第48話「始動」
最近わたしは、毎日が楽しい――。
それは元々、趣味の延長で始めたVtuber活動でも得られていた感情なのだけれど、最近それとは違う楽しみが出来ていた。
これまで友達という友達なんて居なかった私にも、最近学校終わりにお友達と喫茶店に集まる時間ができ、それが今の私の中で大切な時間となっているのだ。
ただ集まってお話をするだけなのだけれど、同じく四大美女だなんて呼ばれる方々とは境遇が似ている事もあり、少し会話をするだけで自然と仲良くなる事が出来た。
それもこれも全て、たまたま知り合った男の子、良太さんのおかげだった。
良太さんはわたしの活動に理解もあるし、それにお友達まで紹介してくれた優しい人。
正直、これまでのわたしは異性の方とまともに会話をする事もままならなかったのだけれど、良太さんとなら自然とお話が出来るのが不思議だった。
だから、元々はそんなわたしのために会話の練習相手になってくれるはずだった喫茶店での集まり、皆さんと一緒にお話するのも楽しいのだけれど、たまには良太さんと二人きりでお話したいなという気持ちが日に日に強くなっている自分がいるのであった。
「あーあ、わたしも同じ学校だったらなぁ」
ベッドで一人横になりながら、ついそんな言葉が漏れてしまう。
今日はそんな事を考えていると、何だか配信をする気が起きなくてお休みさせて貰った。
横になりながらスマホを眺める。
画面には、同じグループで活動していて、良くコラボもする竹中のギャルゲー配信が流れる。
一生懸命ギャルゲーをする竹中は、とりあえず今日も残念だし今度いじってやろうと思う。
まぁそれはそれとして、わたしはゲームに出てくる女の子キャラ達の可愛さに目がいった。
――もし、このキャラがわたしで、相手の男の子が良太さんだったら
そんな妄想をしてみると、途端に顔が熱くなっていく。
――わ、わわわたし何考えちゃってるの、もうっ
でも、やっぱりもっと良太さんと仲良くなってみたいなと思ってしまう自分がいるのであった。
また一人メンバーが増えちゃったし、次の集まりではもっと積極的に話を振ってみようかなと決心しつつ、次会った時何て話を振ろうかとか色々シミュレーションしながら私は眠りについたのであった。
◇
「あ、愛花さん!おはようございますっ!」
「ええ、おはよう」
今日も朝から、わたしを見るなり近寄ってくる男の子達。
わたしが一言挨拶を返しただけで、嬉しそうに去っていく。
そう、わたしはいつだってみんなの憧れの的。
こうして人が自分の元へと集まってくる事にも慣れてしまっているわたしは、そのことに対して何の感情も湧いてこない。
挨拶をされれば普通に返すし、告白をされればお断りする。
彼らに何の興味も無ければ感情も無いわたしは、ただそうして受け流すだけだった。
でも、今日のわたしはそれが少しだけ嬉しかった。
理由は言うまでもない、昨日の出来事のせいだ。
わたしは噂のエンペラーと四大美女の姿をこの目で確認すべく、彼らのいるとされる高校まで足を運んだのだ。
その結果、目的通りちゃんとエンペラーと四大美女の全員と会う事が出来た。
だからわたしは、目的を達せられたし満足する――はずだった。
だけどわたしは、満足なんてしていない。
それどころか、敗北感のような何とも言えない感情まで湧き上がってくるのであった。
他の四大美女達は、予想の斜め上をいく存在だった。
負けているとは思わないが、それでも勝っているとも言い難い、それこそ同格と言える存在。
そんな彼女達と会話をする時間は、それなりに有意義なものだった。
でもそれだけなら、わたしはやっぱり知れた事に満足していたと思う。
じゃあ何故満足していないのかと言えば、それはエンペラーと呼ばれる男の子の存在のせいに他ならない。
――このわたしを前にして、全く動じないなんて
彼のわたしに対する態度を思い出す。
これまで出会った異性は、さっき挨拶をしてきた男の子達のような反応をするのが普通だった。
わたしの事を女神様と崇め、一定の距離を取りながら恐る恐るお近づきになろうと接する。
そんな特別が、わたしにとっては当たり前だったのだ。
けれど、彼はそんなわたしに対してあまりにも普通すぎたのだ。
普通なのにおかしいなんていうのは、我ながら矛盾していると思う。
それでも、わたしはそうして普通でいられた彼に対してどうしても不満を抱いてしまう。
そして不満と共に、一つの欲求が自分の中で生まれる。
――なんとかして、彼を分からせたい
他の四大美女に打ち勝つためにも、わたしは彼を攻略したいという欲求が段々と大きくなっているのであった。
そう思いながら、わたしはそっとスマホに表示されたメッセージを確認する。
『羽生さんも、来れる時はまた一緒にお話しましょう』
それは、わたしも追加された四大美女とエンペラーによるグループチャットだった。
我ながらどんな面子よと、誰かが知ったら驚いて飛び跳ねるに違いない豪華面子でのやり取り。
そこでも、エンペラーと呼ばれる一つ年上の男の子はわたしの事を普通に誘ってくる。
だからわたしは、『でしたら、参加します』と一言返事を送信した。
今はそうでも、いつかわたしに個別でメッセージを送ってきちゃうぐらいわたしの事を特別に思わせてやる。
そんなやる気に満ち溢れてくると共に、またみんなに会うのが少し楽しみになっている自分がいるのであった。
動き出す、ラブコメ。
決戦の場は、いつもの喫茶店――。




