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Chance!  作者: 我堂 由果
95/427

完璧

 翌日、リクはやっと川原に会えた。そしてやっと顔を見て正月の事件を謝れた。川原は気にするなと言ってくれてはいるが、相変わらずちょっと怯えていた。

「川原、大袈裟なんだよ」

 田端は大したことないと思っているようで、ペットボトルのお茶を飲みながらのんびりそう言った。川原はリクをチラチラ見ながら言う。

「田端は見てないからそう言うんだよ。あの姿はやばいって。性格も残忍だしさ。父親が来てくれてホッとした。バス停で父親に電話しといて正解だった」

「俺も燃やすぞって脅された。スッゲー怖かった。日頃の桜井からは想像も付かない迫力でさ。でもキース平然としてたよな。あいつに付き合ってやろうとしてたし」

「キースはあの位じゃビビらないさ」

 川原と笹本の会話を大袈裟だと言って田端は笑っている。ペットボトルのミネラルウォーターを持った雨宮が遅れて学食へやって来た。

「遅くなって悪い。飲み物の自販機、混んでてさ」

「一月三日の日の桜井がやばかったって話、また聞かされてたんだよ。川原と笹本がビビってる」

「俺も見たかったな。その姿。聞いた話だとキースはいつも通りだったし、ポールおじさんも普通に接してたんだろ? じゃあ、大丈夫だよ」

 雨宮がペットボトルの蓋を開けながら言った。

「見てないから田端もお前も反応薄いんだよ。あの突き抜けてイカれた性格に付き合えんのかよ」

 川原は強く言うが、雨宮も田端も大袈裟だと言って相手にしない。

「川原は取り敢えず目の前に、目を覆いたくなるような変死体を作って欲しくないだけだろ?」

「そうだけど」

「なら人殺しよりも面白いことがあるって教えてやればいいんだよ」

 雨宮はミネラルウォーターをゴクゴク飲むと、思い付いたように言った。

「何だそれ」

 川原が不満そうに言う。

「さっさと痛め付けて、さっさと死体は始末して生きてる奴の記憶は挿げ替えて、早く他のことしようって誘う」

 雨宮は楽しそうに話を続ける。

「他のことって何があるんだよ」

 川原と雨宮の会話を聞きながらリクはまた雨宮達の、この家系特有のずれた考え方を聞くのかと思うと憂鬱になってきた。彼らの思考回路は一般人とは違う。特に日頃真面に見える雨宮の、スイッチの入った時のギャップは酷い。流石にここまで危ない話、笹本は大丈夫だろうか。正面に座る笹本を窺うと、信じられない物を見るかのように目を見開いて、ただ聞いている。


「あいつの最終的な狙いはエドおじさんのトーチだろ? それを聞き出して、じゃあエドおじさんを効率的に襲う計画を一緒に立てようって言えばいい」

「一緒って、雨宮、あいつがお父さんを襲うの手伝うのか?」

 突飛な話をする雨宮に、リクは訳がわからず質問した。

「まぁ、そうだ」

「でも、それじゃあお父さんは……」

「エドおじさんは強いから大丈夫だろ? 後はエドおじさんが始末付けてくれるさ。それで解決!」

 もしそんな事態に直面したら、雨宮は適当に引っ掻き回してからエドに押し付けるつもりだ。リクは目眩がしてきた。右手で額を押さえて溜息を吐く。

「雨宮、頭いい。それ名案だな」

 今まで黙って話を聞いていた田端が、得心がいったと雨宮に同意している。リクは再び笹本を見た。笹本は嫌そうな顔で雨宮と田端を交互に見ている。いくら付き合いが長くても、ここまで酷い三人を笹本は見たことがないのだろう。これが彼らの本性だと笹本に心の中で話し掛けた。リクはこの真面じゃない話題を変えようと思った。そう、水野の話をしなければ。


「五日の日に買い物してたら水野に会ったんだ。水野のお父さんと俺のお父さんと話していたけど、水野に俺とお父さんの関係がばれたらとヒヤヒヤして」

「別にばれたってエドおじさんは怒らないと思うぞ」

 田端は飲み終わったペットボトルを捩り潰しながらそう言った。

「怒る怒らないじゃなくて嫌なんだよ、水野に知られるの。水野が知ったら水野のお父さんにも知られるだろう? 何かお父さんの弱み握られるみたいで」

「桜井が嫌なのか?」

 雨宮は不思議そうに聞いてきた。

「お父さんの仕事に障るんじゃないかと」

「そっちよりも気にすべきは俺らの秘密だよな。それさえばれなきゃ大半のことはきっとOKだ」

 川原が気楽そうに言ってくれる。リクはエドにも立場という物があるだろうと心配していた。リクにとっては成人まで衣食住に困らなければ、別に世間に親子と認めてもらえなくても構わないのだ。フォレスター家の遺産にも興味はない。

 予鈴が鳴った。今日はここまでだ。明日からはもう少し真面な会話がしたい。リクは食べ終わった食器を片付けながら、異常な会話に参っているのではと、隣で片付けている笹本を見た。結構テキパキと食器を片付けていた。案外、笹本は図太いのかもしれないと思った。


 放課後リクは笹本と体育館へ向かっていた。今日バスケ部は体育館の半面を使って活動している筈だった。広瀬と他の一年生のメンバーにも礼を言おうと、リクは帰りのホームルームが終わると直ぐに体育館へ向かった。この時間ならまだ活動は始まっていないだろうし、邪魔にはならないだろうと思ったからだ。笹本と一緒に下校せず体育館へ急ごうとするリクから、バスケ部員に用があると言われた笹本は、『俺も付いて行く』と言って一緒にやって来た。体育館に着いて入り口から中へ入ったがまだ人は誰も居ない。誰か来るのを待つ間、リクは笹本に昨日の広瀬の行動を話した。

「広瀬ってそんな奴だったんだ。意外。中学時代も同じクラスになったことがないから、どんな性格か知らなかった。外見と、とび抜けていい成績だけしか情報入ってこないもんな。俺も広瀬はクール系かと思ってた」

 体育館のドアの方からガヤガヤと人の声がした。誰かやって来た。でもドアを開けて入って来たのはバスケ部員ではなくバレー部員だった。バレー部員達は放課後の体育館には場違いなリクと笹本をジロジロ見ていたが、やがて興味が無くなったのかネットを張り始めた。次にドアが開いて入って来たのが、リクが会いたかったバスケ部の一年生達だった。広瀬の姿もある。

「あの!」

 リクと笹本の脇を素通りしようとしたバスケ部員達をリクは呼び留めた。四人は足を止めて、一斉にリクを見る。

「昨日はありがとう。お礼を言いたくて来たんだ」

 四人は最初何の話だかわからないという顔をしていたが、四人の中の一人が急に思い出したような顔をした。

「あー、思い出した、あいつだよ。昨日の放課後、階段の途中で座り込んでいた茶髪」

 その通りである。他の三人もそれで納得した表情をした。

「俺達は立ってただけだよ。介抱してたのは広瀬だろう」

 真っ先に『思い出した』と言ったバスケ部員が、そう言って広瀬を前へ押し出した。

「え? 俺? いや、当たり前のことしただけだけど。もう大丈夫なのか?」

「うん。今日はもう大丈夫。でもあの時は助かった。本当にありがとう。部活で使う物、飲み物とかシェイカーとか、俺が使っちゃってごめん」

「あ、それこそ大丈夫だったから。気にしないで。でも元気になって良かった」

 そう言うと広瀬は爽やかに笑った。


 リクと笹本はバスケ部員に別れを告げて下駄箱へ向かった。一緒に廊下を歩く笹本のテンションが低い。

「笹本どうかしたのか? 元気ないぞ」

「いや、何か、広瀬スゲーな。同じ男として凹む。やっぱ神様って不公平だ。あれじゃ欠点全くないよ」

「だよな。イケメンで、成績よくて、運動神経よくて、更に性格もいいなんて。羨ましい」

 広瀬を褒める言葉はいくらでも出るが、貶す言葉は何一つとして思い浮かばない。

「はぁー」

 下駄箱で靴を履き換えながら、リクは思わず溜息を吐いてしまった。


 翌朝。リクが下駄箱から教室へ向かって歩いていると、前から広瀬がやって来た。それまで無表情だった広瀬はリクと目が合うと、何かに気付いたように笑顔になった。

「おはよう」

「お、おはよう」

 いきなり挨拶をされ、リクは面食らいながらも何とか挨拶を返せた。

 リクは驚いていた。どうやら広瀬はリクの顔を覚えたようだ。広瀬は急いでいるのかそのまま早足で通り過ぎて行ったが、リクは周囲の女子からの不満そうな視線を浴びた。

「広瀬君とあれ、仲良いの?」

「挨拶してたわよね、あれ誰?」

 女子生徒の会話が聞こえた。『あれ』とはリクのことだろうと、ビクビクしながら周りを見回すと、リクを睨め付ける女子達の不躾な視線。取り敢えずリクはその場から逃げ出す。そして脇目も振らず三組の教室に飛び込んだ。

読んでくださってありがとうございました。

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