第20話「目覚め」
日曜日。
昨日は映画を観に外出をしたため、今日はのんびり過ごそうと決めていた俺はいつもより遅い時間に目を覚ます。
枕元の時計を見ると既に11時を回っており、最早朝ではなく昼に起きてしまった。
実は昨晩はVtuberの耐久配信に見入ってしまっており、気が付いたら朝5時前になってしまっていたのである。
その結果、夜更かしをし過ぎた事に驚いた俺はそれからすぐに眠りについたのだが、結果こうして昼までぐっすり眠ってしまっていたというわけだ。
こうなるとよくあるのが、今日も深夜まで眠れなくなって結局そのまま月曜日から寝不足なんて事になりかねないため、とりあえず起きないとなと思った俺は、一先ず顔を洗ってくる事にした。
「あ、起きた」
しかしベッドから上半身を起こすと、何故か俺の部屋のクッションに座りながら漫画を読んでいる楓花の姿があった。
勿論今日は出かける予定も無いため、楓花はいつものジャージを着ながら干物スタイルをしている。
「あ、起きたじゃなくて、なんでいるんだよ」
「漫画読みたかったから?」
「いや、俺寝てただろ」
「うん」
「うんじゃなくて、普通寝てる人の部屋の電気つけて漫画読まないよな?」
「いやいや、何言ってるの?わたしのおかげで起きれたんじゃん」
全然納得は出来ないが、そう言われると俺はぐうの音が出なかった。
確かに楓花の言う通り、俺が起きれたのは事実っぽいからな……。
「――いや待て、だったらすぐに俺を起こしてくれよ」
「えー、だって」
「だってなんだよ?」
「いや、お兄ちゃん幸せそうな顔しながら寝てたから、起こしちゃ可哀そうかなと思って」
そう言って、楓花は「はい」と言って自分のスマホの画面を俺に見せてきた。
何だろうと思って画面に目を向けると、そこには腹を出しながら本当に幸せそうな顔をして眠る俺の姿が映し出されていた。
「おいお前!何撮ってんだよっ!」
「えー、可愛いじゃん」
「可愛くない!いいから消せ!」
「はいはい、消しますよー」
そう言って、スマホをいじって画像を消す楓花――でもきっと、今のは消すフリをしただけで絶対消してないなこいつ。
ニヤニヤと変な笑みを浮かべており、絶対俺の画像を面白がって保存してるに違いない。
まぁそんな楓花に構ってても仕方ないので、俺はとりあえずさっさと顔を洗ってくる事にした。
「え?どこ行くの?」
「どこって、顔洗ってくるだけだよ」
「ふーん、いってらっしゃーい」
どうやら楓花は俺の部屋から出て行くつもりは無いようで、俺が顔を洗いに行くだけだと知ると興味無さそうにいってらっしゃいとその手をひらひらと振ってきた。
ここは俺の部屋だぞと思いながら俺は洗面台へ向かうと、部屋にスマホを置いてきた事を思い出した。
――部屋には楓花がいるし、もしスマホいじられたしても面倒だな
そう思った俺は、気にし過ぎかもしれないが部屋にスマホを取りに戻った。
ガチャリ
俺が部屋へ戻ると、何故かさっきまで座っていたはずの楓花の姿が見当たらなかった。
どこ行ったんだろうと思っていると、明らかにベッドの上の布団が丸く膨らんでいる事に気付いた。
「――おいお前、何してんだ」
俺はその膨らみに近付きながら声をかけるが、その膨らみはゴソゴソと動くだけで応答は無かった。
「おい、答えろってんだ」
そう言って俺は布団を掴んで剥がすと、そこには案の定布団の中で丸まっていた楓花の姿があった。
恥ずかしいのか楓花の頬は赤く染まっており、全くもって何がしたいのか謎だった。
「で、何してんだよ?」
「――さ、寒かったのでつい」
そうか寒かったのか、なら仕方ないな――とはならないけどな。
そんな意味不明な楓花は、それからちょっと恥ずかしそうにしながらゆっくり立ち上がると、それから何事も無かったかのように再びクッションに座り漫画を手にした。
「――で、顔洗いに行ったんじゃないの?」
「あぁ、スマホ忘れたからな――。というかお前、マジで何してたんだ?」
「だから寒かったからって――」
「あー、そうか。俺の残った温もりを感じたかったんだなっ?」
俺はちょっとおちょくるつもりで、そう言って楓花の事を揶揄ってみた。
きっとこう言えば楓花なら怒るに違いないと思っていたのだが、何故か楓花の顔は見る見るうちに赤く染まっていく。
「は、はぁ!?そんなわけ!」
「いやお前、顔真っ赤だぞ?」
「ちがっ!熱いだけだし!」
「いや、さっき寒いって言ったろ」
「もう!!うるさい!!馬鹿兄貴!!」
そう言って楓花は立ち上がると、怒りながら俺の部屋を飛び出して自分の部屋へと帰って行ってしまった。
そして恥ずかしいのだろうか、隣の部屋からはバタバタと騒音が聞こえてくるのであった。
こうして楓花に完全勝利を収めた俺は、その事に満足しつつ今度こそ顔を洗ってくる事にした。
お兄ちゃんのいない隙に、オフトゥンに忍び込む楓花ちゃんでした。




