第44話「正体」
連れてこられたのは、喫茶店だった。
この中に、わたし以外の四大美女と呼ばれる人達がいるのかと思うと、流石のわたしでも少し緊張してきた。
でもきっと普段のわたしなら、そんな事は無かったはずだ。
それもこれも、この男のせいでここまでずっとペースを乱されっぱなしなせいだ。
「どうする?このまま紹介しちゃえばいいかな?」
「え、ええ。でも初対面なのだけど、大丈夫かしら」
「あはは、あいつらなら大丈夫だと思うよ」
――仮にもわたしと同格とされる四大美女を、あいつら呼び?
その呼び方にちょっと違和感を感じたが、一先ずここは覚悟を決めてこのまま紹介して貰う事にした。
そして店内に入ると、お店の端にある外から見え辛い席へと向かって歩いていく。
――この奥に、その子達がいるのね
緊張しながらわたしは、彼のあとに続いてその席へと向かった。
「あ、どうも」
「お疲れ様です、良太さん」
そしてその席には、本当に女の子が二人座っていた。
一人はハーフだろうか、金髪碧眼の美少女。
遺伝子レベルで肌は白く透き通っており、まるで作られたお人形さんのように欠点が一つもない容姿をしていた。
そしてもう一人は、サラサラとした黒髪ロングが特徴的な美少女。
非の打ちどころの無いその容姿だけでなく、どこか気品も感じられ、一言で例えるならまさに和風美人といった感じだった。
そんな美少女二人が、こちらを振り向きながら微笑んでいた。
――なによ、これ
わたしは言葉を失った。
そこには、これまで会った事の無いレベルの美少女が二人座っていたのだ。
だから確認しなくても分かる、彼女達がわたしと同じ四大美女なのだと。
だからと言って、自分がこの二人に負けているとは思わない。
この『東中の女神様』と呼ばれる自分が、他の女の子に負ける事なんてあるはずがないし、その自信は今もちゃんと保てている。
――でも、勝ってるの?
そんな疑問が、自分の中で渦巻く。
これまで自分に敵う相手なんて誰もいないと思っていたけれど、今目の前にいるこの二人に対してそんな事思えない自分がいた。
だからわたしは、ようやく自分が四大美女と言われる理由に納得した。
自分自身が、この子達は確かに自分と肩を並べ合うに値する女の子なのだと認めてしまったのである。
「ねぇ、誰この子?」
すると、突如背後から他の女性の声がした。
その声はどこか怒っているようで、背筋が凍るような冷たさを帯びていた。
「ん?ああ、お前達に用があるらしくて」
彼がそう返事をするのに合わせて、わたしもその相手の姿を確認する。
するとそこには、またしても見た事が無い程の美少女が立っていた。
栗色のフワフワとした髪に、少し青みがかった綺麗な瞳。
そして白い肌は金髪の子と同じく透き通っていて、まるで天使のような女の子がそこにはいた。
「そう、何か用ですか?」
そしてその天使は、その容姿に似つかわしくない不機嫌そうな態度でそう話かけてくる。
その独特な圧力を前に、わたしは少したじろいでしまう。
――なに、この子
他の二人とは違い、自分に対して明確な敵意を向けてくる美少女を前に、わたしは何て言って良いのか分からず、言葉に詰まってしまう。
「えっと、貴女はもしかして『西中の大天使様』で、それからそちらのお二人は『北中の大和撫子』、それから『南中の聖女様』で合ってるかしら?」
「は?大天使?何よそれ」
「え?」
――しまった。
もしかして、人違いだったのだろうか。
他の二人は、多分合ってる。
けど言われたのは確かに二人であって、この子がそうだとは限らなかった。
でもそれならそれで、この美少女は一体何者だという話なのだけれど――そう思っていると、案内してくれた彼が割って入ってきた。
「うん、多分貴女の認識で間違いないよ。それで、そろそろ自己紹介して貰ってもいいかな?」
「え?そ、そう。――まぁそうね、わたしの名前は羽生愛花。東高に通う一年生で、周りからは『東中の女神様』と呼ばれているわ」
言ってやった。
すると、先に座っていた二人は納得するような表情を浮かべていた。
元々このわたしの容姿を見て、大方予想はついていたのだろう。
けれど、もう一人は違った。
どうやら彼女が大天使と呼ばれる本人で間違いは無いようだが、一人だけ何を言ってるんだと訝しんでいるようだった。
――もしかしてだけど、この子自分が四大美女の一人な事を知らない?
そう思うと、さっきの反応も今の反応も合点がいった。
そしてそれと同時に、わたしは驚いた。
つまり彼女は、自分が周りからどう評価されてる事を知らずにこれまで過ごしているという事になるからだ。
それは要するに、他人の評価なんて全く気にしていないのと同義だった。
「……あの、何だかよく分からないけど、それで用とは?」
「あ、ああ、えっと、貴女達に会ってみたかったの。そしたら彼がここにいるって案内してくれたの」
慌ててそう説明すると、彼女はまた彼に不満そうな視線を向ける。
「――本当に、良太くんは次から次へと」
「いや、そんな怒る事でもないだろ失礼だぞ」
「ふんっ」
怒ってそっぽ向く彼女。
そんな彼女の仕草に、思わず見惚れてしまっている自分がいた。
――そのルックスで、その感じは中々やるわね
こうして、わたしが一方的に輪の中に首を突っ込む形になったけれど、ついに四大美女と呼ばれる四人がこの場に集結したのであった。
そしてこんな輪に混ざる彼こそが、今日みんなが噂していたエンペラー本人で間違いないのだろうと、ようやくその正体に気が付いたわたしは彼に対する警戒度をぐんと引き上げたのであった。
四人、揃いましたね。
さぁ、頂上決戦の時間ですよ!




