第39話「柊麗華は見た」
彼女、風見楓花さんと仲良くなる事が出来た今のわたしは、いつも一緒に下校する仲になる事が出来た。
クラスこそ別々なものの、こうして一緒に過ごせる下校の時間や一緒にお弁当を食べる昼休みの時間が、わたしの高校生活の中において一番の楽しみになっていた。
そんな楓花さんに対する最初の印象はというと、噂通りの天使のような女の子でした。
決して触れる事が許されないような美しさ、それでいていつもどこか儚さも感じられ、ただそこに存在するだけで周囲の注目を集めてしまうような存在、それが楓花さんでした。
こんな楓花さんと自分が、同じ四大美女と呼ばれている事に恐れ多く感じてしまう。
それ程までに、楓花さんはわたしから見ても特別な女の子なのでした。
――でも、どうやらそれは彼女のほんの一部分にしか過ぎませんでした
楓花さんと仲良くなって、わたしは分かったことが三つあります。
一つ。実はとても明るい女の子であること。
二つ。実はとても子供っぽくて可愛らしさに溢れていこと。
そして三つ。実はお兄さんである良太さんの事が大好きなこと。
わたしは彼女の事を知れば知る程、その魅力に引き込まれていきました。
まるで天使のような容姿をしている彼女だけど、実はとても明るくて可愛らしい性格をしているという、大きなギャップまで持ち合わせた彼女は当初の印象以上に魅力に溢れているのでした。
そんな、同性であるわたしから見ても高嶺の花と言える彼女ですが、実はお兄さんの良太さんの事が大好きなのです。
こんな特別な彼女にとっての、特別な人。
それがどんな方なのかというと、意外にも普通の男の子でした。
普通と言っても、容姿はとても整っているし、性格も優しくて素敵な男性だと思います。
でも、あまりに特別な彼女の基準で見てみると、残念ながら普通と言わざるを得ない感じでした。
ですが、そんな良太さんについても、一緒に過ごしているうちに印象が変わっていきました。
なんだかんだ言って面倒見が良くて、嫌がりつつもちゃんといつも楓花さんの相手をしてあげていたり、ここぞという時にはちゃんと頼りになるような安心感。
そして結構ハッキリとした性格をしており、誰とでも分け隔てなく付き合っているおかげでお友達も多い彼は、わたしには無いものを沢山持っている男の子でした。
そして、曲がりなりにも四大美女と呼ばれるわたしに対しても普通に接してくれる数少ない同世代の男性で、楓花さん同様に良太さんと過ごす時間もわたしにとってはとても有意義なものになっています。
本当に、この二人が兄妹で一緒に住んでいるだなんて、風見家というのは毎日が特別なんだろうなとたまに想像してしまいます。
きっと家では、楓花さんはもっと素をさらけ出しているんでしょうし、良太さんにもそういう面はきっとあるのだと思うと、わたしもそこに加わってみたいとすら思ってしまう。
それ程までに、今のわたしにとってこの兄妹の存在は、大きなものになっているのでした。
そんなある日、楓花さんと二人きりで下校中のこと。
良太さんは何やら用事があるとの事で先に帰られたので、楓花さんと二人きりで帰っていたわけですが、いつもはご機嫌な楓花さんは露骨に不機嫌そうにしているのでした。
それはわざわざ聞かなくても、理由は明らかでした。
この場に良太さんがいないから。
「やっぱり怪しいと思うんだよね」
「怪しい?」
「うん、絶対なんかある」
道に転がる小石を蹴りながら、楓花さんは不機嫌そうに愚痴をこぼす。
主語こそ無いけれど、良太さんの事を言っているのでしょう。
疑うような表情を浮かべる楓花さんは、自分のこめかみに指を当てながら、うーんと唸り出す。
今度は何を考えているんだろうと、わたしは興味津々にそんな楓花さんの様子を伺っていると、「カフェかな……」と小さく呟く。
「カフェ?」
「……うん、今カフェにいる気がする」
「どうしてそう思うんです?」
「勘」
即答だった。
そんな勘が当たるわけと思いつつも、大真面目な楓花さんの様子にわたしはまさかと思う。
普通なら当たるわけがないけれど、楓花さんが言うと何だか本当にそうな気がしてきてしまうのであった。
「わたしが送っても駄目だろうから、麗華ちゃん一度良太くんに連絡してみて貰えるかな?」
「連絡、ですか?」
「うん、今どこにいるって」
成る程なと思いながらも、わたしは言われた通り良太さんへ連絡をしてみた。
『良太さん、今どちらにいらっしゃるのですか?』
なんて送ったらいいか少し文面に困ってしまったが、下手に言葉を付け足して変に勘繰られてもと思いシンプルな文面にした。
すると、少しだけ間を空けて返信が届くと、その文面を見てわたしはとても驚いた。
『今、カフェにいます。何かありましたか?』
――本当にカフェにいた。
楓花さんのまた新たな才能を見せられたわたしは、思わず笑ってしまう。
これはもう、超能力とかそういう領域の話だ。
「ん?返事きた?」
「ええ、カフェにいるそうです」
「やっぱり、どこのカフェかな」
やっぱりって。
一体楓花さんには何が見えているのでしょうか。
そんな事を考えつつも、また言われた通りどちらのカフェか質問を送ってみたものの、流石に良太さんにも勘繰られたのか返事はありませんでした。
「ちっ、感づかれたようね。でも多分、あそこだ」
そう言って楓花さんは、どうやらカフェに心当たりがあるようでそちらへ向かって早歩きで歩き出しました。
「楓花さん?ど、どちらへ?」
「――そうだ、麗華ちゃん。良かったらこれからちょっとお茶していかない?」
「お、お茶?」
「うん、わたし達はこれからお茶をしにいくだけ、オーケー?」
「え、ええ、構いませんけど」
完全に何かを企んでいるように、そう言ってニヤリと微笑みながらお茶に誘ってくる楓花さん。
そんな様子にわたしは少し戸惑いつつも、特に今日は予定も無いしオーケーする。
学校のお友達と、帰りにお茶をする。
そんなシチュエーションに若干の憧れのあったわたしは、理由はどうあれ誘われた事が内心嬉しかった。
こうしていつもは駅で別れるところ、駅を通り過ぎた先にあるカフェへ入ったわたし達は、またしても驚きました。
なんとそこには、本当に良太さんの姿があったからです。
しかもその席には、他校の制服を着た金髪の女の子が座っておりました。
これは、本当に来てしまってよかったのだろうかとそわそわしていると、楓花さんは良太さんを見つけるなり迷わずそちらへ向かって歩き出す。
「ここで何をしてるのかな?良太くん?」
「――ごめんなさいね、良太さん」
そして、さもたまたま居合わせたような素振りでそう話しかける楓花さんに続いて、わたしも申し訳なくなりつつも声をかける。
当然急に現れたわたし達に驚いた様子の良太さん。
そして同じ席に座る他校の女の子は、楓花さんとはまた違ったタイプの美少女なのでした。
柊さんは楓花ちゃんが大好き。
そんな柊さん視点、続きます!




