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Chance!  作者: 我堂 由果
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トーチの選択のその後

 目を覚ますとリクは昨晩と同じベッドに眠っていた。時計を見ると九時五十分。眠っていたのは二時間半位。ゆっくりと起き上がり床に足を付けた。そして立ち上がってみる。体は重いが何とか歩けそうだ。一歩ずつゆっくりと壁を伝って廊下を行き、先程の部屋に戻った。そこに居たのは佐久間とキースとチャンスだった。エドが居ない。

「リク、目が覚めたのか?」

「饂飩を茹でてある。食べられそうか?」

 チャンスの為にチェスをしている佐久間とキースに、次々と声を掛けられた。

「お父さんは?」

「エドなら疲れたし時差ボケもあるし、寝ると言って寝てしまったよ。彼なら大丈夫だ。ポールに頭痛も止めてもらったし、明日の朝には元気になっているだろう」

 佐久間はああ言っているけれど、リクはやはりエドが心配だ。佐久間とエドとキースは、リクが寝ている間に夕食を食べ終わっていた。


 リクの為に、直ぐにキースが卵とじ饂飩を作ってくれた。それから生姜汁とレモン汁と蜂蜜をお湯に溶かした飲み物も。食卓で饂飩を啜りながら、隣の部屋でチェスをしているチャンスと佐久間を見て思う。チャンスが楽しめているようで良かった。チャンスはあれだけ佐久間邸での時間を楽しみにしていたのだから。

 対戦の合間に、リクは佐久間に疑問を聞いてみようと思った。あいつについてだ。

「佐久間さん、俺聞きたいんです。俺の中に居たあいつって、一体何なんですか?」

 駒を盤に並べながら、佐久間は「ああ、あれか」と返した。

「不良に痛めつけられて追い詰められた君は、自分を守る為、神の姿に変わったんだ。神の姿の力はその扱いがとても難しく、その力を使いこなせない者が神の姿になると、残忍で傲慢な性格に変わる。神の力はそういう性格の方が上手く扱えるからだ。元から神の力を十分使いこなせれば、神の姿になっても日頃の自分を保ったままでいられるが、今回初めて体験した君は当然使いこなせず、あのような性格に支配されてしまった。特にプライドが高くて自己中心的で気性の激しい者の多いフォレスター家の血筋の君は、自分で気付いていなくても人一倍非情な性格が心の奥に存在していて、今回あれ程酷い形となって現れたんだろう。あいつも、れっきとした君の一部だ」

「あいつはまた出て来るのですか?」

「今回の奴はトーチが取り込んだ。でも君が神の力を使いこなせないのに神の姿になれば、またあの性格になり、第二のあいつが現れる。そしてまた体を乗っ取られ、トーチと揉め事を起こすぞ」

「俺はどうしたら」

「自力でその力をコントロールできるようになることだ。もう一つ、痣の使い方も覚えなくてはならない。どちらも少しずつ教えて行こう」

 教えるとは佐久間が指導するのだろうか。佐久間は不思議な力を持っている。どちらの使い方も知っている可能性はある。

「三月になるとウィルが十六歳になる。三月以降、いつウィルが現れてもおかしくはないからな。その対策にもなる」

 佐久間は再びチャンスと対戦を始めた。

「あれ、リックが起きていたのですね」

 Tシャツと短パンを着たエドが眠そうな顔で現れた。

「キースが作ってくれた饂飩を食べたよ。食欲はありそうだ。エドはもう起きても大丈夫なのか?」

「そんなに柔じゃないです。もうすっきりしていますよ。水飲んだらまた寝ます。チャンスも今日はもうそろそろ御開きにしろ。人間は夜寝ないと体を壊す」

「わかりました」

「リクの指導は俺も手伝おう」

「佐久間先生が? それは助かります」

「リクの友人のフォレスター家の子供三人の力も借りたいな。痣の使い方の指導の時」

「ポールとジョージとニックに連絡しておきます」

「しかし、痣があったとは全く気付かなかった」

「俺もです。痣の有無は親の目視に頼っていますし、小さい頃から無意識にそこに力を感じる必要がありますから。しかし本人が全く何も感じていないとは珍しいケースです」

「一つの体の中にただでさえ色々入れているのに、痣まで加わるか。今後の予想が変わって来るかもしれない」

 何気ない佐久間の言葉が何故かリクには引っ掛かった。リクの体の中には株分けしたトーチが入っている。それだけの筈なのに、色々という表現を使う意味がわからない。今後の予想とは何なのかも気になった。ふとキースを見ると、キースは無表情を貫いている。しかし頭のいいキースが今の佐久間の言葉を聞き流しているとは思えない。何かを感じ取り、考えているだろう。

 チェスの最後のゲームを終えると、佐久間はチャンスをキースに渡す。リクはキースの持って来てくれた鞄から歯磨きの道具を取り出すと洗面所へ向かった。


 翌朝目を覚ますと午前七時だった。パジャマから普段着に着替えて昨日と同じ部屋へ行ってみるともう佐久間とキースは起きていて、佐久間はチャンスとチェスをしている。

「体の調子はどうだ? リク」

「もう全く大丈夫です」

「キースの食べる餅を今焼いているのだが、リクも食べるか?」

「はい」

 佐久間はチェスを中断すると、餅を焼きにキッチンへ向かう。先に焼けたキースの餅を海苔で包んで、食卓に座るキースの前に置いた。キースは朝食として出された磯辺餅を、難しい顔をして食べている。

「そういえば、ロサンゼルスではキースに餅を出さなかったな」

「今回日本へ来て初めて食べました。何なんですか、これは」

 キースは目を白黒させて、食い千切った餅の塊を飲み込んだ。

「喉に詰まらせないように、気を付けて食べろよ」

 佐久間は口ではそう言っているが、十代のキースを心配しているとは思えない。キースの側に行くと醤油と海苔のいい香りがした。

「海苔と餡子ときな粉と納豆があるが、リクは好きな味で食べるといい」

「納豆はキースが居るから遠慮します」

「何だ、キースは未だに納豆が駄目なのか?」

 キースはムスッとしている。リクの餅が焼けた頃、今度はエドが起きて来た。エドは何を食べるかとリクは好奇心が湧いて見ていたが、同じように餅を焼いてもらって食べていた。

「お父さん、お餅は食べられるの?」

「ああ、食べられる」

 エドはそう言って餅にきな粉を掛けていた。

「佐久間先生からもう中年なのだから、大豆を食べないと長生きできないと脅かされているんだよ。それでこうして色々工夫している」

 エドは最近健康の為、食生活に気を付けていると言った。

「今日は買い物に出掛けないとな」

 エドは唐突にリクに言った。

「買い物?」

「リックの服だ」

 何故いきなり服なのか。平日は制服だし、服なら十分にある。それに、成長期に服なんてそんなに何着もいらない。直ぐに着られなくなる可能性もあるのだ。

「服ならあるし、背が伸びたら着られなくなるからいらないよ」

 リクはそう言ったが、朝食を食べ終わったキースが隣の部屋へ行くと手に何かを持って戻って来た。

「先生が言っているのはこれだ」

 キースが持って来たのはリクのダウンジャケットとマフラーだった。それを広げて見せる。

「あーっ……」

 リクはがっくりきた。リクのダウンジャケットは地面を転がった所為で、所々擦り切れていた。マフラーは毛糸が切れてあちこち穴が開いている。何て勿体ない。リクは頭を抱えた。今は一月上旬。ダウンジャケットもマフラーもまだまだこれからお世話になる。無しで冬は過ごせないし、これはもう買うしかなかった。リクは溜息を吐いた。

「俺の怪我みたいに服も元に戻ればいいのに」

 エドはキースにどこに行くと服が買えるか聞いているが、リクは安値で有名な衣料量販店で安いのを買えればいいとキースに言った。背が伸びたら着られなくなる。年明けのセールでできれば激安になっているようにと祈っていた。

 買い物にはリクとエドとキースと三人で出掛けることにした。佐久間はチャンスと留守番をしていてくれる。チャンスは佐久間とチェスがしたいので大喜びだ。

 三人は立派な正月飾りの付けられた佐久間家の門から外へ出て、天気はいいが冷たい風の吹く道路を駅へと向かって歩いて行った。

読んでくださってありがとうございました。

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