第3話「本性」
家に帰ると、早速楓花は本領を発揮する――。
着ていた制服を脱ぎ捨てると、すぐにお気に入りの赤いジャージへと着替える。
そのせいで、ふわふわとした綺麗な髪は服を脱いだ勢いで乱れたまま放置され、それからコンタクトは疲れるらしく眼鏡に変える。
こうして、『西中の大天使様』と呼ばれているらしい妹は、あっという間に上下ジャージ姿の眼鏡少女へと変身するのであった。
それから最早定位置となっているリビングのソファーでぐでっと横になると、確認もせずテレビのチャンネルをピコピコと変えて決まってアニメチャンネルを流す。
「お兄ちゃーん!お菓子とってー!」
そして楓花は、自分の方が戸棚に近いにも関わらず、向かう素振りも見せず俺にそうお願いをしてくるのであった。
「ほらよ。そんな横になってお菓子ばっか食べてたら豚になるぞ」
仕方なく俺はお菓子をとって、嫌みと共に渡してやる。
すると楓花は、「わたしどれだけ食べても太らないから大丈夫だブゥ」と言って美味しそうにポテチを食べ出すのであった。
――そう、実はうちの妹。家では半端じゃない干物女なのである
これが、楓花に恋するのをお勧めしない本当の理由であり、そして晋平を家に上げれない理由でもあった。
まさか『西中の大天使様』が、家ではこんなに分かりやすい程に干物女だとは誰も思いもしないだろう。
しかし、アニメを見ながらケラケラと笑っている楓花を見ていると、多分こっちが本当の姿なんだろうなと思った。
「あ、お兄ちゃんあとお茶もちょーだい!」
「お前なぁ……」
俺は呆れながらも、お茶をコップに注いで渡してやる。
自分では一切動こうとしない楓花だが、こうして甘やかしまっている俺も悪いんだろうなぁと思いながらも、甘える楓花をついつい許してしまうのであった。
そんな、外と中ではあまりにも違いすぎるうちの妹は、最早ギャップなんて言葉では収まらない程別人なのであった。
「じゃ、俺は部屋行くからあとは自分でやれよ」
俺はそんな楓花に声をかけると、制服から部屋着に着替えて自分の部屋へと向かった。
これ以上近くにいて甘やかすわけにもいかないからな。
◇
俺は自分の部屋へ入ると、早速PCの電源を入れて最近ハマっているVtuberの動画を見る事にした。
最近一番よく見ているのは、声の可愛い女の子Vtuberの『桜きらり』ちゃんなのだが、見た目や声の可愛さに反して中々考え方がぶっ飛んでいて、ゲームをやれば笑いの神様がついてるんじゃないかってぐらい流れるように失敗ばかりするこの子を追っているだけで、あっという間に時間が過ぎていくのであった。
これが所謂沼ってやつなんだろうなと思いながらも、普段は夜しかない桜きらりの配信が今日は昼からあったから、俺はラッキーと思いながら早速見る事にした。
今日はレースゲーム配信をしており、イキリながらゲームをするものの流れるようにビリまで転落していく彼女は、今日も今日とて笑いの神様に愛されていた。
『――という夢を見たんだ。良かったー夢で。じゃ、今日もゲーム配信やってくよー!オラかかってこいよ雑魚ども!』
そう言って、さっきの敗北を無かった事にする彼女は、こうして笑いのループを生み、最後はブチギレてゲームと配信を切断するところまでが最早セットなのであった。
ガチャッ
「あ、またお兄ちゃんVtuber見てるの?」
俺がVtuberを楽しんでいると、楓花が勝手に部屋へと入ってきた。
楓花には、人の部屋へ入る前にはノックをするとかそういう常識的なものは残念ながら備わってはおらず、こうして抜き打ちで勝手に人の部屋へやって来ては勝手に俺のベッドで横になって、部屋にある漫画とかを勝手に読んでいくのであった。
まぁ妹だから、部屋に来るなとは言わないし別に構わないのだが、せめてノックぐらいはしてほしいのが正直なところである。
だってもし俺が――うん、これはわざわざ言わなくても男子なら分かってくれると思う。
「ねぇそれ、面白いの?」
「え?うん、面白いから見てるんだよ」
「お兄ちゃんってオタクだよねー」
「は?お前にだけは言われたくない」
俺がオタクじゃないとは言わない。
けど、その事を俺より重度のオタクの楓花にだけは言われたくなかった。
楓花の部屋と言えば、部屋中漫画やアニメグッズで溢れていて、まさにオタク部屋といった感じなのだ。
そんな楓花が、学校ではクールで物静かなキャラで通ってるっていうんだから、みんなあの部屋を見たらビックリするんだろうなと思うと、やっぱりちょっと笑えてきてしまった。
「……むぅ、今いらない事考えてたでしょ」
「いや、気のせいだろ。ぷっ」
「あー!やっぱり笑ってる!こんな美少女を相手に笑うとはいい度胸ね!」
「自分で言うかそれ?てか、今のお前は美少女というよりただの干物じゃん」
俺がそう言ってのけると、顔を真っ赤にした楓花は急いで髪の毛を手で整え、そしてかけていた眼鏡を勢いよく外した。
「ふんっ!これならいいでしょ!?どう?これでもわたし、学校ではまぁまぁモテるのよっ!」
そして楓花は、腰に手を当てながら胸を張って勝ち誇ってみせるのだが、残念ながら服装はまだ上下赤のダサいジャージ姿のままなため、どうにも格好がついていなかった。
しかし、仮にもこの街で四大美女とか呼ばれて崇められているくせに、自己評価が「まぁまぁ」なのもなんとも楓花らしくて笑えた。
楓花は基本的に、他人にあまり興味が無いのだ。
だから、本当はこんなに子供っぽくてちょっとおバカなところがある女の子なのだが、学校ではそれを出していないだけなのだろう。
そう、誰も本当の楓花の事を、まだ知らないだけなんだ――。
それは良い事のようで、もしかしたらちょっと寂しい事なのかもしれない――。
楓花はまだ、この街で気を許せる友達と出会っていないんじゃないかと、俺は少しだけその事が心配になってきてしまった。
「うん、まぁ、楓花はちゃんとしたら可愛いのは認めるよ」
だからここは、俺は素直に褒めてやる事にした。
兄である俺から見ても、ちゃんとした楓花が美少女な事は流石に認めざるを得ないし。
「ふ、ふんっ!分かればいいのよ!良かったねこんなに可愛い妹がいて!これからは笑わずにわたしが一緒に居る日々にもっと感謝してよねっ!」
素直に褒められたのが恥ずかしかったのか、楓花はそう言うと再び寝転がって漫画を読みだした。
――だけど、その顔は少しだけ赤く染まっており、言葉ではそう言うけどその実結構恥ずかしがっているのが丸分かりで、楓花のそんなポンコツなところはちょっと可愛いなと思ってしまうのであった。
という事で、まずは3話まで投稿してみました。
どうでしょうか?
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