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Chance!  作者: 我堂 由果
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エドの計画

 夕食も食べ終わり、家庭教師も終え、リクとキースは向かい合って座っていた。テーブルの上には白い箱に繋いだパソコン画面がリクとキースの方を向いていて、今日はこれがチャンスだ。

「かなり遡って話さなきゃならないな。始まりは去年の二月だ」

 去年の二月。それは祖母が亡くなった頃だ。あの時エドは少し長めに日本に居た。

「先生がリクの担任と会いに学校へ行っただろう」

 そうであった。エドが学校へ来てくれた。

「それで気付いたことがあったそうだ」

「気付いたこと?」

「エド先生と廊下を歩いて行くリクを、同級生達が見ていたそうだな」

 あの時エドを見て、リクをハーフと信じていない同級生達は目が点になっていた。

「あの連中はリクを苛めていただろう」

「ええっ?」

 エドに気付かれたとは思わなかった。

「図星か?」

「うん」

「先生を甘く見るな。連中の視線を見て気付かないとでも思ったか?」

 あの時そこまでエドは観察していた。


「それから担任にリクの進路の相談をした。何の教科の教師か知らんが、英語も話せない」

「日本の学校の先生は、英語が話せない人多いよ」

「更にリクの成績は中の上。英語は絶望的」

「うっ」

 これでもリクとしては頑張っていた。塾には行かせてもらえなかったし、祖母は高齢で家事はリクがやっていた。


「何とかしなければと先生は考えた。それでフォレスター家の子供の多い高校を、リクに受験させることにした。そこなら友達もできるだろうと。次は学業の方だ。こちらは元から佐久間先生が、母方の祖父母に任せっぱなしにすることを危ぶんでいた。高校に入ればリクは十六歳になる。ここでトーチの次期守護者になれば俺とチャンスが、ならなければ佐久間先生が家庭教師をすることに決まった。しかし実はエド先生はかなり以前から、リクが次期守護者であろうとほぼ確信していたみたいだ。リクが高校に入り完全に次期守護者の座に収まるまで、決してロバート様とリリー様に、リクをフォレスター家にかかわらせようとしているのを覚られてはならない。リクが中三の一年間、先生はリクに必要以上接触するつもりはないように、周囲に見せなければならなかった」

 リクが中三の一年間、エドが周囲を欺こうとしていたとは思いもしなかった。エドはリクを見捨てたのだと当時は思っていた。


「今年四月になって先生は行動を開始した。まずは先生の味方になってくれそうな親の子供達にリクはフォレスター家の遠縁と伝え、校内でリクに近付くように指令を出した。リクがチャンスに登録されてからは、リクは次期守護者と訂正された。直ぐにロバート様とリリー様の耳にも入ったが、突然の事態に御二人ともどういう対処もできなかった。そういう経緯で、田端・雨宮・川原の三人はお前とかかわるようになった。今は次期守護者のサポートとしてだ」

 四月のあの学食でリクに声を掛けた三人。あれはエドが仕組んだのだった。


「三人の話では、偶然お前の後ろの席が笹本だった。これを利用しない手は無い。笹本と川原は近所に住んでいた時期があり、笹本・川原は小さい頃からの知り合いで、小学校も一緒の仲の良い幼馴染。川原が笹本に、前の席のハーフっぽい名前の奴に声を掛けてみろと嗾けた。上手く行って笹本はお前と仲良くなり、三人が近付く口実ができた」

 全く知らなかった。極自然に友達になっていた。

「五月にウィル様がニューヨークから消えた頃、お前の登校に必ず田端か雨宮が付いていなかったか? 校舎内でも三人が校内の警戒をしてくれていた筈だ。下校は実は俺がリクを尾行していた。ウィル様がリクの周囲に居ないか、確認する為だ」

 あの頃リクを一人にしないように、フォレスター家の人間がリクに貼り付いていたと言っていた。登校時、駅までの道でキースと別れると同時に、そういえばどちらかに出くわした気がする。帰りはリクが帰宅すると直ぐに、キースが帰って来た。気にもしなかった。


「夏休みにお前をエド先生に会わせる為に宿題を手伝ったのも、三人が申し出てくれた。それから、スティーブと三人はお互い顔見知りだ」

「えーっ?」

 四人共一緒の部屋に居てそんな素振りは一切無かった。全員凄い。


「次は雨宮の家出の件だ。雨宮の家系はかなり本家に近く、雨宮の祖父母は雨宮の父親が日本人と結婚するのを反対していたし、リクが次期当主となることも当然反対していた。下校の時リクを睨みつけていたのも、その為だ。雨宮の父親は誰が次期当主かなんて興味のない人だから、雨宮とリクが友人になっても気にも留めなかった。リクと会ってみて、雨宮本人が決めたのだから放っておけと。それが雨宮の祖父母の耳に入り、二人を怒らせたらしい。雨宮をアメリカに連れ帰ろうとして、あの騒ぎになった。エド先生は雨宮の両親の連絡先を、いかにもコネで見付けだしていたかのように言っていたけれど、両親の連絡先なんて当主だから知っている。雨宮は家出中リクと俺の居るこの部屋に転がり込んでいたので、雨宮の両親もあまり心配していなかったそうだ。結局日本中のエド先生の味方の一族に、何をしてもいいから雨宮の祖父母に制裁を加えろとエド先生が命令を出した所為で、雨宮の祖父母は帰国せざるを得なくなった。ただ、雨宮の祖父母を先生が脅した話がロバート様とリリー様の耳にも入った。雨宮の祖父母とロバート様リリー様は凄く仲がいいので、このまま御二人が黙っている筈がない。近々何か反撃してくる可能性がある。これに関してはロバート様とリリー様がどう出るかで、対策を考えねばならない。雨宮を迎えに来てくれたポールも、当然雨宮とも雨宮の両親とも顔見知り。ポールは川原の父親だからな」

 パーティーで雨宮の言っていた話と噛み合った。そういうことだったのだ。


「次は田端一家。田端の父親ジョージは、エド先生やポール、ニックよりも十歳以上年齢が上。田端に年の離れた姉がいたのは聞いているか?」

「笹本から聞いた。事故で亡くなったって」

「亡くなったのは事故ではない。お前が以前見たあの夢だ。あの事件で亡くなった」

「え」

 思い出したくもない、あの夢だ。あの中に田端の姉も居たのだ。

「お前の祖父リチャード様の打ち出した策――フォレスター家に白人以外の遺伝子を入れる――その時その為に日本にやって来たのがジョージだった。フォレスター家の大半の人々は、有色人種との結婚を嫌がった。でもジョージは自ら買って出てくれた。ジョージはエド先生が子供の頃、先生の家庭教師として雇われていた秀才。兄のように先生に接してくれていた人だ。エド先生の為に日本へやって来たと言っても過言ではない。ジョージの娘は血の濃さが八分の一だというのに、それを感じさせない程優秀だった。まるでフォレスター家以外の遺伝子が入っていないのでは思わせる程、あらゆる面で天才だった。一族に減りつつある女の子でもある。ロバート様とリリー様は当時非常に喜ばれたらしい。フォレスター家はそれ以降、日本人とのハーフが増えていったんだ。しかし十六歳になって直ぐにあの館で事件に遭った。娘を亡くしたジョージとその奥さんは、高齢であったがもう一人子供を作った。それで生まれて来たのが田端だ。男の子であったし姉程優秀でもない。アメリカの一族からは落胆の声が上がり、面と向かって田端や田端の両親に心無いことを言う連中も居たようだ」

 田端が何故あんな不貞腐れた態度を両親にとっているのか納得した。外見も学校の成績もリクなんかより遥かに良いのに、田端も大変な人生を歩んで来たのだ。

「因みにリクは夢の中で、犯人の肩を剣で抉った人物を見たよな?」

「うん」

「エド先生の話では、あれは雨宮の父ニックだ」

「は?」

「雨宮の父ニックは次期当主話や当主話に全く興味を示さない、面倒事が大嫌いな人物だが、ロバート様が次期守護者にしようと考えた程優秀な人物でもあるんだ。エド先生が頻繁にロバート様を怒らせているのは知っているだろう? その度に、株分けされたトーチをエド先生から取り上げる次期守護者候補として、よくニックの名前が上がった。でもニックは『俺は無駄に火傷はしたくない』と言って、ロバート様からの再三の呼び出しを無視し続けていた。あの襲撃の犯人は半端なく強かった。それに一太刀浴びせられたのが彼だったんだ」

 ポールには何度も会っているし、ジョージという田端の父親は駅で見掛けた。でもまだ雨宮の父親には会ったことがない。夢の中でも顔は認識できなかった。どんな人なのか会ってみたい。


「ポール一家については、パーティーで見た通りだ。ポールは日本ではなくアメリカ国内で華と出会ったんだ。医学の勉強の為アメリカに留学していた華をポールが気に入ったらしい。その後二人は日本に移り住んで、二人は日本で医者として働いている」

 四月以降リクの周辺に集まって来た人々の関係が、一気にわかった。

「それから……」

 まだ何かあるのか。

「この八カ月間、俺がどう動いていたかも話さなきゃならないな」

 キースの動きとは……リクは気付く。

「まさか……」

「チャンスを修理した四月のあの日、あの後俺は佐久間先生の家に行った。引っ越しが済むまでそこで厄介になることになっていた。そこで俺はエド先生から紹介されたメンバーに連絡を取ったんだ。川原、田端、雨宮に」

 やはり、思った通りであった。あの頃から四人は顔見知りだ。

「後日俺達は顔合わせをし、連絡先を交換し、話し合いや報告をできるようにした。だから六月にリクが水野に道で捕まった時の田端・雨宮も、八月に三人が家に遊びに来た時の川原も、全くの初対面のふりをしていた。十月の雨宮の家出の時も、俺の連絡先を何故雨宮が知っているという話になって、前日雨宮と連絡先を交換したと言ったのは咄嗟に吐いた嘘。フォレスター家については話していない察してもらったというのも、違うということが今はわかるだろう?」

 あれが咄嗟に吐いた嘘だとは、リクはあの時全く疑わなかった。寧ろ感謝した。

「ポールが川原の父親であることは、リクがポールの診察を初めて受けた翌日に、ポールから教えてもらった。その時序でに、田端や雨宮の両親についても教えてくれた」

 何も知らないのはリクだけだった。いや、笹本もいる。キースの話から笹本はフォレスター家とは無縁の人間のようだ。利用されただけだ。


「何となく全体が見えてきたよ。でもさ、どうして俺には今まで秘密にしていたんだ?」

「それは、エド先生の指示だ」

「お父さんの?」

「エド先生は学園内の一族の子供達に、お前と友人になれと強要したくは無かったんだ。お前と気が合わなければいつでも友人を止められるように、フォレスター家の人間なのを伏せさせた。お前とは学校で偶然お互いフォレスター家の人間なのを知らずに知り合い、偶々気が合わず友人にはならなかった。でもお互いにフォレスター家の人間なのが後にわかった。それからは次期当主と一族の一人として付き合っていくことになった。もし友人になれないならばお前にはそう思わせようとエド先生は考えた」

 リクだってエドの命令での友達なんて欲しくない。

「でも彼らはエド先生に、このままリクの友人であり続けたいと言ってきた。夏休みにリクが先生に会いに行った時、リクがアメリカに残らず日本に帰国して高校に通う方を望むならば、リクの日本での生活に協力したいと言ってくれた」

 何か嬉しかった。三人はエドに、そんな風に言ってくれていた。


「彼ら三人について何らかの形でリクに話さなければならないと先生は考えていたらしいが、このパーティーを利用してリクに知ってもらった。それから、三人共まだチャンスのことは知らない。ポールは当然だが他二人の父親達も、先生から信頼されているメンバーなので、チャンスのことは知っている。三人にも近々チャンスを紹介するように、先生から言われている」

「リク様のお友達を紹介してもらえるのが楽しみです」

 パソコン画面から音声が出た。いつものチャンスとはまた違う声だ。ボディには入ってないがこのパソコン姿で、チャンスは早速今晩からリクを見張ると張り切っていた。

読んでくださってありがとうございました。

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