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Chance!  作者: 我堂 由果
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クリスマスパーティー

 都内某所。クリスマス装飾の溢れる繁華街の人混みの中を、リクはパーティー会場のホテルに向かって一人で歩いていた。スーツはつい先程だが受け取れた。よくこんなギリギリの注文で間に合わせてくれたなと店に申し訳なかった。ロバートとリリーのコネが効くからだろうと思う。二人の大物振りを感心した。        

 そしてリクは歩きながら自分の着せられているスーツを見る。勿体ないよなぁと思う。成長期に高級スーツなんて、直ぐにサイズが合わなくなるのに。後々まで使えそうなのはネクタイだけだ。Yシャツも店で用意された。学校の制服のでは駄目だと言われた。何でもスクール用は細部が違うそうで、それ以外にも細々細々……。リクから見れば、どうでもいいし面倒臭いし、どうせ誰も気付かないと思う。


 キースはまた夏休み前の長さに髪の毛が戻っている。それでスーツ姿がだらしなく見えるかというと、そうならない。ちょっとワイルド。スーツの採寸の時、店のオーナーの孫娘とかいう若い店員が、潤んだ目でキースを見ていた。最近は町中を歩いていても、前から来た女がキースをガン見したり、更にすれ違ってから振り向いて二度見したり。キースの女を吸い寄せるオーラは凄い。あれは強力フェロモンだ。後五、六年したら、キースを巡って女が刃物振り回すとか、警察呼ばれるとか、大騒ぎが起きるのではないかと恐ろしく思う。


 そのキースだがパーティーには少し遅れそうだ。事の発端は一週間前。キースとチャンスの喧嘩から始まった。チャンスは一部の一族しか知らない、トップシークレットのロボットである。パーティーに連れてはいけない。家に置いていくのも、セキュリティー上キースが嫌がった。エドの会社の地下のようなしっかりとしたセキュリティーがない場所には、チャンスを一人で置いて行けないというのだ。もしチャンス一人のところに悪意のある一族の誰かが泥棒に入ったら。

 当初のキースの予定では、チャンスの頭脳部分の白い箱を本体から取り出し、更に箱の中身を分解し、最重要・不可欠部品をコンパクトに纏め、背広の内側に隠して持って行くつもりであった。これは結構時間の掛かる作業で、いつもの白い箱を取り出すだけの作業よりも、余裕を持って始めなければならなかった。更にここまで分解されてしまうと、チャンスは一切の仕事ができなくなる。これが喧嘩の原因であった。チャンスは分解されることを嫌がった。チャンスは今、毎日夜中をリクの部屋で過ごしている。リクの悪夢を見張る為だ。リクは大丈夫だと言っているのだが、チャンスはきかない。それにクリスマスパーティーの主催者がロバートとリリーでリクを嫌う一族が来るという話も、リクに何かされるのではとチャンスには面白くないようであった。白い箱の状態なら様々なデバイスを経由して、話をしたり、仕事をしたり、リクを見張ったりできるらしい。だから白い箱の状態までにしか分解するなと騒ぎまくった。しかしそれでは嵩張るので、スーツの下に隠せない。

 チャンスは自分のボディを分解しようとした時点で、防犯ブザーを鳴らすとキースを脅かしていた。ロバート達が来た日エドの家のリビングで響いていた、あの人を苛々させる不快な音を最大音量で出すという。これからの信頼関係を考えると、チャンスに無理強いはできない。どうにか納得してもらうしかない。リクとキースの説得は何日も続いた。


 やっとチャンスが首を縦に振ってくれたのは、昨晩遅く。リクの為という最もチャンスに有効な言葉を繰り返していると、チャンスはこれでもかという程、渋々承知してくれた。そして昨晩から、キースは殆ど寝ないで会社の仕事も中断して、白い箱の中を分解している。未だに終わらない。でも三十分遅れ位で来られるそうだから、リクは先に現地に向かった。最近のチャンスは自己主張が激しい。リクが心配を掛けている所為だということは、リクも嫌という程わかってはいるのだが。


 ホテルに到着すると会場の入り口付近のツリーの横に、既に水野は立っていた。クリスマスらしい赤いドレスに、黒い小さなバッグを右手に持っている。いつもはストレートヘアなのだが、今日は毛先だけウエーブを掛けていた。化粧もしている。スタイルも抜群でとても十六歳には見えない。大学生かなと思う位、大人っぽい。高さ七、八センチのヒールの靴を履いているので、悲しいことにリクより少し背が高い(リク百七十七センチ弱、水野百七十二センチ+八センチ=百八十センチ)。身長百八十七センチのキースだったら釣り合いそうだ。リクは早くキースに来て欲しい。

 夏頃は背を伸ばして水野を見下ろすぞと意気込んでいたけれど、女性はハイヒールを履く。リクはこういう服装で水野を見下ろせる日は来るのだろうかと凹んだ。そんなことを考えながら水野の前に立つと。

「キース君は?」

 水野は開口一番当然こう言った。

「仕事だよ。遅れて来る」

「そう」

 水野は明らかに沈んでいる。頑張っておしゃれして来たのはキースに見て欲しいからだと思うと、リクは水野が少し可哀想になる。

「でも三十分遅れ位で来るよ」

「そう」

 それでも水野のテンションは低いまま。キースの顔を見るまでは駄目なのだろうと、リクは水野に話し掛けるのを止めた。リクと水野が会場に入るともう人は沢山集まっていて、ロバートとリリーの周りには人だかりができていた。皆、会場に入るとまずは二人に挨拶をする。リクとしては近寄りたくないのだが、水野はどんどんと二人に向かって進んで行く。場内を見回すと、ロバートやリリーの年齢の者からリク位の年齢の者まで、男女を問わず楽しそうに会話をしている。全体的に金髪碧眼が多いのは、きっとこの一族の特徴からくるものだろう。リクは緊張してきた。やっぱり帰りたい。


「キースは遅れて来るらしいね」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえてきた。リクは期待して振り向く。

「佐久間さん。どうしてここに?」

「俺はエドの仕事のパートナーでもあるんだ。フォレスト社の代表として、多忙の社長の代わりに社長への招待状でここへ入ったんだ。まぁロバートとリリーは、フォレスト社を作るように俺がエドを誑かしたと、俺を嫌っているがね。さて、その妖怪二人に挨拶に行くか」

 佐久間も護衛の一人と思っていいのだろう。佐久間は一族ではないが、キースの話だと考えも及ばない力を持っている。この場でのリクの味方だと思うとホッとした。


「リク、佐久間先生」

 リクは後ろから声を掛けられた。この声はキースだ。思ったよりも早く終わったようだ。

「お疲れ様。早かったね、キース」

「これから挨拶に行こうと思っていたんだ。ロバートとリリーにね」

 今ロバートとリリーは水野と話していた。

「彼女が水野家の御令嬢か」

 佐久間は遠目からじっと水野を見ている。

「確かに、リリーの好みだ」

 そう言って笑った。

『ミスター・サクマ、お久しぶりね』

 水野と話し終わると、リリーが英語で声を掛けてきた。

『お元気でしたか? 今日は社長の代わりに挨拶に来ました』

 佐久間も英語で挨拶を返す。ロバートも加わって三人で話し始めたが、やはり和やかとは言い難そうだ。ロバートとリリーの笑顔は先程までとは違い引き攣っていて、明らかに佐久間を嫌っている。リリーは序でのように、佐久間の横に居るリクに言った。

『よく来てくれたわ。後で一族に紹介するわ』

 二人は別の一族の所へ行ってしまった。そこで楽しそうに話している。


「キース君」

 水野がキースに話し掛けた。キースは嫌そうにそちらに振り向く。

「どうかしら、今日のドレス」

「ああ、よく似合っている。それよりも、俺は今、リクの付き添いの仕事中だ。忙しい。用がないなら話し掛けないでくれ」

 キースは水野に冷たい。会場の中はリクを嫌う一族だらけ。キースは水野には付き添いという言い方をしたが、ここでのキースの一番の仕事はリクの護衛だ。フォレスターグループを探る水野家の行動は気になっても、話し込んでいる余裕はないのだろうと思われた。

「あ、あれ」

 リクは入り口付近に新たに味方を見付けた。ポール・華夫妻。ポールは三人目の味方だ。何とか都合を付けて来てくれたのだろう。戦力にはならないが、華を入れると味方は四人。リクは二人に歩み寄ると挨拶した。

「ありがとうございます」

「気にしないでいいよ。何とか都合が付けられたんだ」


 時間になり立食形式のパーティーが始まった。水野の周りには直ぐに、高校生から大学生位の男子達が集まって来た。水野グループの会長の孫という情報も、既にリリーから彼らに与えられているらしく、彼らは好奇心旺盛といった風に水野に話し掛けていた。水野も英語が話せるだけあって、楽しそうに受け答えしていた。

 ポールや佐久間も大人達に捕まっている。ポールは一族の一人だからか顔見知りが沢山いるようだし、佐久間はエドの仕事に興味のあるビジネスマンに話し掛けられていた。キースはリクを一人にしないように、ぴったりと付き添っている。

「キース、桜井、こっちだ」

 誰かがいきなりリクの腕を引っ張った。リクは一瞬警戒したが、その声に聞き覚えがあった。同じように一瞬警戒を見せたキースも、相手がわかると気を緩めたようだった。

読んでくださってありがとうございました。

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