楓花に集中しているのが分かった。
――そう言えばこいつ、四大美女なんだよな
そう、昨日とか特に当たり前になり過ぎていたのだが、一緒にいた女の子は全員この町では超が付く程有名な美少女達だったのだ。
そんな四大美女と、まさか一つ屋根の下寝泊りしただなんて、とてもじゃないけど話せないよなと俺は肝を冷やした。
「ねぇ、あれがいい」
「あれってなんだよ」
「だから、あれよ」
楓花の指さす先を見ると、そこはこの辺では結構有名な喫茶店だった。
何であそこなんだろうと思いながら、更に楓花が見つめる視線を辿ってみる。
するとその視線の先には、有り得ない大きさのパフェのサンプルが展示されていた。
「いや、まさかとは思うが……」
「二人で食べれば食べきれるって!行こっ!」
そう言って楓花は、俺の制止も聞かずに俺の腕を引っ張ると、そのままその喫茶店の中へと入ってしまったのであった。
◇
目の前に置かれる巨大なパフェ。
実物を見ると、こんなに大きかったのかと震えてくるレベルだ。
何が悲しくてこんな巨大パフェを昼ご飯にしなければならないのかと思ってると、楓花は嬉しそうにその目をキラキラと輝かせながらパフェを写真に収めていた。
「凄い!でかい!」
「そうだな……」
「一体何キロカロリーあるのかね!?」
「さぁな、太るぞ」
「わたし太らない運命の元に生まれてるから大丈夫でーす!さっ、食べよう良太くんっ!」
すっかりご機嫌な様子の楓花は、そのままスプーンでアイスの部分を掬って一口パクリと咥えると、幸せそうに唸り出す。
そんな楓花を見ていると、まぁたまには甘いものもいいかと思えてきた俺は、諦めてパフェを一口食べてみる。
すると確かに、大きくて大味かと思えばしっかりパフェで、中々美味しかった。
「美味しいでしょ!?」
「ああ、美味いな」
「だよねー!最高ぅ!」
俺も美味しいと返事をすると、凄く嬉しそうに微笑む楓花。
そんな無邪気に微笑む楓花を見ていると、確かに美少女なんだよなと思えてくる。
もしこれが妹じゃなくて、自分の彼女なんだとしたら……って、何考えてるんだ俺は!
思わず変なことを考えそうになる自分を戒めながら、俺はとりあえずアイスが溶けてしまう前に目の前のパフェを攻略する方が先決だと、まずは急いでパフェを食べ進める事にした。
◇
「うう、ぎもぢわるい……」
真っ青な顔をしながら、机に額をくっ付くける楓花。
パフェは残り5分の1まで減っているが、二人で食べても食べきれない量だった。
俺も若干気持ち悪くなりながらも、残すのは悪いから自分のペースで何とか食べ進める。
もう、感覚的には一年分のクリームを一度に食べた気分だ……。
「……よし、食べる」
「おい、大丈夫か?」
「今はこれを食べきるミッションの途中よ。クリアするまで帰れないから――」
なんだそれと思ったが、この戦い楓花は一歩も引くつもりはないようだ。
だったら俺じゃ無くて自分で責任持って全部食えよと言いたくもなるが、流石に女の子一人でこの量は無茶があるから手伝ってやる事にした。
そしてそれから10分以上かけて、何とかパフェを食べきった俺達。
「……お、終わったぁ」
「そうだな……」
満腹で、ただただ気持ち悪い……。
しかしそれでも、食べきった事で何とも言い難い達成感のようなものがあった。
そして目の前で瀕死状態になっている楓花は、すっかりやつれた顔をしながらふっと微笑んで一言呟く。
「は、初めての共同作業、だね……へへ……」
そんな、あまりにも残念すぎる妹の謎発言に、俺は思わず吹き出してしまったのは言うまでもない。
食べ過ぎは良く無いよ、へへっ




