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Chance!  作者: 我堂 由果
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写真

*注意*

いじめが出てきます。

 今日は元旦。リクは祖母直伝の雑煮を作って、キースと食べていた。アメリカ人のキースが餅にかぶり付いているのを見ると、何だか笑えた。でも笑わないように我慢する。先日の鍋も、今日の雑煮も、キースは初めて食べたそうだ。

「変な食べ物ですね」

 キースが伸びる餅に悪戦苦闘しているのを見ていると、チャンスが話し掛けてきた。

「寒い季節に食べることが多いかな。俺は好きだけど」

 チャンスはこのところ毎日、燥いでいる。佐久間の家でチェスをする約束をしたからだ。それ以外にも本を読みたいだけ読めると喜んでいた。リクは冬休みの宿題を終わらせるのに必死だ。三日までに終わらせないと、佐久間の家に宿題を持ち込むことになる。それは避けたい。キースもチャンスも仕事の合間に手伝ってくれている。

 この年末年始、雨宮と田端は両親と旅行に出掛けたらしい。家で過ごす笹本と川原が、夏休み同様宿題を手伝ってくれることになった。本当に助かる。二人が来てくれるのは、二日と三日。


 二日の日現れた笹本は普通だったが、川原は何かぎこちなかった。リクに近寄らないようにしているしビクついている。先日の鍋パの時の影響は大きいのだと気付いた。一般人笹本は川原のおかしな態度に全く気付いていなさそうだ。いつも通りよく喋る。あれからリクは夜はもちろん昼寝も、必ず自分の部屋でしている。リビングでは居眠りもしないようにしている。トーチは一族を誰かれ構わず威嚇するから、リビングで眠るとキースに悪い。


 三日の日も二人はやって来てくれた。川原のぎこちなさはいくらか良くなったが、やはりリクを意識していた。リクと目が合うと逸らすくせに、たまにチラチラと見てくる。夕方六時頃になり、やっと宿題が終わった。川原と笹本には感謝だ。夕飯を一緒に食べようと誘ったら、川原は青くなって帰ると言った。鈍い笹本もそれには不思議そうな顔をしていたが、二人共帰ることになった。

 今日から隣駅のスーパーが開くので、リクは見送り序でに買い物に出ることにした。川原と笹本に昼食を提供していたら、年末多めに買っておいた食料のストックが少なくなっていた。明日から佐久間の家に行くが、明日の昼までの食事が少し足りない。少し買い足した方がよさそうだった。佐久間宅への訪問は夕方だ。エドもその頃東京に着くと言っていた。

 三人で部屋を出た。大通りを駅へ曲がる交差点で、川原はバス停の方へ、リクと笹本は駅の方へ向かって分かれた。


 正月の夜は寒い。辺りも真っ暗だ。リクはダウンジャケットにマフラーを身に着けていた。だがそれでも寒かった。手袋や帽子も持って来ればよかったと後悔した。駅へと続く商店街の店はほぼ閉まっていて人通りも少ない。開いている店は薬局とコンビニとそれ以外は数店舗で、その照明が暗い道をポツンポツンと照らしていた。

「おい、お前、桜井だろう?」

 後ろから誰かに話し掛けられた。振り向くと、リクと同じ年頃の三人の少年。背の高い少年と小柄な少年を従えている至って普通の外見の少年が、この中のボスのようだ。三人はニヤニヤ笑いながらリクと笹本を見ている。三人の顔は全く知らない。見覚えがない。でも三人はリクを知っている口ぶりだ。同じ学校の生徒かもしれないが、クラスメートではない。

「ちょっと顔貸せよ」

 ボスであろう少年がリクに言った。隣の笹本を見ると顔が強張っている。怯えているように見える。

「笹本?」

「一組の三人だよ。四月に話した」

 笹本は小声でリクにそう教えた。四月に話した一組の三人と言われても、リクには直ぐに思い浮かばなかった。暫く考えてかかわるなと言われた三人がいたのを思い出した。そんな連中がリクに何の用なのか。

「顔貸せって、俺に何の用だ?」

 三人のニヤニヤ笑いは止まない。嫌な雰囲気だ。

「お前とよく一緒に居る外人」

 キースだ。何故こいつらがキースに興味があるのかわからない。女子達が騒いでいるのはクリスマスに笹本から教えてもらったが、こいつらには関係ない。

「あいつについて皆知りたがっているんだよ」

 ボス少年がスマホを取り出すとリクに見せた。

「なっ」

 リクとキースの写真だった。学校帰りにいつの間に撮られたのか、全く気が付かなかった。二人で道を歩いている全身写真、リクの顔のみが大きめに撮られた写真。二枚の写真がそいつのスマホの中に入っていた。


「十二月の学校の登校日に偶々撮影に成功した。この顔写真でジャケットの襟に高校一年生用のバッジつけてるから、こいつが一年だってわかった。それで一年の各クラスの友達いない気が弱そうな奴脅して、こいつが誰か確認した。三組の奴が簡単に教えてくれたぜ。桜井だって」

 残りの二人が声を出して笑った。

「でさぁ、俺ら正月でやること無くて暇なんだわ。ちょっと付き合えよ」

「付き合うって、何に?」

「この写真のイケメン、呼び出せよ」

「え? 何で?」

「だから暇潰し」

 暇潰し。こういう奴らの暇潰しが碌なことじゃないのはわかっている。そこへキースを呼べる訳ない。

「嫌とは言わせないぜ」

 残り二人の内の一人が笹本の腕を引っ張った。こいつは背が高くてしかも体格がごつい。笹本は簡単にそいつに引っ張られてしまった。

「笹本?」

「いっ、痛え! 離せよ!」

 そいつは笹本の腕を捻り上げた。

「このまま関節外して欲しい?」

 笹本を捕まえている奴は楽しそうに言った。往来にはそれなりに人が通るが、誰もリク達を気に掛けない。多分見て見ぬふり。当然だが巻き込まれたくは無いのだろう。

「さっさと連絡しろよ!」

 ボス少年が怒鳴る。

「上手く学校に呼び出せ。体育館の裏だ」

 体育館の裏。ベタな呼び出し場所だ。何かされるとわかりきっている場所にキースを呼ぶなんてできない。キースはあれだけリクの為に働いてくれている。キースを騙すなんて。こんな形で迷惑掛けるなんて。でも目の前には怯えて痛がる笹本。リクに選択の余地は無かった。ズボンのポケットからスマホを取り出した。

「桜井」

 笹本が申し訳なさそうにリクを見ている。

「さっさとしろよ。お前遅い」

 背の高い奴が笹本の腕を更に捻り上げようとしている。リクは連絡先のキースの携帯番号を押した。数コールの後、キースが出た。


「リクか? 買い物は終わったのか?」

 電話の向こうは普段通りのキースの声。

「キース? 今、笹本と学校に居るんだけど。来てもらえる?」

「学校? スーパーに行ったんじゃないのか? 何があったんだ?」

「ごめん、来てくれたら話すから」

「学校のどこだ?」

「体育館の裏」

「体育館の裏? 直ぐに行くからそこを動くなよ」

 リクは電話を切った。キースは頭がいい。リクのこの不審な電話から、きっと何かを察してくれる。申し訳ないが、もうキースに頼るしかない。

「おい!」

 ボス少年がリクの服の胸倉を掴んだ。

「もっと上手く誘い出せよ。今ので来んのかよ」

「多分来てくれる」

「来なかったらお前らで憂さ晴らさせてもらうからな」

「笹本は離してやれよ。関係ないだろう」

「駄目だ。こいつ離したらお前も逃げるだろ?」

 笹本は腕を捻り上げるのは止めてもらえたが、歩けと言われて学校の方向へ突き飛ばされていた。胸倉を掴まれたせいで、リクの中のトーチは炎を大きくして不快感を露わにした。リクはそれを必死に押さえていた。しかし押さえれば押さえる程トーチは反発し、リクの体の中で枝を伸ばし始めた。枝火は触手のようにうねうねと蛇行しながら、全身に広がっていく。五人はノロノロと学校へ向かった。


 途中のバス停にまだ川原が居た。年末年始ダイヤでバスの本数が少ないから、まだバスが来ていないのだろう。川原はリク達の方をチラリと見た。暗がりでツバ付きの帽子を被った私服の川原を、リクと笹本以外の三人は学校の生徒だと気付かないようだ。笹本は一瞬縋るような目で川原を見たが、諦めたように下を向いた。

 リクは川原がリク達に気付いていて、動いてくれると確信していた。川原は三人に捕まったリクと笹本の現状を、キースに説明してくれると。キースはこの道を通って学校へ来る可能性が高い。リクはキースが早く来てくれることを祈った。

読んでくださってありがとうございました。

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