第5話「呼び出し」
「あの子……」
校門をくぐったところで、俺は一人の少女を見つけて思わずそんな言葉を呟いてしまったのだが、隣の楓花さんは聞き逃してはくれなかった。
「……誰の事かな?」
「あ、いや、なんでもないよ」
「ウソ、今あの子の事見てた」
「うっ……!!べ、別に楓花には関係ないだろっ!!」
俺が言い訳をするものの、楓花は何かを疑うようにじと目で俺の事をじーっと見てきた。
でも、例え見ていたとしても今言葉にした通り妹にそんな顔される筋合いはないはずだ。
俺はたまたま前を歩いていた、柊麗華をつい見てしまっただけなのだ。
「あの子の事、気になるの?」
「え?いや、そんなわけじゃないけど、ただあの子有名人だから」
「へぇ、有名なんだ。なんで有名なの?」
「それはお前――」
四大美女の一人だからだろと言いかけたが、ギリギリのところで俺は口をつぐんだ。
よく考えなくても、こちらの楓花さんもその四大美女の一人だったのだ。
どうやら楓花は柊麗華の事は知らないようだし、日頃の言動からしてもしかしたら自分が四大美女なんて呼ばれている事すら知らないのかもしれない。
そう思ったら、果たしてその言葉を当事者である楓花に言っていいものかどうか、俺は迷ってしまったのであった。
「ん?何かな?」
「――いや、ほら、見ての通りすっげー美人だからだろ」
結果、俺は言葉を濁した。
美人だから有名、これでも結局は同じ話だから、わざわざ四大美女なんて言葉を用いる必要は無かったのだ。
だが、そんな俺の言葉を聞いた楓花はというと、何故か立ち止まったかと思うと、その頬っぺたを不満そうに膨らませているのでだった。
そして当然というべきだろう。
他にも登校してくる人達は、何故か校門前で頬っぺたを膨らませている四大美女の姿に驚きつつも、しっかりとその姿に目を奪われているのであった。
しかし、そんな事などやっぱり楓花さんには関係無いようで、尚も不満そうに膨れてこちらを睨んでくるのであった。
「お、おい、何だってんだよ皆見てるから」
「関係ないし」
「お前なぁ……」
「あたしの方が可愛いし」
そして楓花は、俺が美人だと言ったのが不満なのか、あろう事かあの柊麗華と張り合いだしたのである。
だがこんな些細な理由で、頂上決戦を始めるのだけは止めて頂きたい。
「わ、分かったから、楓花も可愛い!超可愛い!」
「あの子よりも?」
「あ、あぁ、そうだ!だから早く行くぞ!」
「……うむ、まぁ良しとしよう。でも、今のは楓花ちゃんポイントマイナス1ポイントだからねっ!」
そう言って楓花は、満足したのかまるで何事も無かったかのように先を歩き出した。
「まったく、朝から勘弁してくれよなぁ……」
こうして、今日も俺は朝から楓花に振り回されてしまうのであった。
◇
昼休み。
俺は一年の頃と同じように、晋平と机をくっつけながら弁当を食べていた。
案の定、朝は晋平含めクラスのみんなに色々と質問攻めにされたりもしたが、昼休みにもなれば流石に落ち着いていたので一安心した。
「にしても、良いよなぁあんな可愛さが限界突破したような妹がいてよ」
「うるさいだけだぞ」
「は?自慢かよチクショー」
「マジなんだけどな」
そんな他愛のない会話をしながら晋平と弁当を食べていると、突然教室の入り口の方から凛とした綺麗な声が聞こえてきた。
「あ、いました」
その綺麗な声に思わず振り向くと、そこには何故かあの柊麗華の姿があった。
何で四大美女がこのクラスに!?と、クラス中の視線が一斉に彼女へと集まる。
中にはそのあまりの衝撃に驚いたのか、箸を落としてしまっている人までいた。
それだけ、実際至近距離で見る柊麗華の姿は、この世の美を集約したような完璧さすら感じられる程美しかった――。
すると柊麗華は、上級生の教室だというのにまるで物怖じする素振りも見せずそのまま教室の中へ入ってきたかと思うと、何故か俺の目の前で立ち止まった。
「少し、お話しさせて頂いても宜しいでしょうか?」
そして柊麗華はニッコリと微笑みながら、話をしたいと言い出したのである。
――誰と?えっ、俺と!?
俺は頭の中が真っ白になった。
同じ四大美女でも、妹である楓花と話すのと、初対面の柊麗華と話すのとでは雲泥の差がある。
これが、四大美女の圧か――。
俺はそんな事を肌で感しながらも、しかしこのままで居るわけにもいかないと思い、なんとか震える口を開いた。
「――お、俺でしょうか?」
「はい、貴方です。ここだと少々目立ちますので、ついて来て貰えますか?」
そう言うと、柊麗華は優雅に廊下へ向かって歩き出した。
クラス、いやクラスの外からも視線が集まる中、俺は言われるがままそんな柊麗華のあとについていくしかなかった。
去り際、晋平が信じられないものを見るような顔をしながら「お前は魔王かなんかなのか……」と呟いたのを、俺は聞き逃さなかった。
本当に我ながら、自分が何者なのか分からなくなってきた。
楓花については妹だから仕方がないが、なんであの柊麗華が俺の事を訪ねて来たのか全く理由が分からなかったのである。
◇
校舎裏の、人気が無いところまでやってくると、柊麗華は立ち止まり「ここでいいでしょう」と呟いてこちらを振り向いた。
ここまで来る間、学校中の視線を集めてしまっていたのは言うまでもない。
「え、えーっと、それで俺なんかに何の用でしょうか?」
俺は恐る恐る柊麗華に質問する。
そろそろ、ここまで連れてきた理由を確認したかった。
「貴方は、あの風見楓花さんと仲が宜しいようで」
「楓花ですか?えぇ、まぁ」
仲が良いと言うか、妹ですからね。
「ですよね。そこで、貴方にお願いがあるのです」
「お願い?」
「えぇ、私、彼女と仲良くなりたいのです。ですから、間を取り持って頂けないでしょうか?」
なんと柊麗華は、うちの妹と仲良くなりたいと言い出したのであった。
こんな所まで呼び出されて何事かと思ったが、正直なんだそんな事かと安堵した。
――校舎裏に呼び出しって、もしかして告白!?なんて断じて期待してないからな
しかし、同じ四大美女が友達になりたがるなんてな。
いや、同じ境遇だからこそなのかもしれないな。
それに恐らく、まだちゃんと友達もいないであろう楓花にとっても、悪い話じゃないと思えた。
……でも、彼女は楓花の本当の姿を知らない。
だから本当の楓花を知った時、彼女はどう思うだろうか――。
そう考えると、手放しにオーケーしていいのかどうか俺には分からなかった。
「話は分かりました。ですが、決めるのは俺では無く楓花の方です。ですので、今日の放課後話の出来る場は作りますので、校門の所で待っていて貰えますか?そこから先は当人同士で話し合ってみてください」
結局、友達なんてものは周りがくっつけるものじゃないのだ。
当人同士の波長が合うか否かが大事なんだから、当人同士でコミュニケーションを取るしかない。
だから俺は、良いとも悪いとも答えずに、話が出来る場を提供する事にした。
「えぇ、勿論です。では、放課後ですねよろしくお願いします」
柊麗華はそう言うと、両手を合わせて本当に嬉しそうに微笑みながら、その頭をペコリと下げた。
そんな彼女の仕草とその微笑みには、人を惹き付ける魔法でもかかっているんじゃないかというぐらい、とにかく可憐で美しかった。
でも、話してみてやっぱりしっかりした子だなと思えたし、きっと悪い子じゃなさそうだ。
だから、これを機に楓花にとって良い友達になったらいいなと思いながら、俺は柊麗華と放課後の約束をしたのであった。
ついに、四大美女初のご対面!?
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こちら甘めのラブコメになっております!




