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Chance!  作者: 我堂 由果
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クリスマスパーティーのその後

「おはよう、桜井」

 週明けの朝、教室の席に座ると直ぐに水野が近付いて来た。

「おはよう」

 先日同様、リクと水野を皆が注目している。視線が痛い。

「一昨日はありがとう。とても楽しかった」

「礼なら俺でなく……主催者に言ってくれ。お父さんが連絡取れるんだろう?」

 祖父母と言いそうになって、寸でのところで主催者と言えた。リクは公表されていない孫だ。祖父母なんて言ってしまって、水野に突っ込まれたら困る。気を付けないといけない。心臓がドキドキする。だから話し掛けて欲しくないのだ。

「あんたやっぱり、養子になるの?」

「え?」

「フォレスター家の」

「ならないよ」

「一族に迎えるって紹介されていたじゃない」

「違うよ、あれは」

 教室に笹本が入って来た。リクの机にへばり付く水野に気付いたらしく、怖い顔で歩み寄る。リクの視線と言葉が途切れたことで何か気付いたらしい水野が、教室の入口の方へ視線を移し笹本を見た。

「またね、桜井」

 リクはもう話し掛けないでくれと言ってやりたい。水野は自分の机に戻って行く。笹本が来たお蔭で水野の追及から逃れられた。リクは取り敢えずホッとした。


「おはよう、笹本」

「おはよう、あいつまたお前にしつこいのか?」

「パーティーのお礼を言いに来ただけだよ」

「お、そうか、でパーティーどうだった? あいつキースを追い回してた?」

「え? あっ」

 リクはうろたえる。笹本はリクと雨宮・田端・川原の関係を知らない。どうしよう。何をどこからどうやって話せばいいのか。リクは笹本へのこの八カ月間の言い訳を、三人と話し合わねばならないのをすっかり忘れていた。三人は何か思い付いているのだろうか。フォレスター家の秘密は言えない。こんな頭の病気を疑われるような話を、一般人の笹本にはできない。ホームルームの始まる五分前の予鈴が鳴った。リクは続きは昼に学食でと言って、笹本との話を中断した。


 昼休み。リクは笹本と学食に居る。何をどう話せばいいのか頭の中が纏まらない。取り敢えずリクは、水野の話をすることにした。

「水野さ、やっぱ綺麗だった。背高いし、スタイルいいし、美人だし。赤いドレスが似合ってて、大人っぽくって。キースの外見は言わずもがなだろ? 何か俺凹んだ。でもキースは俺の付き添いや情報集めをしに来たから、仕事中だって言って水野を無視してた。折角綺麗にして来た水野が何となく可哀想で」

 好きな人に自分の方を向いてもらえない気持は、リクには痛い程よくわかる。部活仲間としか見てもらえなかったリクも、無視される水野も、相手に恋愛感情を持ってもらえていないことに変わりない。ただの片思い。何だか切ない。

「あんな女に同情するな、付け込まれるぞ。何としてでもキースに近付こうって虎視眈々と狙っているんだからな」

 あの積極性、羨ましくもある。でもリクには無理だった。自分に自信がない。

「俺は前に連れて行かれて、親戚に紹介されて、それだけ。でも親戚の目が怖かった」

「何? 皆お前を嫌ってんの?」

「そんな感じ。俺、お父さんの奥さんの子じゃないもんな」

「げーっ、祖父母庇ってくれないの? 酷いじゃん。そんな場所に呼び付けるって」

 この辺でパーティーの話題は終わりにしてくれ。リクはそう思った。

「雨宮と田端と川原は来たんだろ? あいつらどうしてた?」

「へ?」

 笹本リクが思いも寄らぬとんでもないことを口にした。

「え? 来なかったのか?」

「いや、来たけど……」

 笹本はどうして知っているのか。あの三人が説明をしたのだろうか。リクは状況が掴めず焦る。

「あの三人親のコネで招待状手に入れたんだろ? 三人の親はアメリカ国内に戻れば社会的地位のかなり高い家系の出身で、フォレスター家にコネがあるって。お前も含めて皆金持ちの血筋なのな、凄え」

 三人がその点に関して先に手を打ってくれていたのは有難かった。それと笹本が単純な奴でよかった。でもこれからも笹本を騙し続けるのかと思うと、良心が咎める。


「雨宮とチキン食い捲ってやった。川原はアリスも来ていたからスッゲー不機嫌」

 リクの後ろから声がした。三人が学食へやって来たのだ。

「パーティーのアリス、ドレス姿がかわいかったぜ」

 田端の言葉に、川原は今も不機嫌そうだ。

「ちぇ、いいなぁ。俺も見たかった」

 笹本は羨ましそうに言っている。

「それよりさ、吹奏楽部の演奏会、皆、聴きに行けるのか?」

 雨宮が話題を変えた。リクは行けるし、笹本・田端も行けると答えた。雨宮も行くつもりだと言っている。

「アリスも聴きに来る。見掛けてもお前らからは、絶対、声を掛けるなよ」

 川原はそう言って、四人を睨み付けた。


 その日の夕方家に帰ると、チャンスがロボットの姿に戻っていた。

「リク様、お帰りなさい」

 リビングの中を勝手に歩き回っている。

「ただいま。あれ? キースは?」

「部屋でメールを読んでいます」

 リクは学校の帰りにスーパーで買ってきた食材を、冷蔵庫やキッチンの収納にしまう。しまいながら、リクは冬休みの予定を考えた。クリスマスはチキンとケーキは用意するつもりだが、キースの食べたい物も聞いて準備するつもりだ。それから年末に鍋をやりたい。キースは鍋を食べられるか聞いてみよう。鍋は人数が多い方が楽しそうだから、時間が合えば他の皆も呼びたい。朝からおでんを煮込んで味を染みさせて、夕食に食べるのも美味しそうだ。正月は何を用意しようか。キースは雑煮を食べたが経験あるだろうか。昨年の寂しい冬休みを思うと、今年は楽しみだった。


 リクの思考を破るようにドアが開いて、キースが部屋から出て来た。

「先生から連絡がきた。やっとロバート様とリリー様が帰国された。それから、年明け直ぐにエド先生は休みが取れたそうだ。日本に来る」

 キッチンで米を研ごうとしているリクに、声を掛ける。

「え? お父さんが?」

「一週間の予定だそうだが、もっと早く帰らねばならなくなるかもしれないらしい。リクに会いたいと書いてあった。年末に詳細がわかるから、連絡をくれるそうだ」

 四カ月ぶりにエドに会える。リクは冬休みの宿題を早く終わらせようと、休み期間中の学習計画をたてることにした。

読んでくださってありがとうございました。

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