気付かなかったリク
会場の隅につまらなそうに立っているのは川原、そしてその横にはニコニコ笑ったアリス。そしてリクをそこまで引っ張って来たのは田端だ。
「あ? え? えっと。どうして三人はここに居るんだ?」
「決まっているだろ? 招待状を貰ったからだ」
当たり前のことを聞くなよと、田端は言う。
「へ? 何で?」
「えーっとだな、親がフォレスター家の出身だから?」
何故田端は疑問文なのか。リクの方が聞きたい。さっきから川原は一言も喋らない。またアリスを人前に出すのが面白くないからだろうと、リクには川原の頭の中が簡単にわかった。
「誰でもいいからわかるように説明してやれ。できないのなら俺がするが」
「じゃ、頼むわ、キース」
田端はキースに丸投げする。川原は相変わらず無言。二人共ちゃんとコミュニケーションをとって欲しいとリクは呆れる。
「まず川原ルカ・アリス兄妹は、父親がフォレスター家の出身なので、父親の招待状でファミリーでやって来た。父親は、ポール=フォレスター。母親は、川原華だ。田端は父親がフォレスター家の出身。母親は日本人。父親はジョージ=フォレスター。以前駅のホームでリクが見たあの人だ。急に招待状がきたらしいが今日は両親とも既に用事が入っていたので、父親の招待状で代わりにやって来た」
…………………………。
リクは思考が一旦停止した。
………………。
確かに、川原も、田端も、父親がアメリカ人だ。それは知っていた。でもフォレスター家の親戚とは一言も聞いていなかった。しかも川原兄妹がポールと華の子供だなんて全く聞いていない。
「うちの学校にはさ、多いんだよ。フォレスター家の子供が。子供をできるだけ一カ所に集めれば、もしもの時にお互い協力できるだろう?」
田端はブツブツ数字を言って、指を折って勘定している。
「六学年合わせると、俺が知っているだけで十人はいる」
まだまだいることにリクは驚く。知らなかったのはリクだけだ。
「だからエドおじさんは、お前をうちの学校に入れたんじゃね?」
エドおじさん。アリスが言っていたエドおじ様も、もう間違いなく二百パーセントあの人だ。
「フォレスター家の仲間の目安としては、全員学年十五番以内の成績だな。お前を除いて」
田端らしく最後の一言がきつい。リクは一族の落ちこぼれと言いたいのか。でも否定できない。これでこの中で味方はキース、佐久間、ポール夫妻、川原兄妹、田端の七人。
「リチャード様、学校では失礼致しました。でも校内ではリチャード様は不自然ですので、桜井さんと呼ばせてくださいね」
リクはアリスに話し掛けられて、何だか嬉しい。
「別にここでも桜井で構わないけど。リクでもいいし」
リクはアリスなら何でも可なのだ。
「でもエドおじ様の御子息ですもの。ウィル様と同じにしなきゃ。じゃあ、リク様」
今日のアリスは一段と可愛い。淡いピンクのドレス。お団子にした髪に花の髪飾りを付けている。リクにはアリスが天使に見える。リクも田端と一緒で水野よりアリス派だ。そんな風に考えながらアリスを見ていたら、アリスの横に立っている川原と目が合った。物凄く怖い顔をしている。リクがアリスと口を利いている所為だろう。話す位いいじゃないかと思う。
「君達和やかに話しているね」
ポールがやって来た。いつもは温厚なポール。でも今日は顔はにこやかではあるが、目は笑っていない。
『あの三脚で撮っているビデオは、今日仕事で学校に来られないアリスのお父さんに頼まれたものらしい。アリスのお父さんは、川原以上にアリスに甘いんだそうだ』
リクは笹本の言葉を思い出した。ポールもリク達がアリスに近付くのが気に入らないのだ。しかも川原以上に。今日のポールはどこか怖い。華は少し離れた所からリク達を見て、困り顔で笑っている。
「遅くなってごめん」
また聞き覚えのある声が聞こえてきた。あいつだと直ぐにわかった。
「今日って土曜日で両親が家に居るだろ? 見付からずに招待状をこっそり盗、持ち出すの大変でさ」
輪の中に雨宮が加わった。
「俺の父親の名前は、ニコラス=フォレスター。母親は日本人。先日のグランパとグランマは、エドおじさんを怒らせて当分日本に来られなくなったので、今日のパーティーに出席できない。グランパとグランマはロバート様とリリー様の手下みたいなもんだから、このパーティーに出席できなくて怒り捲っている。それで俺の両親には出席して、ロバート様とリリー様に忠誠を示せと連絡が来たんだ。でも俺の父親はお家騒動に興味もないし、そんな面倒なパーティーに行く気もない。招待状も放置。それで俺一人こっそり来た訳。エドおじさんは来ても来なくてもいいよって言ってくれたんだけど、桜井が敵に囲まれるって聞いたから、味方増やしに来た」
「あ、ありがとう。」
雨宮のさっき言いかけた言葉は気になるが、これだけ揃うと心強い。
「ニックは相変わらずみたいだな」
ポールは雨宮の父親と知り合いらしく呆れている。佐久間も話を終えて輪の方へやって来た。
「リクの周りにこれだけ居れば、大抵の奴はちょっかいを掛けて来ないだろう」
佐久間の言葉にリクもそうあってくれるといいと思いはしたが。
『リチャード、皆に紹介するから来なさい』
突然リリーが近寄って来たかと思うと、リクを舞台の方へ背中を押して促した。リクはリリーの後を付いて行く。リクの味方と言ってくれるメンバーが、舞台の周りに集まって来た。水野やホテルのスタッフもいる中、まさか何かされることはないと思うが。
舞台に上ると、場内の一族の目が一斉にリクを見た。写真を撮るつもりかビデオを撮るつもりか、スマホをこちらに向けている者が何人も居た。
『新しく一族に迎えたリチャードよ。皆、彼を歓迎してあげてね』
リリーはリクにマイクを渡した。何か言えということだ。
『リチャード=サクライです。今日は東京まで足をお運びいただき、ありがとうございます。パーティーを楽しんでいってください』
何とか英語にできた。発音はキースとチャンスに、この八カ月間徹底的に直された。通じた筈だとリクは確信していた。リリーにマイクを返すと、舞台から下りる。そのリクを、一族達の面白くなさそうな視線が追っていた。会場の中で、舞台方向を見ている水野と目が合った。水野は目を見開いて驚いているようだった。
舞台を下りたリクを一斉に味方八人が取り囲んだ。誰にも近寄らせないつもりのようだ。流石ロバートとリリーが事前に声を掛けて集めたメンツだけのことはある。リクを注目する目は、嫌悪とか、憎悪とか、悪意とか、敵意とか、侮蔑とか、様々な負の感情を孕んでいた。
「ロバートとリリーがこのパーティーで、何をしたかったのかわかったよ」
佐久間が周囲に目を配りながら小声で言った。リク達はまた会場の隅に戻り、一斉に佐久間を見る。
「リクの顔をしっかり覚えてもらう為だ。その為にわざわざロバートとリリーのお気に入りを、ここに集めたんだ」
「俺の顔?」
「俺達を除くここに居る全員のターゲットの顔だ。携帯で写真を撮っていた奴らは、今日ここに来られなかったリクを嫌う親族達に、顔写真をばら撒くつもりだろう」
ここに居る全員のターゲットと言われても、リクは実感が湧かない。
「こちらからも早めにエドに連絡をしておこう」
佐久間は携帯を取り出して、どうやらエドに連絡を入れているようだ。
「何であんた達が居るの?」
水野が近寄って来た。田端・雨宮・川原兄妹を見ている。
「招待されたからに決まっているだろ?」
それしか答えない田端。雨宮と川原は無視を決め込んでいる。
「感じ悪いわね」
「お互い様だ」
田端は水野を怒らせるような返答ばかりしている。しかし今日はトーチが静かだ。これだけの敵に囲まれた状態なのに、暴走しようとしない。リクの味方になってくれる人間が、何人か居るお蔭だろうか。それとも……。リクは佐久間を見る。佐久間の力は未だにわからない。
リリーがやって来て、田端と舌戦中の水野に話し掛けた。他にも紹介したい一族がいると言って、水野を連れて行った。水野はリク達から遠ざかりながら、名残惜しそうにキースを見ている。リクは水野の気持ちがわかる。水野はここに居たいだろう。ここがキースの傍だから。
やっとリク達の居る周辺の空間が静かになったのに、近付いて来る者達がいた。
「あなた達がリチャードの為にエドおじ様が送り込んだ部下? 日本人だらけじゃない」
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