第38話「柊麗華」
柊さん視点です。
中学時代のわたしは、表には出さないがとにかく毎日が退屈だった。
それは別に、周りの子達と仲が悪かったとかそういうわけではない。
むしろ周りの人達はみんな、わたしに対して敬ってくれてさえいた。
けれど、そんなわたしには友達と呼べるような相手は一人もいなかった。
男の子も女の子も、遠慮するようにみんなわたしに対して一定の距離を置いていました。
そんな状態で、わたしは男の子達から何度も告白をされたりもしたけれど、よく知らない方からの告白を受け入れる事なんて出来るはずもなくお断りし続けていたのだけれど、その度に悲しそうなお相手の顔を見るのは胸が痛みました。
それが嫌になったわたしは、いっその事本当に誰かとお付き合いしてしまえばこの呪縛から解放されるのではと考えた事もあったけれど、そんな自分の気持ちに嘘をついて誰かの真剣な告白を受け入れるなんて真似は出来ませんでした。
そんな日々を繰り返していると、気が付けばわたしは『大和撫子』だなんて大層な呼び方をされている事を知りました。
幼い頃から自分のトレードマークだと思っているこの黒いロングヘアーがそう印象付けているようで、自分が裏で大和撫子だなんて呼ばれている事に居心地の悪さを感じずにはいられませんでした。
しかし、どうやらそれは自分だけではないようでした。
わたしの他にも、同じような扱いをされている女の子が二人いるという情報を得たからです。
でも残念ながら、その二人はここではなく南中と東中、別々の中学に一人ずつ存在しているようでした。
そんなわたし達は程なくして『三大美女』だなんて呼ばれるようになり、その結果わたしの事は学校内から飛び出して町中で噂される規模にまで拡大してしまっているのでした。
◇
そんなわたしも無事中学を卒業し、高校生になりました。
中学の卒業時には、同時に五人の方から告白をされた時は流石に驚いたけれど、やっぱりそれも受ける事は出来ず全てお断りさせて頂きました。
きっと高校生になっても、中学の頃と同じ状況に陥るだけなんだろうなと思いながらも、それでもわたしには一つだけ楽しみがありました。
それは、この高校には同じく三大美女改め四大美女の一人が入学してくるという情報を事前に得ていたからに他ならない。
わたしは自分と同じ扱いをされてきたはずの女の子に興味津々でした。
一体どんな容姿で、どんな性格をしている子なんだろうと胸を躍らせたわたしは、これではわたしに対して好奇の目を向けていた方々と同じじゃないかと笑えてきました。
それでもわたしは、期待せずにはいられなかった。
もしかしたら、その彼女とならお友達になれるんじゃないかという淡い期待を抱かずにはいられなかったのです――。
そして入学式。
わたしは檀上で新入生代表の挨拶をさせて頂きました。
何とか咬まずに終える事が出来た事に安堵しつつも、上級生含めみんなから向けられる好奇の視線が少し痛かった。
出来れば平穏無事に過ごしたい。
そう願いつつも、それは中々難しい事を入学早々に痛感させられるのでした。
そして、わたしは檀上から降りながら新入生の集団に目を向ける。
噂の四大美女と呼ばれる女の子がどこにいるのか、つい探してしまっていました。
わたしが大和撫子なら、どうやらその彼女は大天使様と呼ばれているらしい。
天使でも中々のものなのに大天使様だなんて、一体全体どんな女の子なのか気になって仕方が無かった。
そして、わたしはついにその女の子を見つけた。
周りの子達とは明らかに異なる雰囲気を放つ美少女が一人、退屈そうに座っている姿を見つけてしまったのだ。
栗色のふんわりした髪に、透き通るような白い肌、そして整いすぎた顔立ちは見ているだけで吸い込まれるような魅力を放っており、成る程確かに大天使様だというのも頷けてしまう程だった。
というか、こんな美少女とわたしが同格扱いされている事自体恐れ多かった。
それ程までに、彼女は一人だけ明らかに異なるオーラを放っていたのである。
――でも、あんな子とお友達になるのは難しそうね
そしてわたしは、そんな彼女を見ながら無意識にそう思ってしまいました。
あんな美少女とわたしはお友達になろうとしてたのね――なんて、これじゃあわたしもみんなと変わらない事に気が付いた。
あれだけ見た目で判断される事を嫌っていた自分が、見た目で人を判断しようとしているんだから目も当てられない。
――わたしも、頑張らないと駄目よね
そう決心したわたしは、勇気を出して彼女と接触してみる事を胸に誓った。
これまで同じ扱いをされてきた相手だからとか、もうそういう理由ではない。
単純にわたしは、一目でここまで相手に衝撃を与える彼女という存在にすっかり興味を抱いてしまったのだ。
そう思うと、彼女とわたしが同じ四大美女だなんて思わず鼻で笑ってしまいそうになる。
それ程までに、彼女はわたしから見てもとても特別に感じられたのであった――。
急な別視点ですが、続きます!




