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5.友好国の噂

暫く私生活が忙しくて全く更新できず申し訳ありませんでした………(土下座謝罪)

何を血迷ったのか全話で「明日も更新する」とか記載されてますね。完全に嘘でしたね…本当にすみませんでした。

今日からまた頑張ります。

 翌朝、ヴィオラは昨日と同じ様な時間に起床し、それから汚れ物を持って川に向かった。

 勿論着替えも一緒に、だ。

 冷たい水で顔を洗いタオルで拭うと、そのタオルと一緒に昨日使ったタオルを水洗いする。

 かなり冷たかったが、冬の水仕事よりはマシだと言い聞かせて無心で洗い続けた。

 物干し代わりの長めの枝も洗っておく。


 ある程度洗い終わったら今度は自分の番だ。

 一度周囲を確認し、誰も居ないことを確信すると私は来ていた服を脱ぎ捨てた。

 汚れていないタオルを川の水で濡らし、素早く体を拭いていく。こんな時間に森に来る人なんて居ないと思うが、来ないとも限らない。なるべく早く済ませなければ。


 そうして体を拭き終わると、新しい服に着替えた。同じく街娘スタイルだ。今から服まで洗っていると今日の始業時間までに間に合わないと思った為、服は畳んでリュックに入れておく。



「大分スッキリはしたけど……うぅっ、寒い……」



 まだ日差しが射す程太陽が昇っておらず、体を温めるには人工的な暖を使うしかない。私は急いで野営地に戻った。


 夜とは違い開けた視界の中、枝葉を集めて火を起こす。

 ついでに焚き火の側に先程洗った枝を組んだ簡易物干しを設置し、そこに洗ったタオルを干しておいた。日が出ればもう少し早く乾くだろう。


 朝食の黒パンをもそもそと齧りながら、ヴィオラは片手間に治癒魔法を自分の手にかけると、異国の観光本を開いて読み始めた。



 やっぱりタリンステン海洋王国の食事の記述はいつ見ても素敵ね。少し離れたランシェリア王国と「食の国」の二つ名を王国設立時から競って取り合ってると聞くけれど、本当かしら?


 あぁ、でもアズマヤ帝国の食事は他では見ない珍しい食材が並ぶと聞いているわ。別ジャンルとして見れば、他の色々な国が競えると思うのだけど……。

 それに、どの国も景色が美しいのよね。そう書いてあるもの。


 美しいと言えば……あ、そうそう。ミルヴァレンタ魔法王国! 国土全体に魔力が満ちている不思議な国なのよね。

 魔力が余る程多い地域では土地に収まりきらない魔力が地面から出て揺らめいていて、とっても幻想的だ……と記述があるわ。

 他国ではほとんど見ることの出来ない光景なのよね。


 それと、魔導士の数が他国より圧倒的に多いから、それを利用して国の色々な物を魔力で動かしているって書いてあるわ。

 素敵。練度の高い魔導士が沢山いるのね。

 学校の授業で、ミルヴァレンタの王族は皆膨大な魔力を持っていると聞いたわ。

 きっと、ちゃんと王族主導でこういう魔法特化の国作りをしてきたのね。


 ふふ、どの国も素敵。一度行ってみたいわ。

 田舎暮らしを目指しながら、移住を目指すのもありかしら? 移住先の美しい田舎……うん、悪くないわね。

 その為にもやっぱりお金を貯めなきゃ…。


 そんな事を考えた後、ヴィオラは本を閉じて今日の仕事へ行く準備を始めた。

 と言っても乾いたタオルを仕舞ったり、焚き火の後処理をしただけなのだが。


 さて、それから街へ着いて指定の仕事場へと急ぐ途中、何となくいつもより街がザワついている様な気がした。

 まさか自分の事ではないだろうが、少し落ち着かない。思わずフードを更に下げて、かなり目深に被ってしまった。



「何かしら…? 私の気の所為…?」



 そんなことをぼそりと呟き、狭い視界からそれとなく様子を伺いながら歩いていく。

 時計塔の針は間もなく午前七時。急がねば。

 そうして少し歩いていくと、本日の仕事場へ到着した。

 確かに改装中らしい荒れ方だ。纏めてはあるものの、そこら辺に建材やらが置かれている。


 ヴィオラはそこに居た一人に声を掛ける。



「すみません。本日ここで清掃の仕事をさせて頂く者なのですが……」

「ん? あぁ、そういうのはあっちの兄ちゃんに言ってくれ。俺はただの職人だからな」



 職人を名乗る男が指差した方向には確かに小綺麗な格好をした若い男性が立っている。

 ヴィオラは男に礼を言うと、すぐにそちらへ向かって行って声を掛けた。



「すみません。本日清掃の──」

「あぁ、待ってました。どうぞ中へ。エプロンと掃除道具は中に全てありますので」

「え? あの」

「今日は貴方の他にもう二人来ているので、その方達と分担して掃除してください。それと──」

「あの、書類の確認は……?」

「おっと、そうでした。では書類を」



 声を掛けるなり書類も確認せず早足に店内へ入っていこうとする男に困惑しながらも、ヴィオラは戸惑いがちに声を掛けた。そうするとやっと思い出したかのように男が足を止めたので、ヴィオラは予め手に持っていた書類を男へと渡した。

 それにサッと目を通した男は「問題ないですね」と言ってまた歩き出す。中々足の長い男なので、ヴィオラは小走りで後を追った。

 その間にも業務連絡をされ、それが終わると無言だった。


 奥に着くと確かに二人、人が居た。男女一人ずつだ。

 軽く頭を下げて挨拶をすると、その二人も短く挨拶を返してくれた。



「それでは皆さん、よろしくお願いします」



 そう言い残すと、男は戻って行った。せっかちなのか他の仕事で忙しいのかはわからないが、どちらにせよ()()()()である。



「えーと、それじゃあ担当場所を決めたいんだけど、何か希望は? あ、あたしはマイラ」

「俺はジル」

「ヴィオラです。よろしくお願いします」



 流れで互いに名前だけの自己紹介を済ませ、改めて担当場所を決める。



「今日中に全部終わらせろって話だから、効率良くやりたいところだな」

「そうね。けど最悪、店として使う一階部分だけ隅々まで綺麗にすればいいんでしょ? 二階はそれなりでも大丈夫だって」

「一階はホールとカウンター、それと厨房か」

「じゃあ丁度三箇所だし、それぞれ掃除すればいいわね」



 私が口を挟む間もなく話が進んでいく。話す事は得意でないので頼もしい。



「いや。広いホールを二人、カウンターを一人にした方がいいんじゃないか?」

「うーん…、まぁそれも有りね。じゃあそうしましょ。貴女もそれでいい?」

「えっ? あ、大丈夫、です」

「そ。それなら早速始めましょ。そこに着替え…と言ってもエプロンだけしかないけど、それを着たら服はまとめて箱に入れておいてちょうだい。カウンターの上に置いておくから」

「は、はいっ」



 テキパキとした指示を飛ばされ、何となく慌ててその通りにする。しっかりとした物言いと指示を飛ばすところが、学園の教師の様だったから、そう感じたのかもしれない。


 フード付きマントを脱いで畳み、エプロンを身に着ける。後ろで紐を結んだら固定される、よくある簡単な物だ。



「えーと、ヴィオラだっけ? ホールとカウンターどっちが………って、貴女、随分綺麗な顔してるのね…。ずっとフード被ってるから、顔に傷でもあるのかと思ってたわ…」

「お? おぉ、確かに美人だな。よく見たら顔立ちも幼いな」



 ギクリ、と身体が強ばった。今日初めて会った人に顔を見せても特に問題ないと思っていたけれど、もしかしたら思いもよらないところで私の素性がバレるかもしれない。

 もし、偶然あの人達がこの二人に私の事を尋ねたら……。



 ………けど、ここで動揺したらもっと怪しまれるわ。



「───あはは、ちょっとしたバイトです。欲しい物があって……何となく友人にバレたらからかわれそうだから、フードを被ってたんです。勘違いさせたようですみません」

「へぇ、そうだったの。こっちこそごめんなさいね。じゃあ貴女はカウンターにしましょうか。力仕事は私達に任せて」

「え、でも」

「任せろって。さぁさ、早く始めようぜ」



 男──ジルが二度手を打ち、それに続いて女──マイラも動き出す。二人はホールの端に積み上げてある物を外に運び出し始めた。

 二人が仕事を始めてしまったので、私もカウンター周りを掃除するべく動き出す。

 かなり本格的な改装をした様で、カウンター内には真新しい調理系の魔道具が設置されていた。汚れ防止の為か、布で保護されている。



 うーん、まずはカウンター内の細かい埃を払って、それから水拭きかしら。

 そうとなったら、まずはホウキとハタキと…。



 ヴィオラは脳内で順序立てながら掃除道具を手にする。

 幸い、掃除は慣れている。伊達に数年、下僕扱いされていない。



「……自分で考えて悲しくなってくるわね……」



 はぁ、と小さな溜息を吐きながらも手際良く終わらせていく。あっという間に水拭きが半分まで来た──と、思っていたが、案外時間が経っていたらしい。

 ホールの掃除を終えて厨房に居たマイラがこちらに呼び掛けてきた。



「ねぇ! もう昼だよ! 一旦休憩しない?」

「え? あ、本当だ。いつの間に……」

「あっちにお昼用意してくれてるみたいだから行こうよ。お腹空いたでしょ?」



 その言葉に返事をする様に、ヴィオラの腹が小さな音を立てる。タイミングが良いのか悪いのか、どちらにせよヴィオラは恥ずかしくなって俯いたまま小さく「はい」と答えた。



「あっはは! 体は正直ね」

「う…」

「ふふっ、笑って悪かったよ。さぁ、行こう。ジルが待ってる」



 そう言ってマイラは私の手を取り歩き出した。突然触れられたことに驚いて目を丸くする私に気付いていないのか、マイラは気にせず進んでいく。

 こんな風に、特に怪我もしていないのに手を取られ、引かれるのはいつぶりだろうか。じんわりとマイラの手の熱が私の手に伝わり広がるのが心地良くて、不快だとは感じなかった。


 ジルが待つ空きスペースへ着くと、彼は何やら目を丸くしてこちらを見つめてきた。次いで「お前ら、なんで手なんて繋いでんだ?」と不思議そうに尋ねてきた。

 言われて漸く気付いたのか、マイラは繋いでいた手をパッと離す。



「あっ、ごめん! つい……。嫌だった?」

「いえ、大丈夫です」



 微笑んでそう答えるとマイラはホッとしたような表情で言葉を続ける。



「よかった。ウチの妹と同じくらいの大きさだから、ついその癖で手を掴んじゃったの」

「そうだったんですね」



 そんな受け答えをしながら、用意されたという昼食をそれぞれ手に取って適当な場所に腰を下ろす。



「そういやお前、いくつなんだ?」

「えっ…と…。……十三歳です」

「お、そうなのか。もっと下かと思ってたぜ」

「あたしも下だと思ってた」

「お二人は何歳なんですか?」

「俺は十七」

「あたしは十六よ。ちなみに妹は十一歳」

「ジルさんは来年で成人なんですね」

「いや、今年で成人だ。再来月で十八になるからな」

「それはおめでとうございます」



 再来月で成人なんて羨ましい。私も早く成人したい。そうすればもっと選択の幅が広がるし、様々な手続きが一人で出来るようになる。


 暫くそういった会話を続けていると、ジルが「そういや」と別の話題を切り出した。



「聞いたか?ミルヴァレンタの話」

「あっ、それね。ウチの国は同盟こそ組んでないけど、友好国ではあるし…心配だわ」

「ああ。この国にも、それなりに影響出るだろうな」

「………あの、ミルヴァレンタってミルヴァレンタ魔法王国のこと…ですよね? グリスネイン帝国と何かあったんですか?」



 突然国の名前が出た上、二人はどんどん話を進めていくのでついていけない。



「あぁ、ヴィオラはまだ知らなかったのね」

「昨日、グリスネインがミルヴァレンタに宣戦布告したんだってよ」

「えっ!?」


 宣戦布告!? どうしてそんな…!? 今朝行ってみたいと願ったばかりの国がそんなことになっているなんて…!

 確かにあの二国は仲が良いわけではないが、悪くもなかった筈だ。といっても授業で習ったことなので、私が卒業してから急激に世界情勢が変わった可能性もあるが。卒業してから自分のことで精一杯で、街行く人の話に耳を傾ける余裕も無かった為、十分有り得そうだ。



「どうして…」

「それがよくわかんないんだよな。少し前にグリスネインがいちゃもんつけてから仲悪かったらしいし、無理に理由付けて、ちまちまと嫌がらせしてたみたいだけど」

「大した理由も無く宣戦布告なんてする程馬鹿じゃないだろうし、私ら庶民が知らない何かがあるのかもね」

「けど理由を知らせなきゃ、ミルヴァレンタと交流のある商人なんかからは文句が出るだろう。それに何の兆候もなくってのがおかしいぜ」

「……そんな奇襲の様な形で宣戦布告されて、ミルヴァレンタ魔法王国は勝てるのでしょうか」



 今の話を聞く限り、グリスネイン帝国が一方的に戦争をふっかけた様にしか見えない。もしかしたらミルヴァレンタ魔法王国側も水面下で準備していたのかもしれないが。



「どうだろうな。けど、あそこの国は頭一つも二つも飛び抜けて魔法に精通してるからな。それも王族を筆頭として国民の基礎魔力が高い。そう簡単に負けはしないだろ」

「グリスネインも軍事力はあるけど、魔道士は殆ど居ないし、魔道具は全然使わないって聞いたことあるわ。国全体として魔力が低いからって」

「そう思うと、ウチの国って全体的に平均だよな」

「確かにそうかも」



 私達が住む国、リグザント王国は何を取っても平均だ。だが、逆に何でもそれなりにあると言える。盛んまでは行かずとも貿易は行われているし、国外の行き来に厳しい規制は布かれてしない。

 そんな国だからか、国民の魔力の保有量は各国と比べて平均であるし、それに伴い魔道士の数も多くもなく少なくもない。

 近隣諸国とは全体的に持ちつ持たれつなので積極的に同盟を結んでいる訳では無いが、友好国の証を貰う程度には仲がいい。そのせいなのか、それとも無駄に軍事力を高めて警戒されるのを恐れているのか、数代前の国王の頃より軍拡は行われていない為、軍事力も自国の防衛に問題が無い程度になっているらしい。

 とにかく何でも平均で、穏やかに在る国。それがリグザント王国という国なのだ。

 私としては、それが一番難しいことだと思うのだが。


 まぁ、それはさておき。



「私、将来ミルヴァレンタ魔法王国に行ってみたいんです。だからミルヴァレンタが無くなるのは…嫌です」

「そうね、あたしもミルヴァレンタに勝ってほしいわ。グリスネインが勝ったら、ミルヴァレンタがどうなるかわかったもんじゃないし」

「だな。───っと、そろそろいい時間だ。仕事に戻ろうぜ」



 ジルのその声掛けで私達はそれぞれの仕事へと戻った。昼食後も黙々と働き、どうにかその日中に掃除を終わらせることが出来た。

 仕事が終わり、最初に会った責任者の男に報告を済ませると、予想以上に早く終わったからということで予定よりも多めの報酬を貰えることになった。昼食が用意されていたことといい、かなりのホワイト企業らしい。

 それから着替えて報酬を受け取って、今日一日一緒に働いた二人に挨拶をしてから別れる。

 一度商業ギルドに寄って明日の日雇い仕事を受け、少しだけ買い物をしてから森に帰った。



♯♯♯



「はふ……」



 夕食に炙ったベーコンと、茹でた芋を頬張る。ベーコンの塩気が良い感じの味付けになって美味しい。


 それにしても、ミルヴァレンタが宣戦布告される程グリスネインと仲が悪かったなんて。世間に目を向け無さすぎね。世間話が満足に出来なくなってしまうわ。

 大衆食堂なんかに行ったら多少話が耳に入ってくるんでしょうけど、極力人の目に付きたくないし…無理ね。

 ミルヴァレンタは本当に行ってみたかったのに…戦争ってことは本に乗ってた様な美しい土地が荒れてしまう可能性が高いのね。それに、ミルヴァレンタの近隣諸国に被害が出なきゃいいんだけど……。

 グリスネインも………戦争を仕掛けた方ではあるけど、色々と観光名所があるのよね。


 ハァ、と小さな溜息を零しながらヴィオラは就寝準備をする。明日も平和に朝を迎えて、恙無く仕事を終えて、何の問題もなく(ここ)に帰って来れますように、と願いながら眠りについた。

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