エドとの訓練3
昼食を終えるとリクとエドは、再び離れの前にやって来た。午後は何をするのだろうとリクはエドの言葉を待っていたが、エドは、今度は特殊な能力の説明をしたいと言った。
「特殊な能力?」
「例えばポールやダニー。彼らはトーチの力で怪我や病気を治せるだろう」
そうだった。あれはどうやっているのか不思議だった。
「これは生まれ付きそういう能力が有るか無いかで決まってくる。この怪我や病気の治療をする特殊能力は自分に能力があることが小さい頃から自覚できるらしいし、親から子へ能力が遺伝することが多い。例えばポールの息子のルカはこの能力があるし、ダニーの場合は父親にこの能力がある」
遺伝ということは、アリスもポールや川原と同じ能力だろうと思われた。
「それから後は、最近はいないが過去には未来を見通せる者とかいたな。そのうち色々な特殊能力に出会うだろうから、その都度説明していこう。そして今回、俺も初めて見た。夢で過去を見る能力、お前だ。フォレスター本家にその能力を持つ者がいた記録を見たことないが、もう一度家系図を調べ直して、その能力が発現した者がいたか探してみよう。佐久間先生も別方向から独自で調べてくれるそうだ。他に説明が要りそうな能力は……」
エドは暫く考え込む。
「そうだ、暗示と記憶操作か。暗示とは本来相手に暗示を掛けたことを気付かせずに行動や思考を強制することで、一般人相手だと簡単だが、一族同士ではそうもいかないことが多い。頭を防御して激しく抵抗する。結局、強い方が弱い方を無理矢理捻じ伏せて、したくないことをさせる形になる。暗示というよりは思考や行動を本人の意に反してさせる、というのが本当は正しいのかな。それでも一応、能力の分類では暗示という言葉で一括りにしている。五月にお前を襲ったウィルを静かにさせた奴がいただろう? 彼は一族トップクラスの暗示のスペシャリスト。まだ十五歳のウィルは抵抗しきれなかった。あれも暗示の一種の行動操作。指で暗示を掛けて勝手に喋ったり暴れたりできなくさせた。そのまま飛行機に乗せてアメリカへ連れ帰った。それと暗示に関してだけは体の一部に直接触れなくてもできる者が、一族にはかなりいる。夏休みに俺の母リリーがお前に掛けようとしていたのも暗示だ。彼女は目が合った相手を動けなくさせ、それから手で頭に触れて思い通りに操ろうとしていた。他には暗示を掛けたい相手の肩を軽く叩くだけでとか、手や指の動きを見せるとか、話し掛けて言葉で操るとか、各々気付かれ難くかつ自分のやり易い方法を見付けて利用している。一般人に対してはこの方法で十分効果がある。でも一族は抵抗するから、一族相手の場合は直接体にしっかり触れる方が、暗示が成功する確率は高い。記憶操作はこの間キースがやっていただろう。嘘の記憶の上書きだ。記憶操作は頭に直接手を触れないとできない。記憶という大量の情報を扱うから時間も掛かる」
そういえばキースは一組の奴らの頭に、かなりの時間直接手を置いていた。
「これらは特殊技術というやつで、基本、痣を持つ者なら誰でもできるが得意とする者とそうでない者がいる。どちらも他人の頭の中を弄る技術だからとても難しい。暗示も記憶操作も失敗すると相手の脳にダメージが残るから、実はかなり能力に自信がないと危険なんだ。この技術に関連していることを一つ話していないな」
エドは一旦、暗示や記憶操作とは違う話をしたいようだ。
「一族の者達は元からIQが高い者が多いが、更に頭に届いている力を使って脳の働きを活発にし、IQを高めることができる。でもこれも個人差があって、大して力を脳で利用できない者から天才的に上手い者までいる。面白いことにこの脳で力を利用するのが上手い者ほど暗示や記憶操作が得意だ。また脳に対しては送り込む力の量を自分の意思でコントロールしたり、練習や訓練で高めたりすることはできない。脳が情報を処理したり記憶したりしている時に、どれだけ力が自然と脳に流れ込める体質かにIQの上昇度はかかっている。よって生まれ持ったIQが高く脳に力が流れ込む能力も特別に高い者が、天才とされる」
リクはキースを思い出す。元からのIQもかなり高そうだし、あれこそ正に天才だ。しかしリクの脳は果たしてどの位力を利用できるのだろう。それで成績が上がるといいなと思うが、リクの元のIQは多分普通だ。佐久間の話ではリクの母は記憶力が素晴らしかった。エドもきっとIQは高いだろうし確かめる気も起きない。二人の子供であるリクはもう少し頭がよくてもいい筈なのにと、リクは二人の脳味噌の出来が遺伝しなかったのを非常に残念に思った。そういえば成績のいい友人三人はどれ位、力を使って勉強しているのだろう。でもエドは、一族は元からIQが高い者が多いと言っていた。リクの勘は三人共生まれ付きIQが高い気がすると言っている。更に頭に力を流れ込ませるのも上手いのでは……三人に実際のところを聞くのが怖い。
「頭脳、身体能力、特殊能力、どれか一つまたは複数の能力が一族内トップクラスの者を、痣の使い方が上手いと言うんだ。一族の上位実力者とはそういう連中が多い。こういう連中の中には訓練なんて然程しなくても、生まれ付き痣の使い方が上手い奴もいる」
夏にスティーブも、生まれ付き才能がある者がいると言っていた。
「話はこれ位かな。まずは午前中の続きをやろう」
エドはそう言うと薪を拾い上げた。
翌朝、今日でリクとキースとチャンスはマンションへ戻らねばならない。明日からリクは学校が始まる。ただ明日キースとチャンスは一日エドの仕事を手伝うので、朝リクが学校へ行ったら佐久間邸へ戻って来るつもりだと言っていた。でもリクは今日でエドと過ごすのは最後になる。
「昨日、ざっと一通り痣の使い方の基本を教えた。あの教えた動きを組み合わせて、一族は戦闘をするんだ。だがリックには最後に一つ、守護者にしかできないことを教えなければならない」
エドとリクは今日も離れの側に来ていた。離れは母屋の裏手にあるし背の高い木も多いので、完全にではないが外から見え難いのだろう。火の力を人に見られると困るリクとエドには、恰好の練習場所であると思われた。ただ離れの中に佐久間の大切な物があるという点を除いては。
「守護者と次期守護者にしかできないことだ。これが一族の他のメンバーとの力の使い方の差となる。ちょっと準備が必要だな」
エドは離れの裏の水道栓にホースを繋ぐと、離れ周辺に水を撒き始めた。地面だけではなく、離れや母屋の壁にも水を掛ける。辺りをかなりびしょ濡れにしてからやっと、エドは薪を一本拾い上げた。それを手刀で縦方向に十字に四分の一に割り、その一つを更に横半分に割った。そしてでき上がったその小さな木片一つを手に取る。
「危ないから少し下がっててくれ」
そしてエドは離れからも母屋からも距離を置いた開けた場所へ移動した。なるたけ周囲に物の無い場所で、手の中の薪を見詰める。そして次の瞬間、リクは驚いた。エドの手の中の木片は破片になって吹っ飛んだだけでなく、その粉々の破片達は燃えていた。エドの周辺には火の粉が舞っている。
「お父さん!」
リクは地面に落ちている燃える破片や空中を漂う火の粉に、ホースで水を掛け捲った。
「まずかったな。薪は小さくしたし威力は極力押さえたんだが、思ったよりも火の粉が舞ったな」
「この季節の東京は火事が多いんだから、火は危ないよ」
リクはホースの口をかなり狭めて大きな放物線を描くように散水し、念の為離れの屋根や母屋の庇にも水を掛けた。
「俺は守護者だから体の中のトーチの火で直接燃やすこともできるし、痣を通したトーチの力で破壊することもできる。今のは、それを同時にやった。守護者でない一族の者は、トーチを燃やす為の火としては扱えないからな。これが守護者とそうでない者との差だ」
だから粉々になって燃えたのかとリクは納得した。
「ただ次期守護者のリックはちょっと違ってくる。これは次期守護者の時のみなのだが、痣を通して大元のトーチの力も株分けされたトーチの力も利用できる。でも痣を通して使うのはできるだけ大元のトーチの力の方がいい。大元のトーチの力を痣を通して使い、株分けされたトーチはそのまま火を点ける為に使う。それを同時にやれば、木端微塵の上に燃える。今見せた技術を効率よく使う為には、次期守護者はその方法が一番いい」
エドはリクに八分の一にした薪の一つを渡した。
「大人しいリックの場合はそう火の粉は飛び散らないだろう。今まで練習してきた両方の技術を一度に使うんだ」
昨日のリクの思い切りの悪い力の使い方なら、火事の心配はなさそうだとエドは予想したようだが、それは間違いであった。燃やす方を担当する株分けされたトーチの性格を見落としていた。リクの手の中で木片は、高さ一メートル程の火柱を上げてから四方に砕け散った。リクとエドは急いで再度辺り一面に、水を撒かねばならなかった。
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