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Chance!  作者: 我堂 由果
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威嚇

 冬休みに入って鍋パを持ち掛けたら、全員からOKが出た。場所の提供はリク。材料費はエド持ち。鍋やらIHヒーターやらは手分けして家から持って来てもらうことになった。リクとキースはホームセンターへ、リビングで使うテーブルとその下に敷くマットを買いに行った。テーブルは組み立て式の簡単な物で、使わない時は畳んで分解して、収納にしまっておけるタイプにした。マットは洗濯機で洗える素材を選んだ。

 この部屋で暮らし始めてから家の中の物が増えたなと思う。一人暮らしだった頃より楽しい。でもこの状況に慣れて一人暮らしに戻れるか心配になる。キースは数年以内にアメリカに戻してあげたいし、その時はチャンスも付いて行くだろう。


 皆、鍋パに参加するって言ったくせに、料理ができるのはリクとキースだけ。そのキースも鍋は初めてだそうで、リクが支度するのを、尋ねながら不思議そうに手伝った。具材をつゆに片っ端から入れてキッチンコンロで煮込む。煮えるとテーブル上のIHヒーターにのせ温めながら食べる。まるで戦場のように食べ捲った。キッチンコンロでは別鍋につゆと具材を入れて煮込んでおく。テーブルのIHヒーター上の鍋が空になると、キッチンコンロ上の煮えた鍋と交換。その繰り返し。キースは最初皆の勢いに引いていたが、何とか参戦。二つの鍋はキッチンコンロとIHヒーター上を何往復したのかわからない。締めの饂飩と雑炊を皆で分けると、二つの鍋の中は空っぽになった。もちろん用意した鍋材料は完食。デザートに、華が差し入れてくれたケーキとアイスクリームとイチゴを食べる。それでもうリクは腹一杯だ。テーブルの脇に、大の字になってひっくり返った。リク以外の五人は更にミカンを剥いて食べている。


「桜井はもう食わないのか?」

 田端にそう聞かれたが、リクはもう限界だ。まだ食べている皆が信じられない。田端・雨宮・キースは確かに食べそうだ。川原は背は高いけれど細身、でも結構食べる。笹本は日本人としては背は低くはないがこの中で一番小柄、それなのによく食べる。

「桜井って高校生男子の割にあまり食わないよな」

 雨宮にそう言われたが、リクとしては食べているつもりだ。リク以外の奴が底なし胃袋なのだと思う。テーブルの上のミカンの皮の山がどんどん高くなっていく。それをぼんやり見ながら、ここにチャンスも連れて来てやりたいなと思った。今チャンスはキースの部屋で大人しくしている。

 でもそれには一般人の笹本に、全てを打ち明けなければならない。フォレスター家の話は最初、リクも信じられなかった。でも身の回りに次々と起こるおかしな出来事を見ているうちに、信じざるを得なくなった。

 笹本もリク達の秘密を共有してくれるだろうか。腹が満ち過ぎたリクは、そのままうとうとし始めた。後片付けしなきゃいけないのにしっかりしろ、そう自分を叱咤したが、眠気には勝てなかった。


 リクが目を覚ましたのは一時間後。食器や鍋は綺麗に片付けられ、ゴミも分別して捨てられていた。四人は丁度帰り支度をしている。

「え? もう片付け終わったの? 悪い、爆睡してた!」

「別にいいよ。桜井一人で鍋作ってくれたようなもんだから、寝かせとけって皆で言っていたんだ。キースも野菜切るの手伝ってたし、片付けは俺ら四人で終わらせた」

 そう言ったのは笹本だが、どうもリクが寝る前と部屋の中の空気が違う。ピンと張り詰めている。そしてその空気を作っているのは雨宮・田端・川原だった。三人共無表情で、顔色が頗る悪い。疲れ切って見える。片付けがそんなに大変だったとは思えない。ただ食器を洗うだけだ。それに笹本はいつも通りだ。


「なぁキース、何か雨宮・田端・川原の三人変だけど、俺が寝ている間に何かあったのか?」

 帰る四人を玄関で見送ると、キースに尋ねた。キースは溜息を吐いた。

「リクは気付いていないのだろうが、寝ている間のお前は実は大変な事態になっている」

「大変?」

「このところ、お前が眠ると途端にトーチは周囲を威嚇する」

「いっ、威嚇?」

「機械のチャンスは威嚇されないし笹本は一般人だから感じられないようだが、三人は凶器を向けられているようで落ち着かなかっただろう」

「ええ? じゃあ俺はこの一時間、あの三人を脅してたっていうのか?」

「そうだ。元気だったのは感じられない笹本だけだ。あの三人は生きた心地がしなかったろう」

 何てことをしてしまったのだとリクは頭を抱えた。

「キッチンへ皿を洗いに向かう時も、三人はビクビクして後退りでキッチンへ入って行ったぞ」

「ちょっと待って。もしかして日頃俺が寝ていると、トーチはキースも脅しているのか?」

「まぁ、そうだ。先生には連絡してある」

 キースはそう言うと自分の部屋へ戻って行った。メールチェックをするという。リクは再び床の上に仰向けに寝転んだ。今度三人に会ったら謝らねばならない。しかし敵意を持たないあの三人やキースにまで威嚇をするトーチを、リクは宥める方法を知らない。エドが何とかしてくれると期待するしかない。


 目を瞑りうつらうつらしていると、キースの足音が聞こえた。これはまずいと思って目を開けて起き上がると、部屋から出て来たキースを見る。

「先生からメールがきていた」

 一瞬トーチの件かとリクは期待したが。

「エド先生は一月四日に日本へ来る。帰国は十日の予定だが、仕事の状況で前後するらしい。滞在先は佐久間先生の家。俺達も佐久間先生の家に滞在してはどうかと書いてあった。佐久間先生も俺達と過ごしたがっている。リクの学校が九日から始まるから、八日までは佐久間先生の家に滞在できるだろう」

 トーチの件ではなかった。リクは、そういえばエドが年明けに来ると言っていたのを思い出した。トーチの件をエドに相談できる。解決できるかもしれないと期待する。

「さっきからラインのやり取りもしているのだが……」

 キースはジーンズのポケットからスマホを取り出した。内容を確認している。

「リクも見るか?」

「いいの?」

「三人からだ」

 リクは立ち上がると、急いでキースのスマホの画面を覗き込んだ。


 田端『殺されるかと思ったぞ』

 雨宮『いつもああなのか?』

 川原『やばい迫力だろ』

 キース『クリスマスパーティーで一族に睨まれて以来、寝るとああなる』

 田端『危害を加える気なんてないぞ』

 川原『心臓バクバクだった』

 キース『リク本人には先程話した』『でも本人もどうすることもできない』

 田端『ありえねぇ』

 キース『慣れろ。俺は慣れた』

 田端『ふざけんな』


 ここでリクがキースのスマホを借りた。


 キース『ごめん、桜井だ』『全く知らなかった』

 川原『何とかならないのか?』

 田端『エドおじさんに相談しろ』

 川原『来月来るんだろ?』

 キース『エド先生に話はしてある』

 田端『雨宮消えた?』

 川原『? おーい』

 田端『消えたな』

 雨宮『ただいま』

 田端『どこ行ってたんだよ』

 雨宮『父親んとこ』『あれに気に入られて一緒にいる桜井ってすげーなって思って話聞きに行ってた』

 川原『何だって?』

 雨宮『一族が桜井を認めればトーチが周囲を威嚇なんてしないのに、何でそれがわからないかなって言ってた』

 キース『(桜井)皆は友達なのに、ごめん』

 雨宮『あと、刺激すると火傷するから気を付けろって』

読んでくださってありがとうございました。

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