第47話「天使モード発動」
パァーン!
部屋で一人PCをいじっていると、物凄い音がした。
驚いた俺は、咄嗟に音のする方へ視線を向ける。
するとそこには、部屋の扉をあける楓花の姿があった。
いつものジャージを着て、片手で抱えるようにお菓子と飲み物を手にしており、完全にこれから俺の部屋でくつろぐ気満々といった感じだった。
「お、お前なぁ。ノックどころか悪化してるじゃねぇか……」
「シャラップ!!」
悪化していっている楓花を注意すると、何故か叱られているはずの楓花に逆に英語で叱られた。
本当何様だこいつ?と言いたいところだが、とりあえず何やらいつもと感じが違う楓花を様子見する事にした。
完全に我が物顔で部屋に入ってきた楓花は、俺がPCを触る机の上に持ってきたお菓子と飲み物をばらまく。
そしてクッションを手にすると、よっこいしょと言って当たり前のように俺の横にくっつくように座った。
「――なに?言いたいことあれば言えば?」
「いや、お前がシャラップって言ったんだろ」
「めんどくさいなぁ」
「めんどくさいのはお前だ。で、今度はなんだ?」
「何って、今日も可愛い妹が遊びに来ただけだよ」
持ってきたスルメをむしゃむしゃとしゃぶりながら、そんな事を言う楓花。
「可愛い子は、男とスルメしゃぶりながら話とかしないから」
「は?」
「は、じゃねーよ。それこそ柊さんや星野さんなら、そんな事しないだろ」
「いや、何で今その二人が出てくるわけ?戦争?」
「身近な人で分かりやすい例えをしただけだし、戦争もしない」
今日も今日とて全力で意味が分からない我が妹。
しかし、二人の名前出したら戦争とか、もしかしたらこいつはあの子達をライバル視してる面があるのかもしれないな。
そう思った俺は、ちょっと試してみる事にした。
「まぁ、柊さんは良いよな。落ち着いてるっていうか、清楚っていうか」
「ちょっと、お兄ちゃん?だから何で今麗華ちゃんの話するわけ?」
「別にいいだろ、共通の友達なんだし」
「ダメです。全然ダメです。5点です。今お兄ちゃんはこのスーパースペシャルなプロ妹のわたしを独り占めしてるんだから、他の子の話はしてはいけないんです」
「お前のどの辺がプロなんだよ。要介護レベルの間違いだろ」
「そこも可愛いところでしょうが。全く、お兄ちゃんレベルが足りないんだから」
そう言ってスルメを手にした楓花は、俺に向かって「はい、お兄ちゃんア~ン」と差し出してくる。
「スルメであーんするな」
「いいから、美味しいよほら」
「ったく、あーん」
何故かそのまま、スルメをあーんされる俺。
まぁ確かに、久々に食べてみると中々美味しかった。
「どう?妹からあーんして貰ったスルメのお味は?」
「はいはい、美味しいよ」
「やっとデレたか。うんうん、宜しい」
満足したのか楓花は、そのまま俺の肩に自分の頭を置いてくる。
すると、お風呂上りなのだろうシャンプーの良い香りが俺の鼻を擽る。
「良い匂いするでしょ」
「え?ああ、まぁ」
「女子力上がるシャンプー買ったんだー♪」
「ああそうかい。だったら俺じゃ無くて、もっと気になる男子に嗅がせてやれ」
「それは必要ないんだなぁ」
そう言って、ほれほれと自分の頭を擦り付けてくる楓花。
その結果、おれの周りは完全の女子の匂いに包まれる。
「もう分かったっての。あーあ、これが星野さんだったらなぁ」
「シャラップ!!」
試しに今度は星野さんの名前を出してみたところ、楓花は本日二度目のシャラップを発動した。
さっきより怒っているのは、きっと柊さんより星野さんの方がより警戒している現れなのだろう。
「分かった、完全に理解した」
「な、何をだよ」
「お兄ちゃんは、わたしという天使のような妹がいる事の有難みを理解していないということを」
自分で自分のことを天使とか言い出す楓花――いや、まぁ確かに世間で大天使とか呼ばれてるから間違っては無いのか。
「天使モード発動!」
突然どこかのロボットアニメのように、声高らかに謎の宣言をする楓花。
そして何をするのかと思えば、そのまま俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。
「ねぇお兄ちゃん、このままずっとこうしててもいい?」
そして上目遣いで俺の顔を見上げながら、少し潤んだ瞳でそんな事を言ってくる。
そんな、急に中身が入れ替わってしまったかのような楓花は、確かに天使のように可憐で可愛くて――そしてちょっとウザかった。
「そういうのいいから」
「何言ってるの?お兄ちゃん?」
「だからいいって」
「――ノリ悪い」
「あのなぁ。そんな媚びた楓花はしんどいだけだ。俺は普段のお前の方が好きだからやめてくれ」
「――今、なんて?」
「え?だから普段のまんまの方が良いって」
「いや、さっきと同じ言葉で言って」
「え?――えっと、なんだっけ?そんな媚びた楓花はしんどいだけだ。俺は普段のお前の方が良いからやめてくれ」
「もうっ!!」
言われた通り言い直したというのに、何が不満なのか立ち上がって怒りを露わにする楓花。
マジで情緒不安定すぎないかと、何かの病気すら心配になってくるレベルだ。
「な、なんだよさっきから」
「惜しいのよ!」
「惜しい?」
「そう、惜しいの!!」
クソー!と悔しそうに足をドタドタと踏み鳴らす楓花。
だから俺は、呆れて一度溜め息をつきつつも、そんな楓花にもう一言だけ付け加えてやる事にした。
「――まぁ、そんな楓花も可愛いと思うし、割と好きだぞ」
「ふぇ?」
「だからもう座れ、あまりドタドタすると下の部屋に響くだろ」
そう言って楓花の顔を見上げると、何とも言えない変な顔をしていた。
「お、お兄ちゃんはさぁ――」
「なんだよ」
「そういうところだよ、もうっ!」
ぷっくりと頬を膨らませながら、また大人しく隣に座る楓花。
そして俺の肩に身を預けてくると、すっかり大人しくなった楓花と一緒にVtuberの配信を楽しむ事にした。
ちなみに今日は、きらりちゃんの配信はお休みだった。
代わりに今日は、同じVtuberグループの竹中がギャルゲー実況をするという、タイトルだけでも出オチレベルで笑える配信をしてくれていたおかげで、日が変わるまで全力でギャルゲー実況する竹中を見ながら一緒に笑って過ごす事ができたのであった。
そしてその間、ずっと楓花は俺に身を預けてきていたのだが、まぁ悪い気はしないしそのままにしておいたのであった。
くっつきながら、一緒に動画を見た二人。
負けない宣言をした今日の楓花ちゃんは全開でした。
ちなみにこの日の「竹中勉のときめきメモ〇アル配信」は話題を生み、Twitterのトレンド入りまでしたそうです。
本日、4月の短編投稿しました。
「春の終わりと不思議な彼女」
https://ncode.syosetu.com/n6973gx/
短めでさくっと読める、ちょっとした男女のお話になります。
またこちらも、お暇なときにでも楽しんで頂ければ幸いです。




