リクの願い
リクには言いたいことがある。笹本にも、エドにも。それなのに、声が出せない。何とか伝えられないか。自分の気持ちを声にして伝えたい。リクを支配しているこいつに、邪魔するなと心で伝える。
『いいよ、暫く喋らせてあげる。親父は大嫌いだから困らせたいし、笹本はアホで面白そうだ』
こいつの性格が悪いお蔭で、声だけは出せるようになった。でも体は動かせない。
「待って、待ってくれ。俺の話を聞いてくれ!」
やっとそう声を搾り出した。笹本とキースと佐久間が一斉にリクを見た。
「いつものリクか?」
佐久間が問い掛ける。
「はい、そうです。迷惑掛けてすみません」
「完全に戻った訳ではなさそうだな」
「あいつから、少しだけ話す時間を貰えました。」
笹本がリクを見ている。リクは今ちゃんと伝えなければならない。
「エド、聞こえるか?」
「大丈夫です」
佐久間が音声がスカイプで届いているか確認してくれた。笹本がパソコン画面をリクの方へ向けてくれる。リクの方へ向いた画面にエドが見えた。
「リック大丈夫か?」
「ごめんなさい、大丈夫。ごめん、笹本。こんなことになっちゃって。でもきちんと俺の気持を伝えないといけないから。キース、チャンスを笹本の方へ向けてやってくれないか? 俺、自分で体動かせなくて」
テーブルの上でリクの方を向いているチャンスを、キースは笹本へ向けてやった。
「このロボットはチャンス。四月に父親から俺に送られてきたんだ。お前にお父さん探しを手伝ってもらっていた頃だ。その頃俺は全く父親について知らなかった。そして現実にはあり得ない位、人間より利口なロボット、チャンスについて笹本に話せなかった。それから数週間後にキースが現れた。キースはチャンスの製作者だ。チャンスは天才キースが全知力を注いで作ってくれた。そこでキースから初めて父親について詳しく聞かされたんだ。この妙な力のことも。でも実際自分の意思で物を燃やせるようになったのは夏休み。父に会って教わってからだ。その頃の俺はまだ雨宮と川原と田端が父親と知り合いとは知らなくて、俺は笹本も含めた友人四人に隠し事をしているんだと思っていた。俺は日本に帰国してからも、そして今も、この力を上手く使いこなせていない。腹が立ったり、人から敵意を向けられたり、そんなストレスで周りの物を燃やしそうになってしまうんだ。それを押さえるのに一杯一杯で、皆に隠し事をしているとか、騙しているとか、自分がどんなに狡い人間なのか気が回らなかったんだと思う。皆が親切だから甘えていたのかもしれない。クリスマスパーティーで雨宮と川原と田端から話を聞いて、初めて俺と三人は親戚なんだって知った。その時気付いたんだ。俺達四人はお互いのこと今まで隠していたのはどっちもどっちだけど、でも笹本は違う。笹本には隠して利用しただけの結果になってしまった。俺は笹本に謝って、全てを話して、それでも友達でいてくれとお願いしようと思った。でもどうやって笹本に説明するか――だって普通に考えたら手品にしか見えないだろう? 俺達の能力。それに父やポールさんや佐久間さんや、色んな大人達が絶対反対するだろうと思っていた。それで、話せなかった。年末の鍋パの日、皆で楽しく過ごしていて、俺はやっぱり笹本にはこの秘密を共有して欲しいと思った。自分勝手って言われるかもしれない、笹本には何のメリットもないかもしれない。でも、俺達と本当の友達になって欲しいんだ。今までごめん笹本。できることなら俺を……俺達を受け入れて友達になってくれないか」
笹本は黙って聞いていたが、リクの話が終わっても何も言ってこなかった。画面がリクの方を向いているノートパソコンの画面の背面を、ただじっと見ている。
リク達の勝手さに呆れているのか、別の何かを考えているのか。でも笹本が今日の出来事を忘れることを望むなら、リクはまた今まで通りに付き合って行くつもりだ。今度は困らせないように気を付けて。
「ほんとに、お前、いや、お前らどうしようもないな」
口を開いた笹本の最初の一声は、それだった。その言葉でリクは笹本が怒っていると感じ、原因は自分にあるとはいえ笹本の顔を見るのが辛かった。
「言われなくても知っている。川原とは付き合いが長いんだ。川原は小さい頃からずっと要領良くて狡賢かった。自分勝手だし、自分の為に人を利用するなんて、いつもの話だ。もう見慣れてる。中学に入って知り合った雨宮や田端も、川原と同じタイプの奴だって直ぐにわかった。三人はイケメンで、頭が良くて、部活で活躍してて、女子からも注目されている。でも俺は外見は普通だし、成績は川原達程よくないし、部活は文化部で目立った活躍もしてない。苛める側、苛められる側、二つに分けるなら、地味な俺はきっと苛められる側の人間だ。でも三人が友達として俺と付き合ってくれていると、皆の俺を見る目も変わる。あの三人と親しいなら、ちょっかい掛けない方がいいって。俺は目立たない人間だから三人からいつハブられてもおかしくないのに、三人はずっと俺と付き合ってくれた。利用したって言い方をするなら、俺だって三人を利用した。俺自身の為に。桜井のことも怒っていない。俺がもし桜井だったらって想像したら、やっぱりこんな普通ではあり得ない話できないだろう。どうやって話そうか悩んで、隠してることに罪悪感を持って、でも話せなくて。桜井が言えなかったのは仕方がないよ」
笹本はリクの方を向いていたパソコンの画面を自分の方に向ける。そして画面の中のエドを真っ直ぐに見た。
「俺も自分の保身の為に三人を利用していました。俺も友達を利用する狡い人間です。今日桜井が俺を逃がそうとしてくれた時は、自分が恥ずかしかった。お願いです。俺を桜井達の本当の友人として認めてください。記憶をすり替えないでください。お願いします!」
笹本がそんなことを考えていたなんて、笹本がそんな風に言ってくれるなんて、リクは思っていなかった。今までのことを非難されると思っていた。笹本はパソコン画面の向きをリクの方へ戻した。
「あーっ、困ったな。俺の中では記憶操作で決定してたから」
エドの困っているという言葉に、リクの中のこいつは嘲笑っている。いい気味だと言っていた。
「なぁ、エド。お前には居たんじゃないか? 一族ではないけれど、秘密を知る親友が」
今まで黙って聞いていた佐久間が口を出した。
「ちょ、ちょっと待ってください。あれは今回とは状況が全く違います。それにあの時、俺はもう成人してましたよ。リック達は若過ぎるでしょう。色々な意味で危険を伴います」
「あの頃の自分より若いから諦めろと? 自分の失態を棚に上げて?」
「佐久間先生……」
エドの声は明らかに凹んでいる。佐久間に失態と言われるとは、エドは過去に何かあったのだ。
「リクのお父さんにも、居たんだ」
「佐久間先生、その部分だけ切り取って言わないでください。反対し辛くなります」
「リクの周りには一族の優秀なメンバーが集まっている。俺も協力しよう。仕方ない。決まったな」
「ありがとう、佐久間さん。笹本に川原達三人よりも先に紹介するよ。チャンスは俺の友人達を紹介してもらえるのを楽しみにしていたんだ」
「初めまして、チャンスです。よろしく」
笹本は最初驚いた顔をしていたが、椅子から立ち上がるとチャンスに近付いて来てその手をそっと取った。
「笹本圭祐だ。よろしく」
「趣味はチェス、いつでもお相手します。特技は財テク、ご協力します」
「へ?」
笹本は面喰っている。相変わらず、チャンスのずれた話。しかし犯罪の話題がチャンスの口から出なくて、リクはホッとした。
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