第46話「どうなる」
道中若干の気まずさを感じながらも、無事に喫茶店の前までやってきた。
俺は結局ここまでちゃんとついてきた彼女の方を振り返ると、極力普通を装いながら話しかける。
「どうする?このまま紹介しちゃえばいいかな?」
「え、ええ。でも初対面なのだけど、大丈夫かしら」
「あはは、あいつらなら大丈夫だと思うよ」
分かりやすく不安の色が表情に現れる彼女。
しかし不安そうにしつつも、どこか不満そうな感じもする彼女のその表情はちょっと謎だった。
まぁそんな事気にしても仕方ないし、とりあえずそんな彼女を連れて俺は店内へと入った。
「あ、どうも」
「お疲れ様です、良太さん」
そしていつも落ち合う奥の席へ向かうと、そこには柊さんと星野さん二人の姿があった。
二人とも相変らずの美少女っぷりで、連れてきた彼女と見比べても優劣なんてつけられるはずもない程、今日もただただ美しかった。
そんな二人は今ではすっかり仲良くなっているようで、俺が来るまでも楽しくお喋りを楽しんでいたであろう二人の仲良さげな姿にほっこりとした気持ちになる。
その唯一無二とも言える圧倒的な存在感から、これまで周囲と上手く接する事ができないでいた二人。
だからこそ、こうして互いに友達という関係を築けている事の嬉しさが伝わってくる。
そしてそれは、根拠こそ無いが今連れてきたこの子もきっと例外ではないだろうと思っていると、突然背後から耳元に向かって声をかけられる。
「ねぇ、誰この子?」
その声に驚いて振り返ると、そこには楓花がいた。
楓花は俺が連れてきた彼女の事をじっと見ながら、俺の事を非難するように声をかけてきたのだった。
「ん?ああ、お前達に用があるらしくて」
とりあえず俺は、素直にあるがまま答える。
ここで下手に嘘をつくと後が怖い。
すると楓花は、今度は彼女の方をジロリと睨みつける。
「そう、何か用ですか?」
そして楓花は、彼女に向かって不機嫌そうに話しかける。
そんな、彼女に負けず劣らず感情が分かりやすいうちの妹。
そんな謎の圧力に驚いた彼女は、これまた露骨にたじろいでいた。
「えっと、貴女はもしかして『西中の大天使様』で、それからそちらのお二人は『北中の大和撫子』、それから『南中の聖女様』で合ってるかしら?」
「は?大天使?何よそれ」
「え?」
すると彼女は、あろう事か楓花に向かって四大美女本人である事を二つ名を用いて確認しだした。
当然そんな二つ名なんて興味も無ければ認知もしていない楓花は、何言ってんだこの子というように少し小馬鹿にした感じで首を傾げる。
そんな様子を見ていると、お前もその当事者なんだよと思わず言いたくなる気持ちをぐっと堪えつつフォローに回る。
「うん、多分貴女の認識で間違いないよ。それで、そろそろ自己紹介して貰ってもいいかな?」
「え?そ、そう。――まぁそうね、わたしの名前は羽生愛花。東高に通う一年生で、周りからは『東中の女神様』と呼ばれているわ」
すると彼女は、自己紹介ついでに自分の二つ名まで誇らしげに教えてくれたのであった。
しかし、さっきの楓花の反応の理由が分かっていないのか、なんとなく予想はしていたが案の定自分の事を二つ名で堂々と自己紹介してしまった。
どうやら彼女――羽生さんは、中々に痛い子なのかもしれない。
自分で自分の二つ名なんて言わないだろ普通。
「……あの、何だかよく分からないけど、それで用とは?」
「あ、ああ、えっと、貴女達に会ってみたかったの。そしたら彼がここにいるって案内してくれたの」
ヤバイ奴認定したのか、怪しみながら確認する楓花。
普段は人と比べてずれまくっている楓花だが、今回に限っては楓花の反応が正しかった。
そして、そんな楓花の反応に羽生さんは慌てて経緯を説明する。
「――本当に、良太くんは次から次へと」
「いや、そんな怒る事でもないだろ失礼だぞ」
「ふんっ」
そしてまた俺に不満を漏らす楓花は、何がそんなに気に食わないのかそっぽ向いてしまうのであった。
まぁ何はともあれ、こうして俺はついにこの町で四大美女と呼ばれる四人の美少女を集結させてしまったのであった。
◇
四大美女――。
それは、この町にある東西南北それぞれの中学に一人ずついるとされる圧倒的美女達の総称。
圧倒的なまでに恵まれたその容姿から、それぞれが二つ名を持っており、女神、聖女、大和撫子、そして大天使と呼ばれている。
そして今、そんな彼女達が一つのテーブルを囲んで座っている。
傍から見れば、どこかのアイドルグループのミーティングか何かに見えたりするのだろうか――いや、アイドルでもこんな美少女は滅多に見かけない。
もし彼女達がアイドルグループでも組めば、誇張抜きに天下を取れる気がする。
そんな、それぞれタイプの違う美少女が四人集まって何をしているのかというと、なんて事無い自己紹介だ。
彼女達は、新しく加わった?羽生さんと、自己紹介を交わつつコミュニケーションを取っていた。
そしてそんな四人の姿を、俺は隣のテーブル席に一人座って成り行きを眺める。
彼女達の会話する姿を見ていると、やっぱり四人それぞれ個性的だった。
挑戦的な羽生さんを中心に、楽しそうに微笑む柊さん。
そして、おどおどと緊張した様子の星野さんに、まだ不満そうにしている楓花。
全員揃いも揃って同じ美少女なのにも関わらず、こうも色が違うのかと思うとちょっと笑えてきた。
こうして今日の所は、四人のちょっとした会話をしてお開きとなった。
まぁこの場の元々の目的が星野さんの会話の練習だったわけだから、メンバーが増えたのは良い事だろうとなんやかんや上手くやれている四人の姿を見ながら一人満足していた。
まぁそんなこんなで、今日も色々あったなと思いながら家路についているのだが、そんな俺の背中をゲシゲシと叩いてくる人物が一人。
「バカ、アホ、女好き」
「女好きってお前なぁ」
「良太くんは何?ホストクラブかなんかなのかな?」
「ホストって、何の話だよまったく」
「この、無自覚ハーレム主人公!」
無自覚ハーレム主人公!?何だそれ?
尚も機嫌の悪い楓花は、二人きりになったところで謎の言葉と共に一気に不満を爆発させてきた。
どうやら楓花は、俺が羽生さんを連れてきた事がよっぽど気に食わないようだ。
「なぁ、楓花」
「何よ」
「俺はさ、色々心配してたんだよ」
「心配?」
「そう、こっちに引っ越してきて一年、お前はちゃんと上手くやれてるのかなって」
「は?何も問題なんて無いけど」
「でも、俺は柊さんが現れるまでお前が一度も友達といる所を見た事ないぞ」
「そ、それは別に――」
「まぁでも、今はその柊さん、それから最近では星野さんも一緒にいるもんな」
「――何が言いたいのよ」
「心配してただけに、それが嬉しいんだよ俺は。だから羽生さんも、きっと仲良くなれるんじゃないかって思ったんだ」
そう、話は物凄くシンプルだった。
俺は楓花が、なんやかんやみんなと仲良くやれている事がただ嬉しいのだ。
帰りに友達と一緒に寄り道をする、そんな普通の女子高生っぽい事をしている楓花を見ているだけで、良かったなと思えるのであった。
そしてそれは楓花に限らず、柊さんに星野さん、それから多分同じである羽生さんにも同じ気持ちを抱いている。
「みんなといるの、なんだかんだ楽しいだろ?」
「――ま、まぁそれはそうだけど」
「そうか、なら良かった」
そっぽ向きながらも、否定はしない楓花。
だから俺は、嬉しくなってそんな楓花の頭を優しく撫でてやる。
「これで、兄離れもしてくれたら満足なんだけどなぁ」
「うん、それは無理」
「――お前なぁ」
「わたし、絶対負けないから――」
負けないって何だよ。
そんな、全然兄離れはするつもりの無い楓花だけど、とりあえずさっきより機嫌が直ってる事だし今はまぁ良しとしてやる事にした。
ついに揃った四大美女――こうして、ついに頂上決戦の火蓋が切られたのであった。
なんて、ラブコメかと思えばまさかのファンタジー作品化!?
いいえ、ただのラブコメです。対戦宜しくお願いします。




