第28話「聖女」
更新が遅れてしまい、申し訳ありませんでした。
「ほ、ほほ、星野桜ですっ!」
「え?ああ、えっと、風見良太です。よろしく――」
喫茶店へ入り、テーブルを挟んで金髪の美少女と向かい合って座る。
とりあえず注文を済ませると、彼女はもじもじと恥ずかしそうにしながら俺の様子をチラチラと伺ってきていると思ったら、突然自己紹介をしてきたのである。
こうして、喫茶店に入ってからようやく自己紹介をし合った俺達は、一先ず届けられたコーヒーを飲みながら語り合う事となった。
話題は勿論、Vtuberの桜きらりについてだろう。
ちなみに、飲み物を飲むためマスクを外している星野さんは、やっぱりとんでもない美少女だった。
だから俺は、話の前に一つの確信をもって質問をしてみる。
「えっと、話の前に一つ良いかな?星野さんの中学はどこ?」
「え?えっと、南中、ですけど?」
何でそんな事聞くんだろうといった様子だが、素直に中学を教えてくれた星野さん。
そして俺は、以前晋平に聞いていた他の四大美女との情報を思い出しながら、思わず口にしてしまう。
「そっか、南中だと――聖女」
「えっ?」
「あっ!い、いや!なんでもないです!」
「――ご存じなんですね、わたしが何て呼ばれてるか」
すると星野さんは、いいんですよと自虐的な笑みを浮かべた。
どうやら本人的には、この呼ばれ方をされる事をあまり良くは思っていない様子だった。
「あ、その、すみません。もしかしたらって思って」
「では、知っていたわけじゃないんですね。どうしてそう思ったんですか?」
「それはその、綺麗だなって思って」
「――え?そ、そうですか」
何素直に答えちゃってるんだ俺はと思ったが、星野さんはそんな俺の言葉が恥ずかしかったのか、少し頬を赤らめながら下を俯いてしまった。
「――あの、ちょっと自分語りしてもいいでしょうか?」
「え?ええ、構いませんが」
「――ありがとうございます。わたしは、見ての通り日本とロシアのハーフな事もあって、小さい頃からこの肌、そしてこの髪色は周囲と違って目立ってしまっていたんです。そのせいで、物心ついた頃にはわたしはその事でよく馬鹿にされたりもしたんですが、今思えばその頃の方がまだ気楽でした」
そうして星野さんは、ゆっくりと幼い頃の思い出を語り出した。
星野さんは、その生まれ持った髪や肌の色のせいで幼い頃は色々と辛い思いをしてきたようだ。
「そんな小学生の頃のある日、クラスで劇をやる事になったんです。わたしはこんな見た目してるから、当然のように修道女役を任されました。そしてその時からです、わたしが周囲から聖女様だなんて言われるようになったのは。別にわたしは特定の宗教に熱を入れてるわけでもない、普通の女の子なのにですよ」
そう言って星野さんは、可笑しいでしょとまた自虐的に笑いかけてくる。
でも俺は、そんな思い出しても辛そうな星野さんを見て笑う事は出来なかった。
「こうして小学校の高学年に上がった頃には、あだ名は完全に聖女様になってました。そのまま中学では『南中の聖女様』だなんて恥ずかしい異名みたいなものまでついてしまっていました。それからのわたしは、男の子達からはいつも注目されるようになって、そのせいで女の子達からは煙たがられるようにもなってました。だから友達居ないんですよ、わたし」
「そう、なんだ。でも、そんな風には見えないけど――」
「ええ、今のわたしはもう元気ですからね。――もうお気づきだと思うので言いますが、わたしが桜きらりです。そんなわたしを知っている貴方なら、きっと今の話しは意外でしょうね。あ、ちなみに、名前が苗字で、星野の星できらり、凄く安直なネーミングでしょ?」
そう言って星野さんは、今度は自虐的ではなく自然な感じで微笑んでくれた。
「あ、このこと他人に口外するのはNGなので、わたしがVtuber活動している事は秘密にしておいて下さいね?」
「うん、それは何となく事情は分かるし守りますけど、でも何でそんな大事な事を俺に?」
「それは、先程声をかけた理由もそうですが、貴方がたけのこさんだったからです」
何でそんな大事な事を俺に?と思ってした質問に、星野さんはニッコリと微笑みながら即答してくれた。
「まだ全然人気の無かった頃、貴方はいつも配信に遊びに来てくれて、それからSNSでも感想とかメッセージをくれましたよね。あれ、本当に支えられてたんですよ?」
「そ、そっか、こうして面と向かって言われるとちょっと恥ずかしいな」
「ふふ、だから、まさかあのたけのこさんに会えるなんて思ってなかったわたしは、思わず声をかけてしまいました」
そう言って嬉しそうに微笑む彼女の姿は本当に美しく、本人的には不本意なのだろうが、それでもやっぱり聖女が現れたかのように神々しさすら感じられた。
だから俺は、当然のようにそんな彼女の姿に思わず見惚れてしまう。
楓花とも、柊さんとも違うその可憐で美しい姿は、思わず自分が守ってあげたくなるような魅力に溢れており、彼女が四大美女の一人だという事を納得せざるを得なかった。
「今日は、初めて自分達のグッズが発売されるという事で、我慢出来なくて売り場にまで足を運んでしまいましたが、来てよかったです。どんな人がわたしのグッズ買うんだろうって凄く楽しみにしてたんですよ」
「はは、そしたら俺だったわけだ」
「ええ、そうです!まさかのたけのこさんです!大満足の結果ですよ!」
ようやくいつもの調子を取り戻してきたようで、楽しそうに少し興奮気味に語る彼女の姿は、Vtuber桜きらりそのものだった。
「Vtuber活動が、わたしを変えてくれたんです。これなら、人から容姿で判断される事も無いし、それに世界中の色んな人とコミュニケーションが取れるんですから、今では本当に毎日が楽しいんですよ」
「確かに、デビュー当初から楽しそうにゲームしてるもんね」
「ええ、元々ボッチのわたしはゲームが友達でしたからねっ!」
「成る程ね。でもその割には、すぐブチギレてゲーム切断するけど?」
「そ、それはっ!あれですよ!パ、パフォーマンスですっ!」
俺のツッコミに、恥ずかしそうに顔を赤らめながら言い訳をしだす星野さん。
そんな今のやり取りは、普段配信中のコメントを通してやり取りしている時と同じで、いつも無理のある言い訳をするきらりちゃんはどうやら普段からそうらしい。
そんな、地でポンコツを発揮する星野さんは、やっぱり桜きらりちゃん本人で、俺はそんなきらりちゃんと面と向かって会話出来ている今の状況が楽しくて仕方なかった。
「でも、やっぱりたけのこ――いえ、風見さんは不思議な方ですね。正直申しまして、こんなに自然に面と向かって話が出来る同世代の男性は初めてです」
「え?ああ、それはあれですよ。俺には星野さんと同じ妹がいるからです」
「同じ妹?」
「うちの妹も、世間では四大美女なんて呼ばれてるんですよ」
「――え?」
「妹の名前は、風見楓花。『西中の大天使様』なんて呼ばれてます」
「えっ!?ええええー!?」
そんな突然の俺からのカミングアウトに、星野さんは思わず声をあげて驚いてしまったのであった。
独りぼっちだった桜ちゃんも、自分の居場所を見つけたのですね。
そんな桜ちゃんにとってとても大切な活動を、初期の頃からいつも応援してくれていた相手が、まさかの同世代で近くに住んでいる事を知ってしまった桜ちゃんは、本当に嬉しかったのでしょうね。
続きます!




