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Chance!  作者: 我堂 由果
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暴れるアリス

「アリス、何でここがわかった?」

 川原はやっと顔を上げてアリスと目を合わせて言った。

「ふん。カーナビに一月三日の履歴が残っていたのよ」 

 アリスは不敵に笑う。

「勝手に車のエンジンをかけたのか?」

「そんなことする訳ないでしょ。お祖母様に頼んで、カーナビの中を調べてもらったのよ。お父様もお兄様も私がここに来るの反対してたけど、でも二人共、詰めが甘いのよ」

 アリスは腕を組んで勝ち誇ったように、地面に座る川原を見下ろす。

「暴れていいなら私も参加したい。リク様の訓練のお相手をすればいいのでしょう?」


「桜井、頑張れよ。本気のアリスは滅茶苦茶、強いぞ。あんなジャージ着て来て、やる気満々だ」

 リクの隣に居る田端がリクに耳打ちをした。

「え? アリスってポールさんや川原と同じ能力じゃ――」

「ないんだな。腕力を最も得意としている。ポールおじさんの能力は遺伝しなかったらしい。華おばさんが学生時代陸上部で、体動かすの大好きだったそうだから、そっちに似たのかも」

 アリスは準備運動をしている。これから戦えるのが本当に楽しそうだ。リクはやばいと思い始めた。アリスの笑顔が怖い。できればやりたくない。

「リク様、休憩は終わりましたか? さぁ、始めましょう」

 アリスはニッコリとリクに笑い掛ける。リクは引いた。可愛いアリスが悪魔に見え始めた。

「田端さんは休んでてくださいね」

 リクは嫌々立ち上がった。もうこうなってはアリスと遣り合うしかない。溜息を吐きたくなってきた。アリスの真ん前に立つと、美少女アリスの顔が間近で見られた。本当は嬉しい。このまま見ていられればいいのにと思ったところでアリスのポニーテールが弾むように揺れ、回し蹴りがとんできた。


 回し蹴りをリクが避けた時アリスの足から衝撃波が起こり、それが離れに向かって一直線に飛んで行った。佐久間が手でそれを受け止めたが佐久間の手から空気を震わすビリビリという音が辺りに響き渡った。

「お、やるね」

 佐久間は軽々と受け止めてはいるが、空気の振動が残る中、片眉を上げてそう言った。アリスは間髪を入れずに次から次へと素早く攻撃してくる。リクは辛くも避け続けたが、何度も頬や頭をアリスの手足が掠めていった。その度に空気を切り裂く物凄い音とリクの背後に衝撃波が流れ、それを佐久間が止める。

「ちょっと待ってアリス! 一旦中断!」

 リクは堪らずアリスに声を掛けた。アリスは本気らしく、繰り出される攻撃は半端じゃない。エドや田端のような、初心者リクに対する手加減は皆無である。もろに食らったら骨折するのではないか、下手に受け止めても怪我をしそうだ、と思うとリクは避け続けるしかない。

「リク様! 避けてばかりでは訓練になりませんよ!」

 アリスは苛々した声で叫び、拳と蹴りを繰り出した。リクの話を全く聞いてくれない。

「大丈夫だ、桜井。骨折したら俺が治してやるから。でもアリスに怪我させるなよ。怪我させたら俺も父親もお前を許さない」

 川原はとんでもないことをリクに言う。川原に、どうしろというのだ、と言ってやりたい。しかし川原のその一言でアリスは攻撃をピタリと止めた。そして離れの屋根の上の川原を睨み付ける。

「怪我をさせたら許さないってどういうこと? 私は真剣にやっているのよ」

 アリスも離れの屋根に飛びのった。そして兄である川原に詰め寄る。

「だって……心配で」

 アリスは川原の体に手を回すと、離れから引き摺り下ろす。アリスはそのまま川原を離れの裏に引き摺って行った。川原のしどろもどろの返答にアリスはキレたらしい。


「あの兄妹の喧嘩は放っておこう。いつもの話だ。続きやるぞ、桜井」

 今まで川原とアリスの遣り取りを唖然として見ていたリクは、田端の一言で我に返った。ポールや川原と違うタイプと言われても、リクはアリスが母屋や離れに囲まれたこの裏庭で、まさかあそこまで暴れるとは思っていなかった。佐久間が居なかったら裏庭は壊滅的な状態だったろう。

『だから大丈夫だって、それに心配されなくても私は……』

 リクはふと学園祭の帰りに気になった、アリスの言い掛けた言葉を思い出した。あの時川原はアリスが男子生徒に絡まれるのを心配していた。でもこの強さなら、例え相手に手を出されてもアリスは男子生徒なんて簡単に撃退できる。あの言葉はそのことを意味していたのではとリクは納得した。

「しかしアリスが言っていたことも一理あるな」

 田端は斜め上を見ながら何かを考えている。

「避けてばかりでは訓練にならない。防御と攻撃を短時間で何度も繰り返す訓練も必要だ。さっきから見ていると桜井は防御は得意そうだから、この程度の訓練なら骨折はそう簡単にしないだろう。もしもの際は川原もいるし。また徐々にスピードと威力を上げていくからやってみろ」

「わかった」

 田端自身の動きは芸術的な程、無駄がなく鋭い。そして田端は初心者のリクにも戦闘を教えるのが上手い。リクは夕方までにかなりの動きを覚えられた。リクは今日一日付き合ってくれた田端に感謝していた。


 結局アリスは川原との喧嘩が終わるとリクと田端の戦闘の見学に回った。アリスも田端のリクへのアドバイスを参考にして、嫌がる川原相手に体を動かしていた。流石に訓練が終わるとアリスも持ってきた私服に着替える。学校のジャージは結局あまり役に立たなかった。白いセーターと青い膝上十五センチ丈のスカートというシンプルなファッションだが、やはりアリスは可愛いくて、リクはチラチラ見てしまった。チャンスを紹介するとアリスは『かわいい!』と言ってチャンスを抱きしめたまま離さない。夕食までチャンスと遊ぶと言って、いつもチャンスがチェスをするテーブルでオセロを始めた。チャンスは仕方なさそうにアリスに付き合っている。結局アリスは一度もオセロでチャンスに勝てず、『かわいいのに、ムカつく』と言って、物凄く悔しがっていた。その間リクとキースで夕食の準備をし、全員に食事をふるまった。リクは夕食の間、私服のアリスをチラチラ見る。やはりアリスは可愛い。リクにとって今日これはラッキーだった。一日頑張った御褒美の気がした。

 隣の席の田端を見ると彼も嬉しそうにアリスをチラチラ見ていた。川原のみ不機嫌顔だ。夕食を食べ終わると、田端と川原とアリスは帰って行った。

読んでくださってありがとうございました。

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