第36話「修羅場?」
「な、なんでここにっ!?」
突然の二人の登場に驚いた俺は、思わずそう反応してしまう。
しかし、その俺の反応もまた楓花は気に食わないようで、元々不機嫌そうだった表情が余計不機嫌そうになってしまう。
そしてその隣には、申し訳無さそうな表情を浮かべる柊さんの姿まであった。
という事はつまり、さっきのメッセージはやっぱり楓花の差し金と見て間違いないだろう。
でも、だからと言ってさっきのやり取りだけでここを特定できるなんてどう考えてもおかしいのだが、これはもうマジでうちの妹はエスパーなのかもしれない……。
「何でもいいでしょ。質問に質問で返さないで」
そして当の楓花はというと、もうそれどころでは無いご様子だった。
何故兄が女性と会っているだけでここまで不機嫌になるのかはよく分からないが、今の状況はさながら浮気を疑われる彼氏のようだなと思っていると、当然この二人の事を知らない星野さんは真っ青な表情を浮かべていた。
「――えっと、風見さんこれは……」
そして本当に困惑したような表情を浮かべながら、俺と楓花達を交互に見ながらあわあわと震えていた。
結果、星野さんは純粋にこの状況に驚いていただけだろうけれど、そんなリアクションを取られた事により今度は楓花の目の色が変わる。
これでは完全に周囲からは、星野さんが俺の浮気相手みたいに見えているに違いなかった。
そんな、突然訪れたこのカオスな状況を前に俺は、これじゃあ埒が明かないという事で仕方なく立ち上がって説明する事にした。
「あー、もう!違うから!星野さん!こちらは妹の楓花と、お友達の柊さん!それから楓花、こちらは星野さんと言って、色々あって最近知り合ったんだけど、ここでちょっと人生相談に乗っていただけだ!」
俺がざっくりと事情を説明すると、星野さんは二人の容姿から察しがついたのかすぐに納得するような表情を浮かべた。
しかし、楓花はというと今の説明だけでは納得しないようで、尚も不審がるような視線を俺に向けてきた。
「……わたし達を置いていく程の相談って、何よ?」
「いや、そんな言い方はしないでくれよ。相談があるのは本当なんだから」
「うっ――ま、まぁ確かに今の言い方はちょっと良くなかった、かな」
そう言って、楓花は星野さんに向かってごめんなさいと頭を下げた。
昔から楓花は、こうして自分に非があると思ったらちゃんと謝れる子なのは、兄として偉いなと思える部分だったりする。
「えっ、いえ、その、わたしこそすみません。お兄さんをお呼び立てしてしまって……」
「いや、星野さんいいんだよ。これは俺が選んでここへやってきているだけだから」
罰が悪そうに謝り出す星野さんに、俺はすぐにそんな事ないよとフォローする。
言葉どおり、これは俺が判断して受け入れた事なんだから、その事で星野さんが謝る必要なんてないのだから。
「という事で、ここで相談に乗っていただけだ。まぁ俺もろくな説明してなかったから変な誤解?を生んでしまったみたいだから、その点については悪かったな」
ここが丁度良い落としどころだと思い、俺は話のまとめに入った。
別にただ友人と約束があるから一緒に帰れないと事前に断りを入れた上で、ここで相談に乗っているだけなのだが、ここは星野さんのためにも俺が謝って丸く収めるのが良いだろう。
「良太さん――いえ、星野さん?その相談というのは、わたし達がいたら不味いですか?」
「え?あ、そんな、別に大丈夫ですけど――」
「そうですか。わたし達もお店に入った手前、何か注文しないと迷惑になってしまいますので、問題無ければご一緒させて頂ければと思いまして」
「は、はい、そうですね。わたしは大丈夫です、けど――?」
一通りやり取りを見ていた柊さんも、ここが落としどころだと思ったようでそう話を切り出した。
星野さんは恐る恐る俺の意見を伺うようにこっちを向いてきたため、俺は一度溜め息をつくと黙って一度首を縦に振った。
こうして俺は、星野さんの人生相談もとい男性慣れしようの会を今日も開催しようとしていただけなのに、何故かそこに楓花と柊さんの二人も加わる事となってしまったのであった。
◇
一つのテーブル席で、俺と星野さんが向かい合って座り、そして俺の隣には楓花、そして星野さんの隣には柊さんが座るという謎の状況が生まれた。
改めて考えてみると、今このテーブルにいる俺以外の三人はこの町で四大美女と呼ばれる程の圧倒的美少女三人であり、そんなところに一人ポツンと混ざっているこの状況は中々の居づらさを感じてしまうのであった。
「星野さんって、もしかして星野桜さんですか?」
「え?は、はい、そういう貴女は、柊麗華さん、ですよね?」
柊さんと星野さんが、お互いを確認し合う。
初対面にも関わらずお互いがお互いのフルネームを知っていたという事は、お互いその容姿を見て判断したという事だろう。
聖女様と大和撫子。
この町ではそう呼ばれる四大美女の二人は、自分と同じ存在としてお互いの名前は把握していたようで、その圧倒的とも言える整った容姿を見て確信したのだろう。
初めましてと嬉しそうに微笑み合う二人の姿はただただ美しくて、神々しさすら感じられる程だった。
そんな様子を俺の隣で一緒に見ていた楓花はというと、まだ納得はしていないのか不満そうな表情を浮かべながら机の下で俺の足を蹴ってくるのであった。
「可愛い子だね」
「ん?ああ、まぁ」
「どこで知り合ったの?」
「この間の週末、買い物に出かけた時だよ」
「え、あの日?」
「そう、あの日」
そう俺が答えると、何故か楓花は一度驚いた表情を浮かべると、悔しそうに二度寝がどうこう小声で独り言をブツブツ言い出した。
そんな、今日も相変わらず意味不明な楓花だが、もうこうなってしまった事だしそれならいっそ三人には友達になってくれたらいいなって思っている。
だって同じ四大美女だし、今回は男性克服が目的ではあるが、聞いている話から察するに星野さんは同性の友達も多くないように思えるから、それなら同じく少ないうちの妹と仲良くなれたらWIN-WINってやつだろうと思った。
だがこれは、柊さんの時もそうだが俺が変に促したり首を突っ込む話ではないため、俺はそう思いながら二人のために出来る事をしてやろうと思った。
「あの、楓花さん。初めまして星野桜です」
「あ、うん。は、初めまして」
柊さんと上手く会話出来た事で弾みが付いたのか、今度は楓花に向かってちゃんと挨拶をする星野さん。
しかし、楓花はというとさっきの事を気にしているのか少し気まずそうに淡白な返事しか出来ないでいた。
その結果、元々得意ではない星野さんは言葉を続ける事が出来ずあわあわとしてしまう。
星野さんは星野さんで、普段はあれだけ配信でハチャメチャしているのに現実ではこうもコミュ障というか人と話すのが苦手なのであった。
そして、そんな二人の様子と、困っている俺の顔を面白そうに一歩引いたところで眺めている柊さんという、やっぱりカオスな状態となってしまっているのであった――。
楓花がエスパーな事、お忘れでしたね良太くん。
修羅場は回避されましたが、カオス面談スタートです。




