ブルーベリーパイ1 君は友達。
「姫野一陽だよ。よろしくっ!!」
大切ないっちとの出逢いの日は、私はきっと忘れない。
大学4年の春だった─
「姫〜出席カード代返しといて!よろしくね!!」
唯依は本当要領がいい。
いや…単に私が使われやすいだけなのだろうか。
きっとそうだ。
…私の悪い癖。
一度マイナスに考え出すと、どんどんネガティブ思考の渦に巻き込まれてく。
そして一度ハマると、なかなかぬけだせない。
なかなかぬけだせない理由は、もう一つ。
"彼"のことだ。
付き合って半年の彼氏のこと。
最近の一番の悩みの種だ。
ぼーっとしていると、唯依の分の出席カードをもらうのをつい忘れてしまった。
どうしよう。
あぁ、最悪…。
するとななめ前に座っていた、グレーのパーカーを着た男の子がくるっと振り向いた。
その人は小さな声で、
「これ一枚多めにもらっちゃったから、良かったら!友達の分必要なんでしょ?はい♪」
いっちは人あたりのいい、人なつっこい微笑み方と安心感を与えるような柔らかい話し声をする人だった。
私はホッとして笑みをこぼしながらカードを受けとった。
「ありがと〜!!本当助かったぁ!!ありがとうございます♪」
その人はしばらく私を見つめていた。
「あの…?」
そうして屈託のない満面の笑顔で、
「俺、姫野一陽だよ。よろしくっ!!」
そう言ってニカっと笑った。
「さっき友達に姫って呼ばれてたじゃん?俺も姫野だから姫ってあだ名なんだ〜。だからちょっと勝手に親近感♪みたいな笑!」
なんだかもう、ずいぶん昔から友達だったような、そんな気分にさせてしまう不思議な力をいっちは持っているの。
「そっか(笑)!あだ名が一緒ってなんか本当に親近感だね〜!」
「あ、名前なんて言うの?姫…?」
「さすがに姫って名前ではないよ〜(笑)姫衣って言うんだけど、字が姫だからいつの間にか姫になってたの。」
その日気がついたら授業が終わっていて、教室に二人っきり─
こんなの大学に入学してから初めてだった。
楽しい♪
私はそう心から感じていた。
「二人とも姫じゃあれだから…お互い新しいあだ名考えよっか!」
いっちからの提案に私は乗った!
「いいね〜。何にしよっかぁ?」
いっちと居ると嫌なこと悲しいこと、いつの間にか忘れていて。
私の悪い癖もいっちと居る間はどこかへ消えてくれた。
初めて出会ったこの日、私たちは"友達"になり、二人だけの"特別"を交換したの。
「一陽」と、
「姫衣」
私の大切な、甘い甘い日々の始まりだった。