表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Chance!  作者: 我堂 由果
87/427

エドとの訓練

 インターホンが鳴った。キースが帰って来た。佐久間が門と家のドアの鍵を開けると、直ぐにキースは家の中へ入って来た。髪は夏休み頃と同じ位の長さにバッサリと切られていた。今回、髪は染められず黒髪のままだ。右手にはエドに頼まれた、あり得ない位、大量のパンの入った大袋を下げていた。

「お帰りキース。チャンスは俺が預かるから、これからは月に一度位は床屋か美容院へ行きなさい」

「仕事が忙しいです」

「そういう時は仕事を減らしたり遅らせたりして構わないよ」

 佐久間とエドの言葉にキースはムッとした顔をしている。床屋や美容院が嫌いなのかもしれないとリクは思ったが。

「時間が勿体ない。髪が伸びたって何も困らない」

 キースはボソッとそう言うと、ローテーブルの上のチャンスを抱え上げてチェス盤の前のソファに座った。『時間が勿体ない』というキースの言葉がリクには引っ掛かった。やはりキースは自分には時間がないと思っている。先程の言葉はそう言っているも同然だった。昨日の水野親子に対する態度も全く将来を考えていないものだ。将来どこかで矢上グループと仕事をする可能性があるなんて、きっとキースは微塵も思っていない。リクはキースに何もしてあげられないのが悔しかった。

「リク様もご無事なようですし、ミスター・サクマ、続きをお願いします」

 バッテリー上がりの心配の無くなったチャンスはやる気満々で、佐久間をゲームに誘っていた。


 翌朝、エドとリクは佐久間家の庭に居た。痣を使う練習をする為だ。冬休み中はエドが日本に居るので、エドがまずはリクの指導をしたいと今朝、佐久間に申し出た。親がじかに教えられるのならその方がいいと、今日・明日はエドが教えることになった。

 今、佐久間は未だに飽きもしないで挑んでくるチャンスと部屋の中でチェスをしている。キースも駒を動かす手伝いの為に室内に残っている。


 離れの側の大きな庭木の根元ではエドが、リクが日頃燃やしている薪を一本持って立っていた。

「今日は燃やすのではなく砕くぞ。粉々に」

 そう言った瞬間にエドの持つ薪は、木端微塵になった。空中に飛び散った細かい木くずがパラパラと地面に落ちて行く。リクは目を見開いてその光景を見ていた。

「どう……やったの?」

 燃やして灰になり粉々にした残骸はいつも自分で作って見ている。でもこれは燃やしていない。木そのままの状態で粉々にしていた。

「今度はお前の中のトーチその物は使わない。痣を通して感じている大元のトーチの方の力を借りるんだ。痣をよく意識してみろ。痣から出た力が、全身にうっすら行き渡っているだろう。そしてその力が不可能を可能にしてしまえる気がしないか?」

 それはチャンスが言っていたことにも通じる。確かにそんな感覚だ。

「じゃあ痣から更にトーチの力を引き出して手に向けて集めて、これにぶつけてみろ」

 エドは薪を一本リクに差し出した。リクは右手で受け取るとトーチの力を引き出して右手に集めるという作業に挑んでみた。難しいのではと思ったが、そこまでは案外簡単にできた。そして薪をじっと見詰める。

「薪が粉々に砕けるのをイメージして、燃やす時のように力をぶつけろ」

 リクは言われた通りやってみたが、薪はビクともしなかった。裂け目さえ入らずそのままの状態だ。

「やってみてるんだけど上手くいかない。どこが駄目なんだろう」

「そうだなぁ、リックは大人しいから物を壊すというイメージが弱いのかな。トーチがお前の意思に反して物を燃やそうとしている時、かなり強い力で対象物に向かって行こうとするだろう。それを真似してみろ」

 リクはトーチを思い出す。燃やしたくなると結構強引だ。引き止めるのが至難の業だ。あの強烈さが必要なのかと思うと、日頃争いを好まないリクには気が重かった。でも折角、痣が見付かったのだからやってみたい。リクは薪を握り締める。薪を粉々にするイメージを頭に思い浮かべて、トーチの強引さを真似て、再度右手に力を集中させた。

「あ」

 薪は砕けた。砕けはした。しかし砕けたというよりは崩れたという感じだった。先程のエドのように、木屑が空中に飛び散ったりしなかった。手の中の薪が徐々に木屑になってそれが薪全体に伝わっていき、それから重力に従ってボロボロと地面に落ちて行く。そんな様子だった。エドも口を開けてポカンとして見ている。全く迫力がない。


「うーん。リックの性格が壊し方にも表れているのかもな。でも、できはしてるよ。初めてにしては素晴らしい」

 エドは笑いながらそう言うと、新たな薪を一本拾ってリクに渡した。リクは再びやってみるが、薪はまた崩れた。何度やっても変わらなそうだ。

「まぁ、これはこれでいいだろう。大丈夫、そのうち慣れるさ」

 エドは薪を一つ手に取ると空中に放り投げた。空中で静止した後、落ちてくる薪に向かって握り拳を向ける。そのまま真っ直ぐに拳に向かって落ちて来た薪は、拳に当たると粉々に砕け辺りには突風が巻き起こった。風見鶏が狂ったように回り、木屑が周辺の木や家屋の壁に当たってパラパラ音を立てる。更に舞い上がった木屑が雪のように上空から降り注いだ。リクは以前にリクを襲った時のウィルを思い出した。ウィルの拳も突風を起こし、部屋の中の物が吹っ飛んだ。

 リクも薪を空中に放り投げエド同様に拳をぶつけてみた。予想通りであった。薪は砕けたが突風は起きず、風見鶏も全く回らない。砕けた木屑はほぼ全部、リクの頭の上だけに降り注いだ。リクは全身木屑塗れだ。エドはリクに近付くと、頭の上の木屑を両手で掃ってくれた。リクは腕や肩の、衣類に付いた木屑を手で掃う。

「うーっ、何でこうなる」

「周りを巻き込みたくないという思いが強いんじゃないかな。悪いことではないよ。一族にはそれを気にする人間は少ないから」

 高校生男子のリクから見ると、やはりエドやウィルのように拳で風が起きる方が断然カッコいい。先日リクの体を乗っ取ったもう一人のリクならできるのかもしれないが、どうもリクは思い切りよくいかない。


「次は薪を砕かずに真っ二つにするよ。手に来ている力を手刀の小指の辺りにのみ、ためるんだ」

 エドはしゃがむと地面の上に薪を真っ直ぐに立てた。そして上から手刀を振り下ろした。薪は斧で割ったように綺麗に真っ二つになり、二つになった薪は割られた勢いのまま左右に吹っ飛んだ。カラカラと音を立てて地面を何度も転がる。リクも真似てみたが、なかなか完全に二つに分かれない。裂け目は薪の途中で止まった。何度か試すうちに、やっと二つに分かれた。でも、予想した通りだった。薪は真っ二つになったがエドのようには吹っ飛ばず、両側にカタンと倒れて少しだけ転がった。

「まぁ、まだ初心者だ。こうやって痣からの力の引き出し方や、痣から体の各部への力の運び方、力の使い方を体で覚えていくんだ。何度もやって慣れてくれば自在にできるようになる。こんな風に」

 エドは両手で薪を一本ずつ持つと、一瞬で右手の薪を粉々にし、左手に薪を真っ二つにした。リクは驚いてエドの右手と左手を交互に見る。左手の薪を割ったのは手刀ではない。ただ持っていただけだ。しかも左右の手が違う仕事をしている。

「直ぐに慣れるさ。手刀で割った時の力の集め方を手の平の真ん中でするんだ。そうすると手刀でなくても真っ二つにできる。同じ要領で蹴りにも応用できる」

 エドは薪を放り投げると、落ちて来たそれを足で軽く横から蹴った。見事に薪は粉々。起きた風で風見鶏も軽快に回っている。

「練習すればこうやって体中を武器にできる。攻撃の次は防御だ」

読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ