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Chance!  作者: 我堂 由果
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不運

 キースが前もってスマホで、佐久間の家から行きやすい店を調べておいてくれた。更にスマホアプリでチラシやクーポンも調べてくれていた。リクはいざ店に行ってみると来冬も着られるように、ワンサイズ大きいダウンジャケットを買う気になってきた。大き目なだけならこの冬も何とか着られる。そして何よりも勿体ない。その一語に尽きた。

 エドは気にせず丁度いいのを買えとか、もっと高いのにしたらどうかと言うが、日頃は毎日学校へ行っているので殆ど制服で過ごすし、日曜日に高い服を着て出掛ける場所もない。せいぜいキースと佐久間邸へ行く位。安い服で十分である。それならとエドはマフラーだけは長く使えるので高いのを買おうと、別の店に行きたがった。リクは新しいダウンジャケットを羽織り古いジャケットを処分してもらう為に店員に渡すと、キースがスマホで調べて見付けた別の店へ向かった。

 しかし……先程から三人で歩いていて思う。人混みの中、とにかくやたらとエドとキースは目立つ。日本人の中に入ると背はとび抜けて高いし、室内でサングラスを外した時の顔立ちのよさは二人揃って言わずもがな。更にセレブが御忍びで東京に来ているような、只者ではない派手派手しいオーラを振り撒いていた。リクは一人で来た方がよかったかもしれないと、周囲の視線を気にせず行動する二人の後ろを小さくなって歩いていた。


 雑貨店でエドは、やたら値段が高くて目に付くデザインのマフラーを選びたがったが、それでは学校に着けて行かれない。制服に着けるマフラーは特に学校指定はないが、やはり派手な色やデザインは憚られた。男子学生は地味な単色にワンポイント程度のマフラー着用者が多い。リクは無難な色のグレーを探していると、エドは今度は素材のいい物にしろと言う。カシミヤのマフラーを勧めた。リクが日頃の自分の金銭感覚と桁が違う値段のカシミヤのマフラーを見ていると、エドはエンジのニットキャップを手に取って、それをキースの頭に被せた。突然のエドの行動にキースはきょとんとしている。帽子からウェーブの掛かった黒髪がチョロチョロはみ出ていて、親に無理矢理帽子を被せられた小さい子のようだった。表情と帽子が実際の年齢よりずっとキースを幼く見えさせる。リクはキースから顔を背けると笑った。日頃のキースらしくなくて面白い。ひとしきり笑った後振り向いてキースを見ると、先程のきょとんとした顔からいつもの不機嫌顔に戻っていた。

「何をするんですか、エド先生。俺は帽子は被りません」

「俺に帽子をプレゼントされたくなければ、明日髪を切ってこい。その髪型ある意味似合っているが、社会人としては見苦しい」

「わかりました」

 キースは帽子を取るとそれを棚に戻す。あの帽子結構キースに似合っていたのにと、リクは何を身に着けても似合うキースが羨ましかった。


 リクはブルーとグレーをリバーシブルで使える、カシミヤのマフラーを買ってもらった。マフラーを首に巻く。首周りの感触がいつもと違った。カシミヤは柔らかくて気持ちいい。丁度、時間が昼近くになったので飲食店街でパスタを食べた。日本人の量ではエドやキースは足りないのではとリクは思ったが、二人はパンを買って帰るから大丈夫だと言っている。飲食店街を離れ休憩スペースに行き、地下の有名ベーカリーでパンを買おう等と調べながら三人で話し込んでいると。

「桜井……キース君」

 聞き覚えのある声が聞こえた。そしてこの呼び方。リクは直ぐに誰だかわかった。彼女しかいない。覚悟を決めてゆっくりと振り返る。

「水野……」

 予想通りだった。水野はいつからリク達三人を見ていたのだろう。リクがエドをお父さんと呼んだ時に側にいたかもしれない。ここ数分間にリクは何度『お父さん』と口にしたかを思い出そうとしたが、突然の水野の登場に焦ってしまい頭が上手く働かず、全く思い出せなかった。

「エドワード=フォレスター?」

 水野がリクの横にいるエドを、目を丸くして見上げて呟いた。

「雪奈、いきなり呼び捨てなんてフォレスターさんに失礼だろう」

 水野の隣には水野の父、水野亨が立っていた。

「こんにちは……」

 リクは水野亨に頭を下げ挨拶をした。

「こんにちは」

 水野亨はリクに笑い掛ける。キースは水野亨に挨拶だけすると、後は少し離れて、ただ水野親子を睨み付けていた。

 エドと水野亨は初対面の挨拶を交わし、大人らしく常識的な会話をしている。水野はキースのかなり厳しい拒絶のオーラを感じたのか、仕方なさそうにリクに話し掛けてきた。

「買い物?」

「うん。水野も?」

「ここで母と待ち合わせしているの。それから一緒に買い物」

 水野は話をしているエドと水野亨にチラリと視線を向けた。

「エドワード=フォレスター社長は来日していたのね」

 リクは何と答えていいか困っていた。何でこんなタイミングで水野にあってしまったのか。リクは新年早々のたて続けの運の悪さにがっくりきていた。頭のいい水野に下手なことを言って突っ込まれたり、何かを感付かれたりしたらまずい。リクは下を向いて沈黙しているしかなかった。そしてチラリと覗ってみると、水野を睨むキース。

 話を終えた大人二人は別れの挨拶をしている。

「じゃあ、学校でね」

「じゃあ」

 リクと水野もそれに合わせて別れの挨拶をした。リク達三人は地階へと下るエスカレーターへ向かう。

「無愛想だな、キース」

「普通にしていたつもりですが。それにあの位の態度を取らないと、彼女は怯みませんよ。彼女の行動は迷惑です」

「水野さんに失礼だろう」

「リクの同級生の父親でしょう。俺には関係のない人間です」

 エドは溜息を吐いた。水野亨は水野会長の後を継ぐ人物になるだろう。今後の人生での人間関係を気にしないキースの言い分に、エドは呆れているのだろうと考えながら、リクは先にエスカレーターにのったキースの後ろ姿を見ていた。


 ベーカリーでは大量のパンを買った。そんなに食べるのかとリクは驚く。エドの話では明日の昼までの分らしい。それでもリクから見ると多い。序でにキロ単位の高級肉と佐久間へのお土産の和菓子、ねりきりと羊羹を買った。全部でかなりの金額なのだが、エドは涼しい顔をしている。大量のパンは嵩張るし肉と羊羹はずっしり重い。ねりきりは形が崩れないように慎重に運ばねばならない。この計画性のない買い物とそれに全く問題を感じていない連れ二人が、実は意外と大雑把なのをリクは初めて知った。

 肉はエド、パンはキース、和菓子はリクが持って帰ることになった。帰りの電車はやはり混んでいて、エドは「東京は人だらけだな。佐久間先生に車を借りればよかった」と言っていたが、先程通った時、繁華街の道路は人通りが激しい上に車が渋滞していた。車も電車もどちらを使っても移動が大変なのは確かだった。


 駅で降りると佐久間邸への道を歩いて行った。相変わらず風が冷たい。この辺りはビルも多いので、吹き抜ける北風も一段と強い。

「寒いなぁ。風邪ひきそうだ」

 そう言うエドの鼻の頭が赤い。リクは自分も同じだろうとマフラーに顔の下半分を埋めた。

読んでくださってありがとうございました。

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