第45話「四人目」
委員会の対応で遅れた俺は、先に待つ楓花達のもとへ合流するべく急いで校門へ向かった。
すると校門前に、見た事ないけれど圧倒的な美少女の姿があった。
そして彼女は、校門の所で下校する生徒達を探るような素振りをしており、本人は自然に振舞っているつもりなのだろうが誰がどう見ても挙動不審そのものだった。
誰かを探しているようだったけれど見つからなかったのだろう、急に頭を抱えたかと思うと何かを諦めた様子でとぼとぼと駅の方角へ向かって歩き出す。
どちらかと言うと察しが悪い俺でも、もうその時点で気付いていた。
きっと彼女こそ、最後の四大美女なんだろうなぁと。
しかし、もう四人目ともなると俺も正直慣れたものである。
彼女の容姿は、綺麗な茶色のロングヘア―に切れ長の瞳は印象的で、見る人の目を奪うような魅力に溢れていた。
身長も高くスレンダーな体系はモデルのようだけど、それでも出るところは出ていてまさに男の理想を体現しているようなルックスをしている美少女。
通常なら、こんな子を前にしたら木陰からこっそりと伺うぐらいが妥当だろう。
それでも俺は、もうそれと同格の女の子三人と普段から一緒にいるせいもあって、我ながら可笑しな話だと思うがそういう浮世離れには慣れてきてしまっているのであった。
とりあえず困ってそうだったから、自分の図太さに笑ってしまいそうになりながらもここは声をかけてみる事にした。
「あ、あの、うちの高校に何か用でした?」
「あ、いえ、何でも無いです。お気遣いなく」
探るように俺が声をかけると、彼女は驚いていた。
それはもう、分かりやすく驚いた。
まぁこの容姿だ、普通なら楓花達同様に周りから一線引かれているだろうし、あまりこうして声をかけられ慣れてはいないのだろう。
だから、いきなり俺みたいな男に声をかけられた事に驚いているという感じだった。
「そうか、その制服って東校のでしょ?ここから結構距離あるし、何か手伝える事があればって思ったけど」
とりあえず、当たり障りない感じで話を聞いてあげる事にした。
すると彼女は、まるで俺の事をナンパか何かかと勘違いするような警戒する表情を浮かべる。
どうやらこの子は、考えている事が顔に現れやすいタイプのようだ。
そして彼女は何か閃いたのか、急に落ち着いた表情を浮かべたかと思うと、それからニヤリと何か企むような笑みを浮かべつつ返事をする。
「でしたら、一つお伺いしても宜しいでしょうか?」
「うん、何かな?」
「この学校に、風見楓花さんと柊麗華さんという方が通ってると思うのですが、部活とか所属されているのでしょうか?」
やっぱり要件は、その二人だった。
概ね、同じ四大美女と呼ばれる二人に何か用事でもあるのだろう。
遠回しに言っているが丸分かりだし、それから俺を上手く利用しようという魂胆も丸分かりだった。
「あー、いや、二人とも帰宅部だよ。何か用でもあった?」
「え?いえ、そういうわけでもないのですが、ちょっとお会いしてみたいなと思いまして」
「そっか、じゃあ二人とも行き先知ってるから、ついてくる?」
「え?」
そんな彼女に向かって俺は、ちょっと悪戯心もあり平然と答える。
まさか俺の口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったであろう彼女は、俺の予想通り驚いていた。
だが、いきなりそんな斜め上な事を言われても当然信用していない様子の彼女に向かって、俺は言葉を付け足す。
「委員会の仕事で遅れちゃったけど、このあと落ち合う予定があるんだ」
「そ、そうなんですか」
「うん、じゃあ行こうか」
そして俺は、こんなところで長話をするのもあれだし、みんなを待たせている事もあるためとりあえず歩き出す。
これで信用してついてくるも良し、疑ってさよならするも良しといったところだ。
すると彼女は、意外にも言われた通り俺のあとをついてきた。
顔には不満の色が分かりやすく現れているが、せっかく東高からここまでやってきた事もあるだろうし、きっと今は藁にも縋る思いなのだろう。
「あ、貴方はわたしを見ても、その、何とも思わないのですか?」
「まさか。美人過ぎて驚いてる真っ最中だよ」
急な彼女の問いかけに、俺はそう返事をしつつも内心ではですよねーと思った。
我ながら、やっぱり感覚が麻痺してきてるよなと自分でも笑えてくる。
しかしその感じが、彼女は不満なようだ。
きっと俺みたいに、自分を前にしてこうも平然としている男なんて初めてなのだろう。
「貴方は、『東中の女神様』ってご存じですか?」
「勿論知ってるよ、会った事はないけどね。――いや、今日が初対面になるのかな?」
そして、彼女も痺れを切らしたのだろう。
自分で自分の二つ名を口にした。
だから俺も、貴女がその本人ですよねと暗に返事をする。
しかし、彼女の余裕の無さとこの状況がどうにも可笑しくて、振り向きつつもつい笑みが零れてしまう。
それからは、彼女も俺の事を信用してくれたのだろうか、少し不満そうにしながらも大人しく俺のあとをついてきた。
そんな彼女を後ろに連れながら、俺は本当にこの子をみんなの元へ連れて行って良かったのだろうかと今更になって気になってきた。
それでも、もうここまで来たら俺個人としても四人が揃ったところを一度見てみたいという欲求が湧き上がって来ていた。
しかし、四大美女を全員集結させるとかまるでハーレム主人公みたいだなと自分で自分につっこみを入れつつも、そんな分かりやすい関係でも無い現実の厳しさに少し笑えてくるのであった。
良太くん視点で見ると、どうやら四人目は結構ポンコツなようです。




