暴行
*注意*
前回同様、いじめの部分があります。
校門へ着くと何故か施錠はされておらず、門は半開きになっていた。三人はリクと笹本を伴い、校門から学校の敷地内に入り込んだ。そしてそのまま奥に進んで行く。校舎内は電気が消えていて真っ暗。体育館も電気が消えていた。ただ体育館の入り口の電気だけは点いていた。校門も開いていたし、誰か先生でも学校の様子を見に来ているのではないかと思われた。でも人の気配は感じられない。
体育館の裏は薄暗かった。唯一差し込んできている光は塀の向こうの道路の街灯と家々の灯り。その光は塀沿いの、落葉した木々の枝に所々遮られていた。リクは自分の右手の平を見た。既に手の平はあと一押しで、人間三人位楽に焼き殺せそうな威力を留めている。手加減してもかなり酷い怪我をさせるだろう。リクは更に全身に細部に分かれて広がろうとしているトーチを、何とか宥めていた。
「あのイケメンどこに住んでいるんだ? どの位で来るんだよ」
「学校の側だ。直ぐに来るよ。それより笹本を帰してやれよ」
「何度もうるせえ!」
ボス少年が、いきなりリクの顔面を殴った。相手の右拳が当たったのはリクの右目。
「桜井!」
悲鳴のように笹本が叫んだ。
「こいつを開放するのはあいつと遊んだ後だ」
リクは右目を押さえて蹲った。トーチの怒りを押さえる為に、リクはトーチの防御を邪魔していた。そうしなければトーチは防御と共に、相手に火傷させる。その所為でパンチがもろに顔に入ってしまった。
「桜井、大丈夫か?」
笹本はリクの背中に手を置いて、顔を覗き込んでいる。トーチは怒り捲っていた。リクに手を出された所為で、今まで感じた中で最高の憤りを表していた。トーチは全身の枝火から炎を上げる。リクは何とかそれを落ち着かせようと必死だった。この状況から逃げ出さねばならないのはわかる。でも相手に大火傷させては駄目だ。
「どけよ」
ボス少年が笹本を突き飛ばすとリクの胸倉を掴んで立たせて、腹に蹴りを入れた。リクは地面を転がる。相手から暴力を振るわれてもトーチの防御をリクが邪魔しなければ、多分相手はリクに触れた部分から大火傷をする。
ボス少年は、イケメンをボコボコにする動画を撮ってやる等と楽しそうに言いながら、地面に倒れているリクを何度も蹴った。笹本は邪魔しないように、別の二人の少年に取り押さえられている。
とうとうリクはこれ以上トーチを押さえきれなくなった。ただでさえ痛い、殴られた右目がどんどん熱を帯びていく。もうトーチの行動を止められない。突然、目の前の、ボス少年の右拳が炎に包まれた。トーチはリクの右目を殴った右拳へ仕返しした。
「何だ? 火を、火を消してくれ!」
拳が炎に包まれた少年は叫んだ。しかしトーチの怒りはまだ治まらない。止めなければならない、トーチを。でも次は何をするつもりか見当もつかない。笹本を取り押さえていた少年達は、笹本を放してボス少年へ駆け寄ると、拳の炎を消そうと、脱いだジャケットで炎を叩いたり覆ったりしていた。数秒後、なんとか鎮火。
「救急車呼ぼう、病院に行かなきゃ」
小柄で弱そうな少年がうろたえながらそう言って、ポケットからスマホを取り出した。拳を火傷した少年は、手首を押さえて唸りながら蹲っている。
「大丈夫か? 何が起きたんだ?」
背の高い少年が屈んで腕を取ると、火傷の具合を見ていた。
「桜井、てめぇ、何しやがった!」
背の高い少年がそう言ってリクを睨み付ける。リクの脳裏には夏休みにエドの会社の倉庫で見た光景が蘇る。
「あちっ!」
小柄な少年が取り出したスマホが一瞬で燃え上がり、電話を掛けようとしていた少年は、スマホを地面に放り出して尻餅をついた。スマホは地面で炎と白煙を上げている。
「リク! 大丈夫か?」
キースの声が聞こえた。声のする方角に目をやると、キースと川原が走って来る。川原はキースと上手く出会えた。
リクは右目を押さえたまま立ち上がると、三人を見下ろした。三人は急に怯えた目でリクを見る。
「何なんだよ、これ。お、お前、何したんだ? それに何だよ、その姿は」
背の高い少年が震える声でリクに尋ねた。『その姿』とはどういう意味だろうと不思議に思ったが、そこでリクは体の違和感に気付いた。何かおかしい。自分の体が自分のものではないように感じる。リクは三人ににっこりと笑い掛けてやっていた。
「くっそ、殴る蹴るしやがって、痛えな。そうだ、お前ら暇なんだろ? 俺達と遊ぶんだよな? お目当てのキースも来たぜ。楽しくなりそうだ」
笑ったのも、挑発する言葉を投げ掛けたのも、いつものリクではない。リクの体はリクではない誰かが動かしていた。ふと手で押さえていない方の目、左目が、自分の体に明るさを感じた。何だろうと不思議に思っていると、偶々視界に入った左手が、緑色に発光している。驚いて自分の体全体を視界に入る限りの範囲で観察してみると、体が淡いグリーンの発光に包まれているらしいのがわかった。その場でリクのみが夜の闇の中、ぼんやりと周囲に光を放っている。
「リ……ク?」
キースが恐る恐ると言った声で静かに呼び掛けた。リクにも訳がわからない。体を包む、この光は何なのか。これもトーチの仕業なのか。
どこに連絡しようと思ったのか、背の高い少年が見るからに怯えてパニクって、震える手でポケットからスマホを取り出した。それにもきっちりトーチは火を点けた。突然の炎にその少年は驚きの声を上げて、スマホを放り出した。地面の上で白煙と炎を上げるスマホが二つに増えた。次にトーチは火傷の痛みで蹲っているボス少年の体に火を点けた。ボス少年は全身を火に包まれる。
「うわっ!」
ボス少年の隣に屈んでいた背の高い少年が、火の勢いに驚いたのだろう叫んで飛び退いた。止めろ死んでしまうとリクは心の中で叫んだが、体が全く言うことをきかない。しかしトーチは見事に服だけを燃やした。ボス少年は右手首を左手で押さえながら、股間を爛れた右手で隠す。リクの体の中でトーチが踊るように揺れる。服を燃やした時の、人間の体を隠す反応が凄く楽しいとリクに伝わって来る。
そして服を燃やされたそいつのズボンのポケットから落ちた、地面の上の三個目のスマホも炎を上げる。仕返しができたトーチはいつになく上機嫌だった。
「このお返しだけはきっちりさせてもらう。そう簡単に許してもらえると思うなよ、雑魚。俺を楽しませてくれ」
そう言わされたリクは、何かによって強制的に背後を見させられる。笹本は声も出ず怯えているのだろう、震えている。川原はリクに対してあからさまに嫌そうな顔。流石キースは表情の変化もなく、黙ってリクを見ていた。リクはこんなことをする気はない。言葉も自分が言っているのではない。そう伝えたくても自力で一切言葉が出せなかった。前を向かされると、右手を火傷し服を燃やされ素っ裸でへたり込んだ少年。その横で既に腰が抜けて立てないらしい二人の少年。彼ら三人は後ろにずり下がり始めた。
読んでくださってありがとうございました。




