第37話「邂逅の果てに」
目を細めながら、怪しむように俺と星野さんを交互に見てくる楓花。
そんな楓花の様子に、やっぱりあわあわと怯えた様子の星野さん。
そしてそんな状況にげんなりする俺と、それを一歩引いた所から面白そうに見守る柊さん。
こうして、圧倒的とも言える美少女が三人も集まり、まさに三者三様の様子を見せているこの状況どうしたものか――。
とりあえず星野さんが困っている様子だし、多分この場は俺がどうにかしないといけない場面なのだろう。
そう思った俺は、話が進まないこのカオスな現状を解消すべく口を開く。
「――えっと、とりあえず今日のところは相談事はいいかな?」
そう言って俺は、星野さんに向かって目配せをする。
元々の目的が、こうして俺と話す事で異性慣れをすることなのだから、今こうして会話しているだけでも相談事を現在進行形で解消中なわけだが、そんな事情を二人には知られたくないかもしれないからここは一先ず気を使って有耶無耶にする事にした。
すると星野さんは、ちゃんと俺の意図を汲み取ってくれたようで慌ててうんうんと頷いてくれた。
「そうですか、じゃあ今日はこのままご一緒しても?」
「は、はい!大丈夫ですっ!」
そして、柊さんがまるで空気を読むように話に乗って来てくれたおかげで、この場の微妙な空気は何とか和らいできたのであった。
しかしそれでも、楓花だけは変わらず腑に落ちない表情を浮かべていたので、仕方なく俺は伝家の宝刀を出す事にした。
「ちょ!いきなり何!?」
「いいから」
「な、何がいいのよっ!恥ずかしいしっ!」
「じゃあやめるか?」
「は、はぁ!?あ、当たり前でしょっ!」
俺は伝家の宝刀『頭なでなで』を発動させると、楓花は人前だから恥ずかしいのか顔を真っ赤にしながら慌てふためく。
こうして、俺の伝家の宝刀によりそれどころでは無くなった楓花は、観察する側からされる側になったのであった。
昔から楓花は俺に頭を撫でられるのが好きなようで、こうしてたまに撫でてやると毎回良い反応をするのだ。
流石に人前でやったのは俺も恥ずかしいしちょっと悪い事したかもしれないけれど、この場を回避するためだから致し方ない。
「はいよ」
目的を達成できた俺は、そう言って言われた通り頭から手を離した。
すると楓花は、ちょっと不満そうななんとも言えない表情で俺の事を見つめてきた。
何か言いたいようだけど言葉にしない楓花に少し戸惑っていると、今度は机越しに視線を感じた俺と楓花は同時に振り返る。
「お二人とも、仲が宜しいんですね」
「うう……」
良いものを見たというように面白そうに微笑む柊さんと、何やら不満そうな何とも言えない表情でこちらを見つめてくる星野さん。
結局こうして、状態が変わっただけでこの場がカオスな事には変わらないのであった。
◇
柊さんが場をコントロールしてくれた事もあり、それから他愛ない会話を楽しむ事が出来た俺達は、気付けば良い時間になっていたため店をあとにした。
そして、帰宅する柊さんに俺は駅まで送って行くよと言ったけれど、柊さんは微笑みながらお構いなくとそのまま一人で帰って行ってしまった。
相変らず掴めない人だけれど、優雅に去り行く後ろ姿は今日もただただ美しかった――。
こうして残された俺達三人は、とりあえず帰るため家の方角へと向かう。
当然、川を挟んで向かいに住んでいる星野さんとは同じ方角になるのだが、楓花はそんな星野さんの事をじーっと目を細めて見ていた。
「どうしたよ?」
「何で一緒に歩いてるのかなって」
「ああ、星野さん近所なんだよ」
「え?」
「家の前の川を挟んで向かいっていうか、ほら、あの大きい家が星野さんの家だ」
「は?え、マジ?」
「は、はい」
驚く楓花に、戸惑いながら返事をする星野さん。
実は近所な事に驚く気持ちは俺も驚いたから分かるけれど、それにしても楓花のリアクションは何だか少しおかしかった。
そして星野さんは星野さんで、戸惑いながらもそんな楓花に負けないという意思が感じられるというか、何やら芯のようなものが感じられるのであった。
まぁなんやかんや似てるところもある二人なら仲良くやっていけそうだなと思いつつ、流石に色々あって疲れた俺はとりあえず早く家に帰って横になりたい気持ちでいっぱいだった。
「じゃあ、わたしはこっちなので」
「うん、また今度」
「……バイバイ」
こうして星野さんと近くの橋の所で別れると、楓花は緊張を解くようにフゥっと一息ついた。
そして少し疲れたような表情を浮かべる楓花は、怪しむように俺の顔をじっと見つめてきた。
「な、なんだよ?」
「お兄ちゃんは、あの子の事どう思ってるの?」
どうって、いきなりなんだよ……。
まぁ、そりゃ可愛いし良い子だし、何より俺の好きなきらりちゃんの中の人だぞ?大好きに決まってるだろ――なんて事は今の楓花には言える雰囲気では無かった。
だから俺は、言葉を濁しつつも思っている事は素直に伝える事にした。
「そうだな、良い子だし可愛いよな」
「そ、それはそうかもね。ま、まぁわたしも割と可愛い方なんだけどね――」
「あんな子が彼女なら、男としてきっと鼻が高いだろうなぁ」
「ま、まぁ確かに?でもわたしも実は男子からちょっとだけ人気あったりするような気がするかもしれない的な――?」
「あと料理も得意みたいだぞ?結婚したら美味しい手料理とか作ってくれるんだろうな」
「りょ、料理はやめてよ!!これから覚えるよチクショウっ!!」
料理は素直に負けを認めるしかなかったのか、悔しそうにバンバンと足を踏み鳴らす楓花。
こうして何故か全てに張り合っていた楓花は、最終的にキレてしまったのであった。
「何でお前がキレるんだよ……」
「べ、別にぃ?キレて無いしぃ?」
「なんだよそれ……はぁ、まぁなんだ。楓花の作るカレー、俺は好きだぞ」
「――え?」
「だから、楓花の作るカレーは美味しいから、お前の料理も好きだって話だ」
「そ、そっか。うん。好きなんだ――」
俺の一言で急に珍しくしおらしくなった楓花は、頬を赤く染めながら嬉しそうな顔をしていた。
「――じゃあ明日作ってあげよっか?」
「ん?ああ、久しぶりだし頼もうかな」
「えへへ、じゃあお母さんに言っとくね!」
そんなに俺に褒められるのが嬉しかったのかという感じだが、とてもやる気に満ち溢れた顔をする楓花はすっかりご機嫌な様子なのであった。
無駄に壮大なタイトル
カレーだけは得意な楓花ちゃんでした。(他はお察し)
ここは頑張って、美味しいカレー作ってね。




