1話
「儂の力をお前に受け継がせる時が来た!」
突然俺の前に黒い服に黒い杖、長く黒い髭を生やした老人のお爺さんが現れた。
「…誰だ?」
「ん?分からないのか?……まぁいいだろう」
目の前に現れたこのお爺さんのことを俺は知らない。だが相手は俺と知り合っているかのような感じだ、え?どうしょ?全然思い出せないんだけど?首が90度にまで曲がってしまうんじゃないかってぐらい頭を悩ませたが名前どころかこんなお爺さん見たことも聞いたことも無いんだけど、あ、よかった、どうやら自己紹介してくれることになった。
「儂の名前は神を殺し神を超越した存在、バルハクムールトだ!」
このお爺さんが名前を名乗った瞬間に俺の頭に雷が落ちたかのような衝撃が走った。
「あぁ、思い出したぜ!」
「そうか!何か不具合が起こったんじゃないかと不安になったぞ!」
俺は今完全に思い出した! なぜ今の今まで忘れてしまっていたのか不思議に思えるくらいだ。このバルハクムールトという名前は俺が中学生の時に想像した存在だ。確か……
「神に挑み、神を噛み滅ぼした者、それが…」
「そうその存在こそがこの儂、バルハクムールトじゃ!」
俺が世界最強を求めて想像した存在それがこのバルハクムールトだった。だが俺が想像してたのはこんなお爺さんのような姿ではなかったはず。そしてその疑問が顔に出ていたのだろう、バルハクムールトは何かを察したかのように語り始めた。
「お前が考えておることはわかっておる。儂が本来の姿ではなくなぜ人の姿を取っているのか疑問に思っているのだろう」
そうバルハクムールトは人ではなかった。だが神に挑んだ際に受けた傷があまりにも深かった。そのため本来の姿では体力の消耗が激しく、人の姿へとならざるを得ない状態にまで陥ってしまっているとのこと。まぁ他にも理由があるらしく本来の姿になることはできないとのことだった………くそっ! 最高にかっこいい姿をこの目で見たかったのにな!
「我らの悲願である神殺し、儂は3柱しか殺せんかった、だが!…………………」
……やべっ、まだ話続くのかよ!そろそろ1時間は経っているんじゃないかと思うぐらいにバルハクムールトは語っている。あ、時計を見たらまだ10分も経っていなかった。
まぁ要するに……なんだろ? 話がどんどん難しくなっていってまとめようにもまとめられないぜ!
「だから儂はお前に力を受け継がせるためにやって来たのだ!」
ん?終わった?なんかぼおーっとでしか話を聞いていなかったのでどんな内容で締めくくったのかは分からないが話が出てこないということは言いたいことは言い切ったってことだろう。
「そうか、わかった、俺が引き継ごう!」
全然話の内容を分かっていないけど、どうせ最初に言っていたように力をくれるってことだろう…多分。それならそれっぽいことを言っていたらなんとかなるだろう。
「そうか、やってくれるか!」
俺が了承の言葉を返したからかバルハクムールトは嬉しそうな表情を浮かべた。
「これからお前が向かうのは名もない世界だ」
……え?世界を移動するの聞いてないんだけど! でも悪くないな!異世界転生?転移?まぁなんでもいいから異世界には行ってみたいなと思ってたんだよね~
「それじゃこれから儂の力をお前に授ける」
バルハクムールトがそう言うと人の心臓がある場所に黒い光りが集まり始めた。かっこいいよなぁ~まるで心臓かのように脈動して動いていんだもんな~。
「それでは授けるぞ! 神を殺し我らの悲願を!」
そう言ってバルハクムールトは手のひらを俺の方に向けると黒い光が向かってくる。それを俺は避けることなく受け入れると体の中に抵抗なく入っていく。
「うぅ、、うぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉーー!」
心臓がはち切れそうなほど激しく鼓動しているのが感じられ、体は全身が炎に包まれているのではないかと錯覚するほどに熱くなり、そして頭は何かを詰め込まれて混ぜ込まれているかのように痛み…いや痛みとかそんなレベルを超えている。
「それじゃ後は頼んだぞ!」
「あぁ、任せろ!」
とか言っていたけど実はそんな感じがするだけで特に痛みなどはなかったのでバルハクムールトの問いに元気よく答えることができた。
「最高にかっこいい最強のヒーローに俺はなる!」
確か俺が中二の頃想像していた数あるストーリーの中の最高傑作の一つバルハクムールトとの冒険はヒーロー物だったはず。まぁ俺が想像しているのは全部ヒーローものなので間違っていることはないんだけどな。
「…は?何を言ってるんじゃ?お前は?」
俺は中二の頃、いやそれ以前からヒーローになりたいと思っていた。
「おい!話を聞け!おい!お前!」
そしてそれは今になっても色褪せることなく思い続けていた。
だけどそれが今夢が夢でなくなるときがやってきた。
「頑張るよ!俺!お前の分まで絶対に最強で最高にカッコいいヒーローになる!」
「違う!お前じゃない!返せ!俺の力を……」
バルハクムールトは姿が消え、そして俺もこの世界から存在が消えた。