第56話「部屋割り」
「そろそろ眠くなってきたな……」
欠伸をしながら、俺は呟く。
すると俺の欠伸は伝染し、他のみんなも欠伸をかみ殺していた。
「そうですね、今日は朝から行動していたし疲れましたね。そろそろ休みましょうか」
そんな柊さんの提案で、少し早い気もするけど今日のところはそろそろ休む事にした。
正直昼からBBQとか色々やったおかげでクタクタだったから、今なら三秒で寝れる自信がある。
「よし、じゃあ俺の部屋はどこかな」
「良太さんは、二階の一番奥の部屋を使って下さい。母のいる部屋と二部屋あるので、部屋割りしましょう」
そこで俺は、この別荘の大体の間取りから、嫌な予感がして質問する事にした。
「――えっと、二階って全部で三部屋?」
「ええ、そうですよ」
ニッコリと微笑みながら即答する柊さん。
つまり、柊さんのお母さんが一室使っており、残りは二部屋。
そして奥の部屋を俺が使うとして――。
「なので、良太さんはお一人と相部屋して頂く形になりますね」
まるで俺の考えを先読みするように、柊さんはそう補足してきた。
――待て待て待て待てっ!!
話が違う。ちゃんとそれぞれ部屋があるって言っていたじゃないか。
「ちゃんと別れて寝る分の部屋はありますよ?」
そしてまた、そんな俺のクレームすらも読み取った柊さんに先回りされてしまう。
もしかしたら柊さん、メンタリストか何かかもしれない……。
「成る程、話は分かったぁ!!」
すると突然、楓花が立ち上がりドヤ顔で何かを悟っていた。
「妹のわたしが良太くんと相部屋するから、他の三人はもう一部屋使うとよろしい!!」
そして何故か勝ち誇ったかのように、そう宣言をする楓花。
その宣言に、勝手に決められるのが気に食わないのか星野さんと羽生さんは不満そうな表情を浮かべる。
そして柊さんだけは、そんな楓花を見て楽しそうにコロコロと笑っているのだが、それでも今回の柊さんは同意はしなかった。
「ブラコンやシスコンじゃあるまいし、高校生にもなって兄妹でとか恥ずかしいでしょ」
「そ、そうです!民主主義に乗っ取って、ここは公平にジャンケンすべきですっ!」
羽生さんと星野さんの抗議に、楓花は顔をしかめる。
「は、はぁ?恥ずかしくないし、それを言うなら兄妹でも無い相手と寝る方が恥ずかしいでしょ!」
そしてここで、年に一回あるか無いかの楓花の正論パンチが飛び出す。
その正論に、羽生さんと星野さんは言い返したいけれどぐぬぬと言葉が詰まってしまっていた。
「でも、それじゃ面白くないじゃないですか」
こうして楓花の正論パンチで幕を下ろそうとしていたこの不毛な争いだが、まさかの柊さんから一石が投じられた。
「いや、こういうのは面白いかどうかじゃなくて」
「良太さんにも聞いてみましょうよ。どうです?公平にジャンケンで部屋分けしたいと思うんですけど?」
急に話を振られた俺は困惑する。
どうと言われても、こんな四大美女の誰かと俺が一緒の部屋で寝るだなんてそんなの……、
「ジャンケンにしましょう」
俺が即答すると、楓花はまるで信じられないものを見るかのように俺を睨みつけてくる。
しかし残りの三人は、嬉しそうにハイタッチをしていた。
まぁ、正直に言って下心が無いと言ったら嘘になるが、こういう場面ではこういうゲームは付き物なのだ。
だから、そんな普通の男女がするような遊びを、特別な彼女達にも楽しませてあげたい。
そんな名目のもと、俺はまさに一石二鳥の提案を二つ返事で飲み込んだのであった。
――まぁ、いざとなればここで寝ればいいしな
丁度手頃なソファーもあるし、一晩過ごすには十分だと思った俺は、眠たさで思考が低下していた事もありそんなに深くは考えていなかったのであった。
◇
「ジャンケンポン!」
四人のジャンケンが行われる。
みんな何を思っているのかは分からないが、並々ならぬ気迫が感じられた。
それが俺と相部屋になるためだったら光栄な事だが、仮にもし逆の意味だったらと思うと中々ダメージがでかい。
そして普通に考えてそれは後者の方が濃厚であり、今更ながら何故俺はこんなゲームを受け入れてしまったのかと少し後悔してしまう。
――やっぱりソファーで寝るかな
そんな事を考えながら俺は、その気まずいジャンケンの行く末を見守った。
「っしゃあ!!」
そしてジャンケンの結果、勝ったのは楓花だった。
結局俺の相部屋は楓花に決まり、それであれば俺としても気兼ねが無いなとほっと胸を撫でおろす。
「まぁ当然よね!わたしならこの間も一緒に寝たし、良太くんも平気でしょ?」
しかし楓花は、恐らく無自覚だとは思うがとんでもない言葉を口にする。
たしかにこの間一緒に寝たけれど、それは本当に睡眠を取るための寝るであって、変な意味の寝るでは断じてない。
それでも、さっきの言い方だとそうは聞こえないかもしれないし、実際他の三人のリアクションからして非常に不味い感じだった――。
「ふ、楓花さん?」
「ふえぇ……」
「あ、貴女……」
三人のリアクションに、楓花自身も思っていたそれじゃない事に首を傾げると、ようやく自分の生み出した誤解に気付いたのか顔を真っ赤にする。
「ね、寝たってそれは、ちょ、ちょっと添い寝しただけであって変なあれじゃないからっ!」
そして、慌てて訂正をする楓花。
その言葉で無事誤解は解けたのだが、尚も顔を真っ赤にする楓花は俺の方を睨みつけてくる。
「そうだよねっ!良太くんっ!」
「あ、ああ。勿論」
「そ、それじゃ行くよ!み、みんなおやすみっ!!」
そして楓花は、そう言って俺の腕を掴むと、そのまま照れ隠しをするように二階の部屋へと引っ張るのであった。
調子に乗り過ぎて、つい口が滑っちゃった楓花ちゃんでした。
でも、やっぱり相部屋は妹しか勝たん!なのでした




