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Chance!  作者: 我堂 由果
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花冠の夢



 キースの姿が見えなくなるとリクは薪の束の所へ戻り、薪を一本拾って上に放り投げて、落ちてくるところを、力を使って足で蹴った。薪は綺麗に真っ二つになったがやはりリクらしく、薪は勢い弱く数メートル転がって止まった。そのまま足で真っ二つにしたり粉々にしたりを続けたが、ズボンが木屑に塗れるだけでエドのように気持よく飛び散らなかった。リクの体の中でトーチがうずうずしている。リクの思い切りの悪さに苛々しているのかもしれない。燃やせば早いぞと訴え掛けているようだった。


 日も大分西に傾き体が冷えてきた。母屋へ戻ろうと表の庭へ向かって歩き出したが、途中で一歩を踏み出そうとした足が異常に重くなった。何故か足が思うように動かない。そのうち全く足に力が入らなくなりその場に膝をついた。何が起きたのかリクには皆目見当もつかない。誰かを呼んだ方がよさそうだが声さえも出ない。

「誰……か」

 やっと小さな声を搾り出せたが、これでは誰にも聞こえないだろう。そう思うと怖くなってきた。目の前の景色が歪んでいく。もう膝をついた状態でもいられない。リクはその場に倒れると目を瞑った。そこで何も感じなくなった。


 リクの目の前には二人の子供が居た。一人は五歳位の男の子。柔らかそうなウェーブの掛かった、茶色味を帯びた黒髪に美しい緑の瞳。リクはこの子に見覚えがあった。キースにそっくりだ。そしてもう一人は女の子、なのだと思う。それは花柄のワンピースを着ているからだ。何故そんなに認識が曖昧なのかというと、女の子の顔が見えない。その女の子には顔から胸元辺りまで白い靄が掛かっていた。二人の身長差はあまりなく男の子の方が少し大きいだけだから、その女の子は男の子よりも一、二歳年下なのだろう。女の子は男の子の手を引いて、シロツメクサの花畑をどんどん進んで行く。

『キース、こっち、こっち、ナニー(nanny=シッター)が作ってくれたことがあるの』

 いきなり女の子が男の子に英語で話し掛けた。やはりこの男の子は子供時代のキースのようだ。

『家から離れちゃ駄目だよ。ママとパパが心配する』

『大丈夫、キースが居るから』

 大きな甲高い声でゆっくりと簡単な英語で会話をする子供達。リクは二人の会話を聞き取ろうと集中した。

 その女の子は花畑に座り込むとシロツメクサを摘んで、花茎を結び始めた。その横に、その子を守るようにキースも座った。女の子の小さな手は一生懸命結び目を押さえるがやはり上手くいかない。花の列が崩れてバラバラになった。

『手伝おうか?』

 キースがそう言って女の子よりも二回りほど大きいだけの手で、花茎を結び始めた。そこでリクはふとこの光景に覚えがあった。これはキースの夢ではないかと。クリスマスパーティーの翌日に聞いたキースの夢に状況はそっくりだ。リクは二人の観察を続けた。

 キースの手も小さいので、なかなか上手く花茎が結べない。それでも女の子が一人で作った時よりはまだマシな紐状の花の列ができ上がった。キースは途中でその女の子に花の列を渡し、手を取って結ぶのを手伝ってあげる。花の列はどんどん長くなり、そして最後に列の端と端を閉じた。これがキースの夢と同じなら、この女の子はこれをキースの頭にのせる筈だ。リクは固唾を呑んで見守った。

『できた! キースにあげる!』

 女の子は嬉しそうな声でそう言うと立ち上がり、キースの頭に花の冠をのせた。

『ありがとう、――』

 ありがとうの後が聞こえない。何故音が消えたのだろうと一瞬思ったが、キースは夢の中でその子の名前がわからないと言っていたのを思い出した。もしかして今ありがとうの後に言ったのはその子の名前ではないのか。光景を覗いているリクにもその子の名前はわからなかった。そこだけ全く音が聞こえなかったのだから。その上にリクにはその子の顔が見えない。でもキースの話ではキースはその子の顔を見ている。自分にそっくりだと言っていた。

 季節は晩春かもしれない。日差しが暑い位だ。女の子は再び座り込むと今度はブレスレットを作ると言った。

『今日は暑いよ。帽子を取りに戻ろう、――』

 女の子の名前であろう瞬間、また音が聞こえなくなった。


 目を覚まして辺りを見回すと、リクは佐久間の家のここ数日使わせてもらっていた部屋のベッドに寝かされていた。起き上がろうとしてみたが、体がまるで重しを付けられているように重い。

「リク様」

 チャンスの声がした。声は下の方から聞こえるので、チャンスは床に居るのだろう。

「チャンス?」

「今エド様とミスター・サクマを呼びます」

 チャンスの姿を見たいのだが体が思うように動かない。身体を横向きにして両腕に力を入れると、やっと上体が持ち上がった。そのままベッド下を覗き込むと、やはりチャンスは床の上に居た。時計を見ると午後七時。窓の外は真っ暗だった。

 チャンスはどんな連絡手段を使ったのか直ぐに部屋のドアが開いて、エドと佐久間が入って来た。

「リック、大丈夫か?」

 直ぐにエドがベッドへ駆け寄った。

「大丈夫」

 と口では言ったが体に殆ど力が入らない。

「なかなか戻って来ないから心配して見に行ったら、裏で倒れているのを見付けて驚いたぞ。何があったんだ?」

「わからない。急に体に力が入らなくなって」

 ノックの後リクの部屋のドアが開いた。部屋の中を覗き込んだのはキースだ。

「ポールが来ました」

 キースの脇からポールが部屋に入って来た。キースは部屋には入らず、半開きのドアから部屋の中を見ている。

「倒れていたって? どんな具合だ?」

「体に力が入らないです」

 言ったそばからベッドから転がり落ちそうになった。エドが体を支えてベッドに座らせる。そのまま体を支え続けた。


「ちょっと見せてくれ」

 ポールが額に手を当てる。でも直ぐにポールは手を離した。

「痣の使い過ぎだ」

 ポールは溜息を吐いてからエドに目をやった。

「ここ数日何をしていたんだ?」

「確かに昨日今日は痣の使い方を教えていた。でも昨日は午前午後と分けて基本訓練のみだったし、今日は合わせ技だったから午前中で切り上げたのだが。それでも負担だったのかな」

「ごめんなさい、午後も一人でやっていた」

「年齢的には十六歳八カ月で、大人の一族の通常訓練内容であったとしても普通は問題ないのだが、君はまだ痣を使い始めたばかりで体が小さい子と同じだ。今日の午後は力を使わずに、大人しくしているべきだった。一、二ヶ月で大人同様になるとは思うけど、それまでは気を付けて」

 ポールは再びリクの額に手を置いた。

「治療はするけれど、一週間は痣を使わないで。更に痣から出て体中を自然と包んでいるトーチの力を極力抑えて。痣から力を体へ出さないようにシャットアウトするんだ。指標は痣の色で、それが薄くなるからわかるんだけど、リク君の場合は外から見えないから確認してあげられない。できそう?」

 リクは痣に意識を集中して痣からトーチの力を体の中に出さないようにした。少し漏れ出るが上手くいっている。

「できました」

「俺がいいというまでその状態を続けて。明日明後日は学校を休んで寝ているように。学校にはインフルエンザという診断書を書いてあげるから、三日後から登校していいから。でも体育は一週間禁止。それも診断書を書いてあげるから。明日また診察に来るよ」

 ポールの治療でかなり楽になった。明日から学校に行けそうな気がするが、やはり止めた方がいいのだろう。

「チャンスは仕事に使わない方がいいですか?」

 チャンスと仕事をするキースがポールに確認する。

「今のリク君の状態程度なら、酷使しなければ大丈夫だと思う。でもロボットが次期守護者の痣を通した力を借りるなんて初めてだから、予想でしかない。リク君の様子を見て、負担になっているようならチャンスの仕事を中止させて」

「わかりました」

「リク君は明日もここ?」

「丁度エドが来るから仕事も入れてないし、リクはここで静養して構わないよ。その方がエドも安心だろう?」

「すみません佐久間先生。ありがとうございます」

「しっかり食べて寝るように」

 ポールはそう言い残すと部屋を出た。キースと佐久間がポールを門まで見送りに行く。部屋にはリク以外にエド、チャンスがいる。

「食事は取れるか?」

 心配そうにエドが聞いた。

「食欲はあるよ、大丈夫」

「よかった。さっきキースが駅前に買い物に行って来てくれた。肉を買って来てくれたからからそれを焼こう。食事の支度ができたら呼ぶからそれまで横になっていなさい」

「待って、お父さん、話があるんだ。俺」

「夕食の後で体調がいいようなら聞こう。今は一旦横になった方がいい」

 リクは夢の話をしたかったがエドが遮った。エドはチャンスを連れてリクの部屋を出て行った。

読んでくださってありがとうございました。


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