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第18話「映画と変化」

 俺は楓花と一緒に、映画館へとやってきた。

 これからやっと観たかった映画が観れるという事に、俺は内心楽しみで心が弾んでいた。


 それは、ずっと好きで買っていた漫画がアニメ映画化されたという事で、俺は今日それをどうしてもそれが観たかったのだ。

 作中でも一番の名シーンが映像で観られるというのだから、俺は今日この日が来るのを結構楽しみにしていた。


 しかし、今日は楓花も一緒なのだ。

 だからもし、楓花が他の映画を観たがったら面倒だなという若干の不安を抱えていたのだが、



「ねぇお兄ちゃん!わたしあれ観たいっ!」


 そう言って楓花が嬉しそうに指さした先にあったのは、映画のポスターだった。

 そしてそれは、なんと俺が今日観ようとしていた映画のものだった。


 そういえば楓花は、俺の部屋に来る度その漫画を勝手に読んでいた事を思い出した俺は、とりあえず今日の予定がブレないで済みそうな事に一安心しつつ、時間も無いし楓花が心変わりする前にさっさとチケットを買った。



「ねぇお兄ちゃん、ポップコーン食べたい」

「ん?あぁ、買えば?」

「いやいや、ここはお兄ちゃんが可愛い妹のために買ってあげるところでしょ」

「何でだよ……ってまぁそれはそうか。まぁいい、時間無いしさっさと済ませるぞ」


 こうして俺は、楓花に特大キャラメルポップコーンとコーラを買わされたが、無事にお目当ての映画が観れる事に安堵した。

 そして席へ座ると、楓花はすぐに嬉しそうにポップコーンを食べ出す。



「やっぱこういうところで食べるポップコーンは一味違うよねー」


 そう言って、むしゃむしゃと美味しそうにポップコーンを食べる楓花を見ていると、何だかハムスター的な小動物を観察しているような気分になってくる。


 本当に、黙って座っていれば兄である俺から見ても絶世の美少女なんだけどなと思いつつ、まぁこれはこれで可愛げがあっていいかと俺もポップコーンを掴んで口へ運んでみると、確かに何故だかとても美味しく感じられた。

 家では絶対に食べないけれど、こういう所で食べるととても美味しく感じられるから不思議だった。


 そうこうしていると、会場の照明が落とされる。

 そして、ついに上映が始まる――。



 今日観にきた映画は所謂ラブコメ作品で、主人公とヒロインの出会いからクライマックスまで綺麗に編集されており、初見の人でも涙する程素晴らしい作品だと前評判は順調だった。



 そんな、この映画の内容はこうだ。


 幼い頃から主人公の側にいたヒロインは、中々素直になれないながらも主人公の気を引こうと一生懸命になっていたのだが、結局想いを伝えられず関係は平行線のままだった。


 しかしそんなある日、主人公は家の都合で引っ越さなければならなくなる。

 だが、主人公はそんな状況に困惑しつつも、皆と離れてしまう寂しさからその事をギリギリまで周りに伝える事が出来ないでいた。


 そして、引っ越しまであと一週間と迫ったある日、ついにヒロインは主人公が引っ越しをする事を知ってしまう。

 引っ越しを知ったヒロインは焦り、戸惑い、そしてただただ一人涙した。


 それでも、後悔だけはしたくないと覚悟を決めたヒロインは、二人の想い出の場所に主人公を呼び出すと、ついにそこで想いを伝える。


 だが主人公は、その告白を断ってしまう――。


 本当は主人公もヒロインの事が大好きなのだが、遠く離れてしまう主人公はその想いを殺しながら身を引く事を選んだのであった――。


 そして普通なら、これで終わってしまう恋――だが、それでもヒロインは決して諦めなかった。

 何故ならヒロインは、主人公が本心で言っていない事にちゃんと気が付いていたのだ。

 だからどれだけ距離が離れようと、これまで積み重ねてきた二人の関係はもうそんな一時のすれ違いには負けたりはしなかった。


 そして、その気持ちは主人公も同じであった。

 離れてみて、ヒロインの大切さを改めて思い知った主人公は、必ずまたこの街へ戻ってくる事を決心する――。



 ――そして二年後、高校を卒業した二人は再び想い出の場所で再会する。


 二年も経てば、二人ともその見た目は少し変わっていた――でも、その想いだけは変わらない。


 二人は、幼い頃一緒によく遊んでいた丘の上の木の下で向き合う。



「今度は俺から言わせてくれないか――ずっと好きでした。大好きです。だから俺と――」


 こうして二人は、初めてのキスを交わすと共に無事に結ばれてハッピーエンドを迎えるという、内容としては王道なラブコメなのであった。


 だが、学校一の美少女であるヒロインと、普段物静かな主人公のキャラがとにかく良くて、そんな二人と周囲の個性豊かなキャラ達によるこの甘酸っぱい純愛ラブストーリーは、知れば知る程引き込まれるものがあったのだ。


 だから映画を観終わった俺は、正直涙を堪えるので必死だった。

 流石に妹の隣で号泣するわけにもいかないため、俺はこの込み上げてくる感情を必死に堪えつつ、一人になれる時までそっと胸の中にとっておく事にした。


 そして俺は、同じ映画を観た楓花はどうしているのか気になって、そっと隣へと目を向ける。

 すると楓花は、無表情のまま残ったポップコーンをモグモグと食べているのであった。


 どうやら楓花にとっては、残念ながらこの映画はそこまで刺さらなかったようだ。

 でも漫画は読んでたんだし、さっきはあれだけ楽しそうにしてたのになと思った俺は、なんて言うかそんな楓花を見てちょっとだけ寂しかった。


 俺は感動できたから、出来ればこの感情を共有したかったのだ。

 しかし、今の楓花は見るからに大して感動している様子は無かった。

 てっきり俺は、楓花なら号泣でもするんじゃないかと思っていたのだ――。



「面白かったね」


 しかし楓花は、やっぱり無表情でそう呟くだけだった。



「――ああ、良い映画だった」

「うん、あのさお兄ちゃん」

「ん?なんだ?」

「お兄ちゃんは――ううん、やっぱ何でも無い」


 何かを言いかけて、やめてしまった楓花。

 それが何なのかは分からないが、やっぱり楓花は楓花で、今の映画を観て何か思うところがあったのかもしれない。


 そう思えた俺は、ちょっと安心すると共に、まぁ感じ方は人それぞれだしなと思いながら映画館をあとにした。







 腕時計を見ると、早いもので既に16時を少し回っていた。

 まだ帰るには少し早いなと思いながら、俺は隣を歩く楓花の方を向く。

 まだ時間もある事だし、ディスティニーがなんちゃらと楓花が映画の前に行きたがっていた店にでも付き合ってやろうかと思ったのだが、どうにも楓花は映画を観てから何故か考え込むような大人しい様子だった。



「おい楓花、まだ時間あるしさっきの店行くか?」

「――ううん、今日はいいや」

「そ、そっか」


 ――やっぱり奇怪しい。

 何かずっと考えているような、無表情で隣を歩く楓花は明らかに様子が可笑しかった。


 結局この日はそのまま真っすぐ帰った俺達は、家の階段を上がったところでそれぞれの部屋へと別れる。

 そんな、最後まで様子の可笑しかった楓花の事が気になった俺は、大丈夫かなとちょっと心配になりつつ、もうなんだか映画の余韻に浸る感じでもなくなってしまっていた。

 しかし、気になったからって兄妹の俺が下手に干渉するのも良く無いよなと思い、とりあえず晩御飯までVtuberの動画でも見て時間を潰す事にした。


 どうせあの楓花の事だから、メシでも食えばケロッと元気になってるだろうと思いながら――。



 ガチャッ


 だがその時、ノックもせずに突然俺の部屋の扉が開けられる。


 そして、



「お兄ぢゃあああああん!!」


 いつもの赤いジャージに着替え、そして何故か半べそ状態の楓花が突然部屋へと入ってきたかと思うと、そのまま俺に飛びつくように抱きついてきたのであった。



どうした楓花ちゃん?


続きます!



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― 新着の感想 ―
[一言] 話中の映画のお話よんでみたいです(チラッチラッ)
[気になる点] 笑える時に使う『可笑しい』という漢字を、「少し変なとき」の『おかしい』に使うのは『おかしい』と思う。
[一言] 映画の話は、短編になるにでしょうか?
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