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第43話「女神様」

 高校へ入学してもう暫く経つが、最近妙な噂を耳にするようになった。


 何でも、四大美女を一人でまとめあげる男が現れたらしい。

 周囲は彼の事をエンペラーと噂し、挙句同じ四大美女であるわたしの事まで勘繰り出している始末だった。


 でも、当然わたしはそんな男の事知るわけがない。

 それに仮に知っていたとしても、このわたし『東中の女神様』こと羽生愛花(はにゅうあいか)が、誰か特定の男性に靡く事などあるはずがないのだ。


 他の四大美女がどう思っているのかは知らないが、わたしはこの二つ名を誇りに思っている。

 何故ならそれは、わたしが特別である事を証明している事に他ならないからだ。


 そんなわたしが、どこの馬の骨かも分からない男に熱中するなんて事あるはずがないし、笑わせないでくれると言いたい。


 他に同格の女の子が三人もいる事は正直不服なのだが、実際に会えば絶対に自分の方が上だと思っているし、仮に同じ四大美女なら一体彼女達は何をしているのという感じだった。


 ただ一言、情けない。

 別に自由にしてくれたらいいけれど、わたしの肩書にまで泥を塗るような真似だけは避けて欲しかった。


 そんなわたしは、入学初日にこの学校一のマドンナに勝利をしており、結果中学の時と同じく誰もが敬う立ち位置を手に入れている。

 結局わたしに敵う相手なんて、どこにもいやしないのだ。


 ――ちょっと、偵察してみようかしら


 いい加減、その他の四大美女と呼ばれる子の存在もこの目で確かめる良い頃合いだろう。

 本当にこのわたしと肩を並べるに値する子たちなのか、この目ではっきり見極めてやろうじゃない。



「ねぇ、小松くん。ちょっと良いかしら?」

「へ、あ、愛花様!?な、ななな、何でしょう!?」

「ごめんなさいね、ちょっと聞きたい事があるのだけれど、いいかしら?」

「も、勿論っ!!な、何でもどうぞっ!!」


 わたしに話しかけられただけで、顔を真っ赤にして喜ぶ男の子。


 ――本当に、チョロいわね


 こうしてわたしは、クラスで一番の情報通の男の子を捕まえて知っている限りの情報を吐かせた。


 ――成る程、あの高校ね


 今通う高校からは結構離れた距離にある、うちの高校より一つレベルの低い学校に通っているようだ。

 もうその時点でもわたしは勝っているのだが、そこに四大美女の二人と、噂のエンペラーとか呼ばれている男が通っているというなら手っ取り早くて都合がいい。


 だからわたしは、今日の放課後早速その高校へ自ら出向いてやる事にした。





 ◇





 ――しまったわ


 わたしは他校の校門前で、一人頭を抱える。


 ――よく考えたら、授業が終わる時間は同じなんだから、授業終わってからここへ来てももう帰ってるじゃない!


 盲点だった。

 時計を見ると、うちの学校の下校時間になって三十分以上経過している。

 わざわざここまで大急ぎで来たものの、既に校門付近には人気はなく、多分もうみんな下校してしまった後だったのだ。


 ――あーもうっ!失敗したわっ!!


 心の中でそう叫びつつ、わたしはわたしの間抜けぶりに嫌気がさした。

 勉強は得意なのに、こういう所では何故かいつも考慮が足りないのだ。


 でも、次こそはどんな子達なのか絶対拝んでやるんだから!

 そう思いながら、わたしは次の作戦を練りつつ今日の所は大人しく帰る事にした。



「あ、あの、うちの高校に何か用でした?」


 すると、そんなわたしに向かって声がかけられる。

 それは男性の声で、このわたしに対してここまで平然と話しかけてくる男性は随分久しぶりな気がして、思わず振り返ってしまう。


 するとそこには、まぁ見た目はそれなりだと思える男の子が立っていた。

 雰囲気から多分上級生のため、一応失礼な態度は取らないようにしなくては。



「あ、いえ、何でも無いです。お気遣いなく」

「そうか、その制服って東校のでしょ?ここから結構距離あるし、何か手伝える事があればって思ったけど」


 何?ナンパかしら?

 確かに遠かったし、作戦だって失敗だってしてるんだけど、わたしに付け入ろうとしている魂胆がバレバレだった。


 ――いや、でしたらむしろ好都合では?


 だったら、この男の子の事を利用してやればいいのだと気が付いたわたしは、それならとお言葉に甘える事にした。



「でしたら、一つお伺いしても宜しいでしょうか?」

「うん、何かな?」

「この学校に、風見楓花さんと柊麗華さんという方が通ってると思うのですが、部活とか所属されているのでしょうか?」

「あー、いや、二人とも帰宅部だよ。何か用でもあった?」

「え?いえ、そういうわけでもないのですが、ちょっとお会いしてみたいなと思いまして」

「そっか、じゃあ二人とも行き先知ってるから、ついてくる?」

「え?」

「委員会の仕事で遅れちゃったけど、このあと落ち合う予定があるんだ」

「そ、そうなんですか」

「うん、じゃあ行こうか」


 そう言って、男の子は歩き出した。

 こんな初対面の男性の事本当に信用していいのか分からないし、何よりわたしと対面しているのにあまりに普通な態度を取る彼の事が若干――いや、結構不満だった。


 ――こんな扱い、初めてだわ!


 そう思ったわたしは、まぁ何かあればすぐに逃げればいいだろうと少し距離を置いて警戒しながら後ろをついていく事にした。



「あ、貴方はわたしを見ても、その、何とも思わないのですか?」

「まさか。美人過ぎて驚いてる真っ最中だよ」


 歩きながらさり気なくわたしの感想を聞いてみると、意外にも彼は驚いてると返事してきた。

 でも、そう言う割には落ち着き過ぎているというか、やっぱりわたしはペースを乱され続けているのであった。

 だからこそだろうか、不覚にもわたしはこの男の子に対して若干の興味を抱いてしまった。



「貴方は、『東中の女神様』ってご存じですか?」

「勿論知ってるよ、会った事はないけどね。――いや、今日が初対面になるのかな?」


 そう言って彼は後ろを振り返りながら、ふっと微笑む。

 その返事と仕草に、思わずわたしはちょっとだけドキッとしてしまう。


 ――な、なにこの男っ!?


 わたしは一気に警戒を高める。

 よく分からないが、この男やっぱりちょっと危険かもしれない。


 こ、このわたしを前にしてこの落ち着きよう、そしてわたしが『東中の女神様』と呼ばれている事に勘付きながらもこの余裕。

 こんな事態初めてだし、こういう時どういう態度を取ったらいいのかなんて、これまでのわたしの辞書には全く無いのだ。


 ――普通、わたしを前にしたらもっと驚いてへりくだるべきでしょ!?それなのに、何よこの男!?


 でも、こんな男だからこそさっきの話は本当な気がしてきたわたしは、ここはぐっと堪えて後ろをついていく事にした。


 多分、この行く先には四大美女の二人が本当に待っている。

 そうわたしは、確信したのであった。



43話にして、ついに四人目登場!

これまでに無い高飛車キャラだけど、実はポンコツ!?


そして、彼女のことを案内する謎の男の正体は一体!?


続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、謎の男はないでしょう/w 彼にもエンペラーの二つ名がついてしまったかあ。3人と会っているのも、周知の事実なのね。4人目もこのまま落ちてしまいそう。他の三人に男兄弟がいたら、彼のように…
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