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Chance!  作者: 我堂 由果
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一族の祖先

 日曜日、朝九時。昨晩十時前に寝たリクは十一時間以上寝て起きてきた。寝過ぎである。でもまだ眠かった。吹き抜けから一階を見下ろすと、キースが膝にチャンスをのせてソファの上で本を読んでいる。エドはまだ寝ているのか見当たらない。

「おはよう、キース。お父さんはまだ?」

「おはよう、まだ起きてきていない。先に二人で朝食を食べよう」

 二人で朝食を食べていてもエドは起きて来なかった。

「まさか出掛けた?」

 朝食後キースがそう言ってガレージに車が置いてあるか見に行ったが、そのまま置いてあり出掛けた様子はないと言う。リクとチャンスは食卓で宿題のレポートを書き始めた。キースも他にやることもないそうで、そのレポートを手伝った。十一時になってやっとエドが現れた。エドは寝室からではなくその隣の部屋のドアから出て来た。あのドアの向こうはエドの仕事部屋で偶に籠るのだとキースはリクに教えてくれた。

「済みません、てっきり寝ているものと思って。リクと二人で朝食先に食べちゃいました」

「ああ、いいよ。ちょっとやりたいことがあって仕事部屋に居たから」

 エドは一階に下りて来ると一人で朝食を食べた。

「話があるんだ。仕事部屋に来て欲しい」

 食後にエドはリクに声を掛けた。リクは宿題を中断するとエドの後について階段を上り始める。

「キース、本が読みたいです」

 暇になったチャンスがキースに強請る声が聞こえた。二階の廊下から一階を見下ろすと、キースもチャンスも本棚に向かいながら、仕事部屋へ歩くエドとリクを目で追っていた。


 エドの仕事部屋は他の部屋と違っていた。他の部屋は家具が同色の木製で統一されているのに、この部屋は机も本棚も一般的な事務用品。グレーの金属製だった。木の温もりのある部屋に、この二つは全く合わない。机の上にはパソコンが置かれている。本棚には殆ど本が入っていなかった。部屋の隅に木の椅子が二脚置いてあり、エドはその一つを机の横に机の方へ向けて置いた。そしてそれにリクを座らせる。エドは机の椅子に座った。このエドの座った椅子も机と同じ事務用品。二脚の木の椅子以外はアンバランスで殺風景な部屋。エドが何故この部屋をこんな空間にしたのか不思議だった。

 エドは横に大人しく座るリクを見た。それから少し目を伏せて、静かに息を一つ吐いた。

「リックには済まないことをしてきたと思っている」

 それが最初の言葉だった。

「リックがここに来て暫くは体調が心配で話は控えていたんだが……長い話になるが、大丈夫か?」

「うん」

 リクは頷く。

「何をどこから話せばいいかな……まずはフォレスター一族について話そう」

 やっと聞ける。トーチとは何なのか、この一族との関係は。リクは膝の上で両拳を握り締めた。


「世界中のあらゆる地域に、神話とか伝説とか沢山言い伝えがあるのは知っているだろう。その話の中には、人々が神様に遭遇したり、助けてもらったり、懲らしめられたりする話がある。実はあの中には、実話だったり実際あった出来事に脚色が加わったりした話があるんだ。そう、あの神話や伝説ができた頃は、人間と神様の距離は今より近かった。神様もよく人間の世界を訪れていたし、人間とのかかわりも多かった。でも今、神話や伝説のようなことは起きない。それは、神様が人間の世界に下りて来難くなったからだ。昔は神様の住む世界と人間の住む世界を結ぶ通路の出入口のような場所が世界中に在って、神様はそれを使って人間の世界を自由に訪れていた。その出入口が閉じ始めたのははっきりしてないが、今から多分五、六百年位前。神様の世界と人間の世界を繋ぐ通路の出入口は凄い速さで減って行った。もうじきに神様の世界と人間の世界を行き来することができなくなりそうになった頃、一部の神様が人間の世界で暮らしたいと言い始めたんだ。神様にもその実力に上下があって、上位の者から下位の者までいた。下位の者となると、人間が神の業として想像するような絶対的で強力な力は全く持っていない。神の世界では弱い存在だ。それならば人間の世界で、自分達の能力を利用した方がいいのではないかという意見が、下位の者達の間で多く出始めた。行き来が完全にできなくなってしまう前に、何千人という者達が人間の世界に移ることを申し出た。そしてその中の一部が、フォレスター家の祖先だ」

「え? 元は神様の世界に居たの?」

 リクは一族の異常な能力を思い浮かべた。人間でないのなら確かに納得がいく。


「そうだ。一族は人間の世界への移住者達だ。下位の神様は外見が人間と異なる者が多いのに、人間に化ける能力が低くて短時間しか化けていることができない。長時間化けているともう神の姿に戻れなくなる。だから彼らが人間の世界で生活するには、もう完全に人間になってしまうしかない。しかし完全に人間になってしまうと、折角の人間を超える力も著しく低下してしまう。上位の神様の中に彼らを案じてくれる者がいて、人間の姿になっても神の姿の時のような力が使えるようにと、『トーチ』と呼ばれる『火』とそれを扱う為の痣を与えてくれた。痣は全員に、トーチは各種族に一つずつ族長に渡された」

「各種族って、フォレスター以外にも沢山あるの?」

「他の種族について調べてはいるが、まだ把握しきれていない。どこも数が減っているか、子孫が途絶えている可能性が高そうだ」

 リクはそこから先月教わったスティーブの話へと頭の中で繋げた。


「人間の世界に下りて来るに当たって、使ったのがヨーロッパの森の中に出る通路だったらしい。それで一族がフォレスターと名乗るようになったと聞いている。もうその出口も今は閉じて存在していない。当時の一族は特殊な能力を持つ者がまだ沢山いて、未来を見通せる予言者がいた。その予言者が、一族が将来住む地はコーカソイドの外見が有利になると予言して、話し合いの結果、一族全員が俺のような金髪に青い目の白人に化けることにした。だからこの外見の者が多いんだ。トーチを守り神として人間の世界で暮らし始めた祖先達は、トーチを扱うにはそれを守護する者が必要であると知っていた。初代の守護者である族長が年老いてくると、その役目を若い世代の誰かに譲らねばならなくなった。フォレスター一族は元から族長は世襲だったし別々に選ぶ必要もなかったので、次の族長である族長の長男が守護者を兼任していくように決まった。その後次期守護者となる者は、十六歳になると株分けされたトーチを持たされるようになった。トーチに認められた次期守護者であることを一族に知らせる為にだ」

 やっと教えてもらえた一族とトーチの歴史。考え込むリクをエドは心配そうに見る。

「疲れたか? 今日はここまでにしておくか? ポールから、話をするならお前の様子をよく見ながらにしてくれと言われているんだ」

 リクは首を振る。

「大丈夫。もっと聞きたい。ずっと疑問に思っていたから」

「わかった。次に話さなきゃいけないのは、やはりお母さんのことかな」

 リクにとっては写真でしか会えない母親。でもエドは生きている頃のリクの母を知っている。両親は二人でどんな時間を過ごしたのかリクはずっと知りたかった。


「日本のお祖父さんお祖母さんから、何か聞いているか?」

「詳しくは聞いてない」

 リクは首を振る。

「お母さんの写真のアルバムは見せてもらった。後は、俺が一歳頃に事故で亡くなったとだけ聞いた」

 エドはリクの顔をじっと見ている。

「リックはお母さんに似ているな」

 エドはリクの中にリクの母を見ているようだった。

読んでくださってありがとうございました。

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