第54話「ババ抜き」
あと片付けを終え、すっかり日も暮れた頃。
昼から続いたBBQですっかり胃が満たされた俺達は、とりあえずみんなでトランプを楽しむ事にした。
ちなみに少し休んですっかり元気になった柊さんのお母さんはというと、一人作業があるとの事で自室へ向かってしまっている。
なので、残された四人プラス俺でババ抜きをする事となった。
「せっかくですから、罰ゲーム決めませんか?」
カードを配りながら、楽しそうに柊さんがそんな提案をしてくる。
「罰ゲームって、何するの?」
「んー、そうですね。――では、ビリの方が一番の方の言う事を一つ聞くっていうのはどうでしょう?」
「賛成」
「異議なし」
「や、やりましょう!」
微笑む柊さんの提案に、何故か他の三人は即答で賛成した。
全員、自分が負ける事なんて微塵も考えていないのだろうか。
そんな三人のあまりのノリの良さには少し驚いたが、俺もそのぐらいなら断る理由も無いため賛成しておいた。
こうして、罰ゲームをかけたババ抜き対決がスタートした。
◇
順番をジャンケンで決めた結果、楓花、柊さん、星野さん、俺、羽生さんの順で引いていく事となった。
みんな勝ちたい気持ちが強いようで、一枚一枚引くのに集中しているのがちょっと面白い。
そんな意外と負けん気の強い四人に囲まれながらも、俺は気楽な気持ちで星野さんからカードを引いていく。
すると、カードを引く度に揃っていくため、俺の手札はどんどん減っていく。
こういうのは、意外と無欲な人程上手く行ったりするものなのだ。
「うう、良太さんが引く度に減っていきます……」
「ちょっと!もう少し頑張りなさいよ!」
そんな状況に弱音を吐く星野さんに、敵ながら激を飛ばす羽生さん。
そして残りの二人も羽生さんの意見に、うんうんと頷いていた。
――どうやらこいつら、とりあえず俺にはあがらせたくないみたいだな
だったら俺は、この勝負尚更負けるわけにはいかなかった。
ここは何としても一番であがって、お返しに四人の内誰かに恥ずかしい事をやって貰おうじゃないかと企んだ俺は、ここから集中する事にした。
そして、ついに俺の手札が残り一枚となった。
俺の次に数が少ないのが柊さんの三枚だから、未だ結構余裕がある状態でのリーチとなった。
「良太くん、今何のカード持ってるの?」
「は?言うわけないだろ」
「――小さい男ね」
俺の手札を聞き出そうとする楓花に、当たり前のことなのに小さい認定をしてくる羽生さん。
全くもって理不尽な話だが、そんなものは一旦置いておいて、俺はこの勝負に勝つ事だけを考えた。
そして、俺の番が回ってくる。
星野さんの手札は残り五枚で、もしかしたらこれが最後の一回になるかもしれないため、その五枚の上にゆっくりと手を動かしながら星野さんの反応を伺った。
すると、左から二枚目の上に手を持っていくと、星野さんは露骨に嬉しそうな反応を見せる。
そしてそのまま隣のカードへ手を動かすと、これまた露骨に残念そうな顔をするのであった。
――駄目だこの子、素直すぎる
そんな星野さんに若干の憐れみを感じつつ、俺は負けるわけにはいかないため一番右のカードを引いた。
「――マジかよ、上がりだ」
すると、そのカードは俺の手持ちのカードと同じ数字だったため、まさかのストレートで上がる事が出来たのであった。
「不正だ!」
「不正よっ!」
「あらまぁ」
「ふえぇ」
見事上がった俺に対して、四人それぞれの反応を見せる。
しかし、何を言われても俺は不正なんかしていないし上がりは上がりだ。
だから俺は、そんな敗者の四人に向かってゲームを面白くするためにも一言告げてやる事にした。
「――さて、あとはとびきりの罰ゲーム考えとかないとな」
我ながら嫌らしく微笑みながらそう四人に告げると、四人は顔色を変えてババ抜きへと戻る。
是が非でも自分がビリになるものかと、四人とも分かりやすく焦っている様子を俺は楽しく眺めながら戦況を見守る。
しかし、ここでもやっぱり分かりやすい星野さん。
羽生さんが憐みの笑みを浮かべながら俺の次に上がると、その次に柊さんが上がり、最後は星野さんと楓花の一騎打ちとなった。
楓花は最後の一枚で、星野さんは残り二枚。
つまり、ジョーカー含め残り一組までもつれ込んだこの戦いも、次の楓花の引き次第で勝負が決まる。
楓花が左のカードにそっと手を伸ばすと、星野さんは難しい表情を浮かべていた。
そして楓花がそっと右のカードへ手を動かすと、若干口角が上がる星野さん。
「フッフッフ、この勝負貰ったぁ!!」
そんな星野さんの変化を見逃さなかった楓花は、そう言って左のカードを引き抜いた。
「ああ!!」
そして星野さんは悲しみの声を上げると共に項垂れてしまった。
「ってことで、星野さんの負けね!」
「はいぃ、罰ゲームは何でしょう……」
すっかり落胆した様子の星野さんが、力なく罰ゲームは何かと聞いてくる。
そんな星野さんを見ていると流石に可愛そうになってきた俺は、あまりに不憫だし罰ゲームのハードルを下げてあげる事にした。
「んー、じゃあ肩揉んで貰おうかな?」
「え?」
「肩揉み、宜しくね」
俺がそう罰ゲームを告げると、星野さんはキョトンとしていた。
そしてようやく言われた事を理解した星野さんは、何故か嬉しそうに微笑む。
「そ、そんなのでいいんですか?」
「いいよ、宜しくね」
「むしろこれって――いえ、では失礼しますっ!」
こうして俺は、それからみっちり星野さんという超絶美少女に肩を揉んで貰うという特別なご褒美を味わう事となった。
「良太さん、どこか凝ってるところはありませんか?」
「んー、じゃあもう少し右肩の付け根の辺りを」
「うふふ、はい♪喜んでっ♪」
「あー、そこそこ!気持ちいい~」
罰ゲームだというのに、心なしか嬉しそうに肩を揉んでくれる星野さん。
こんな事もし学校のみんなに知られたら絶対やばいだろうなと思いながらも、肩に触れる星野さんの手の感触に俺は正直ドキドキさせられっぱなしだった。
そしてその様子を、残りの三人は何故かちょっと不満そうに見てくるのであった。
――まぁ、あの星野さんに肩を揉まれてるんだから当然か
そんな誰しもが羨むこの状況を、俺は殿様感覚でたんまりと堪能したのであった。
うん、罰ゲームだから仕方ないですね!!




