第27話「桜きらり」
無言で向き合う、俺と金髪の美少女――。
言葉は発さないものの、彼女はまるでバレてはいけない事がバレてしまったというような困惑の表情を浮かべており、この状況でこんな事言ってはなんだが、彼女はとても感情が顔に出やすいタイプのようだった。
もうその表情とリアクションで、自分が桜きらりである事を物語っていた。
「あ、い、いや、違います――」
そして暫くすると、彼女は若干さっきとは声色を変えながら否定してくるのであった。
正直もうバレバレなのだが、俺は相手に乗ってあげる事にした。
一応、俺だって相手の事情ぐらい良く分かっているつもりなのだ。
何故なら、多くの企業に属するVtuberは基本的にその活動を口外してはならないという話を、よくSNSなんかで目にするからだ。
ましてや、こうしてファンと交流するなんて以ての外だろう。
だから、さっき思わず口にしてしまったのは大変申し訳なかったのだが、ここは俺も気付いていないフリをしてあげる事にした。
「あ、で、ですよねー。すみません、変な勘違いしちゃって」
笑って誤魔化してみたのだが、ちょっと嘘っぽかっただろうか。
それでも俺は、ここは彼女のためにはっきりと勘違いでしたアピールをしておいた。
これであとは、きらりちゃんグッズを買って帰るだけだと思いながら、店に置かれたきらりちゃんグッズを全種類手にした。
「あ、あのっ!桜きらりのファンなんですか?」
「え?ああ、そうですね。いつも面白いんですよね彼女」
「そ、そうなんですね」
桜きらりの話しをしているというのに、恥ずかしそうな表情を浮かべる彼女。
やっぱり顔に出やすいタイプのようで、マスクで隠れてはいるがきっとその口元はニヤけていることまで伝わってくる。
「大分活動初期から応援してるんで、今日は是が非でもグッズ買わないとと思いましてね」
「へ、へぇ、どのぐらい前から?」
「それこそ、デビュー配信からですよ。たけのこって名前でコメントもしてると思うので、きっとチャット欄にもいると思いますよ」
「――あ、たけのこさん」
「え?」
「い、いや!な、ななななんでもないですっ!」
しまったというように、慌てて誤魔化す彼女。
彼女はどうやら、反応から察するに俺のハンドルネームを認識してくれているようだった。
本当に適当に決めたハンドルネームなのだが、逆に印象に残りやすかったのかもしれない。
しかし、当時はそれ程多く無かったリスナーも、今では配信を始めればすぐに1万人以上集まるのが当たり前のきらりちゃんに認識して貰えていたというのは、素直に嬉しかった。
というか、俺は普通に桜きらりちゃんのファンなわけで、それで今直接本人と1対1で会話出来ているこの状況ってかなりヤバイのでは?と、今更ながらに俺もこの状況に焦ってきた。
「あー、貴女もその、きらりちゃんファンなんですか?」
「え、ええ、そうです!」
「じゃあ、今日は同じくグッズを買いに?」
「え?い、いや、今日は見に来ただけです!もう全部家にあるので!」
「成る程、もう――ってあれ?今日発売ですよね?」
「あっ!それは、その!」
自ら墓穴を掘ってしまい、また慌てる彼女。
恐らく本人の元には、事前にグッズが送り届けられているのだろう。
だから今日は、自分達のグッズが販売される様子を見にきただけなのだと。
しかし、このとことんポンコツな感じは、たしかに桜きらりちゃんそのものだなって感じだった。
まぁ、これ以上ボロを出させるのは可哀そうだし、別に俺は純粋にVtuber桜きらりのファンなだけで、それ以上どうこうしたいとかそういう気持ちは無いため、ここは貴重な経験が出来たという事で早めに立ち去ってあげる事にした。
「じゃあ、僕はお会計してきちゃいますね。どうもさっきはすみませんでした」
そう俺は一言告げて、そのままレジへと向かった。
彼女はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、彼女自身もこれ以上ボロが出る事を恐れたのか、それ以上何も言ってくる事は無かった。
◇
無事にきらりちゃんグッズを手に入れる事が出来た俺は、まさか本人と会話出来た事も相まって満足度120%状態で帰る事にした。
それに部屋では楓花が寝てるままだから、起きて何か悪さされても困るからさっさと帰った方が良いに違いなかった。
「あ、あのっ!」
しかし、店を出た所で突然俺は声をかけられる。
何事かと声のする方を振り返ると、そこには先程の美少女の姿があった。
改めて見てもやっぱり美少女で、これまでの俺ならこの時点でテンパっていたに違いないだろう。
これも、普段から楓花や柊さんという四大美女と接している事による耐性だろうかと思うと、どんな鍛え方だよとちょっと笑えてきた。
そんな彼女はというと、恐らく俺が出てくるのをここで待っていたのだろう。
意を決した様子で声をかけてきた彼女の手と足は、緊張しているのか若干震えているようだった。
「あ、さっきの」
「その、良ければちょっとお話ししませんか!」
「いや、え?」
「そ、その!桜きらりの事で、ちょっと話したいなと思いまして!」
恥ずかしいのか目を瞑りながら、一生懸命俺の事を引き留めようとする彼女の勢いを前に、俺はもう断る事なんて出来なかった。
「――まぁ、もう帰るだけだったし、いいですよ」
「ほ、本当ですかぁ!?」
「ええ、じゃああそこの喫茶店でいいです?」
「は、はいっ!いいですっ!」
嬉しそうに返事をする彼女を見ていると、やっぱり桜きらりちゃんと重なる部分もあって、それだけで俺も嬉しくなってくるのであった。
こうして俺は、桜きらりちゃん本人で、しかも楓花や柊さんにも引けを取らないレベルの美少女と一緒に、これから何故か喫茶店へと行く事になったのであった。
いざ、喫茶店へ!
続きます!




