表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Chance!  作者: 我堂 由果
31/427

ダニーとの会話

 快晴で暑い昼下がり。ダニーがやって来た。二階のリクの部屋に入って来た時リクは目を覚ましていて、ベッドに横になっていた。ダニーは栗色の髪にブラウンの瞳の男性だ。完全な白人なのに、髪の色と目の色がハーフのリクと全く一緒だった。でもダニーの方がリクより十センチ以上背は高いし顔もイケメンに入る。女性にもてるだろうなとリクには羨ましい。


 ダニーは今日は眠らせずにリクの検査をしたが、慣れたのか相性が良かったのかリクは不快は感じなかった。その日ダニーはリクに興味が出たのか簡単な英語で話し掛けてきた。『好きな教科は?』と聞かれたので『英語以外』と答えた。ダニーは笑っている。『積極的に英語をどんどん話すんだ』とかリクにとっては難しいことを言ってくれる。リクの頭の中では英語の文章はそう簡単に組み立てられない。『体育の授業に出たい。でもポールに止められている』とリクが言うと気の毒そうな顔をして、『十代には辛いだろうが俺も勧めたくない』と言った。

 ダニーは日本語は話せないが英語でリクに話し掛けてきてくれた。リクは必死に聞き取って、頭の中で英文を構築して話した。アメリカ人のダニーと何とかコミュニケーションを取れたのがリクには嬉しかった。

「熱も三十七度台だしトーチからのストレスも軽減されている。今日は無理に熱を下げないから、これから一日安静にしていて貰うのが一番いいとダニーは言っている。今日は治療はなしだ」

 話が難しくなってくるとエドに通訳してもらう。

「昨日よりもトーチは落ち着いている。トーチのこの状態がこのまま続いてくれるかわからないが、リックの体力を戻すには理想的な状態だ。今の内に体調を整えよう。これは俺とダニー二人の意見だ」

 ダニーは明日また来ると言って帰って行った。エドが玄関までダニーを送って行く。リクはそのまま寝ているように言われた。


 月曜日の朝。エドは一人で会社に出掛けた。熱のあるリクを連れては行けないからだ。熱があると言っても三十七度丁度。体は大丈夫とリクは言ったが、エドからは駄目だと言われた。リクを一人にはできないから当然キースも家に残る。キースは家で仕事をすると言うがチャンスは使用禁止。今日も暇なチャンスが可哀想で、リクは熱が早く下がって欲しかった。見慣れて来た天井を見ながら、ロボット掃除機が家中を走り回る音を聞いていた。平日の昼間人のいない間に、ああやって掃除していたとは知らなかった。見に行きたい気もするが一階にはセシリアが居る。ただでさえ言葉は通じないし、ウィルの家出や夜中の看病や、リクは顔を合わせ辛い。昼食はどうするのかキースに相談しないと等、考えているうちに眠ってしまった。


 目が覚めて時計を見ると午後一時だった。まずい、昼飯、と頭の中で叫んでドアを開けて廊下に飛び出して階下を見ると、ソファでキースがチャンスを膝にのせて、親子で絵本を読むような体勢で本を読んでいた。いつも立ったまま本捲りをしているキースが、座って本を読んでいるのをリクは初めて見た。キースが読書を止めて二階を見上げた。リクと目が合う。

「ごめん、寝てた。キース、昼食は?」

「先に食べた。リクの分は取ってある」

 焼き饂飩と冷蔵庫にしまってあった冷や奴を、ダイニングのテーブルの上に出してくれた。

「ありがとう」

 リクは一階に下りると食事を始めた。キースも食べ終えたばかりなのか、焼き饂飩がまだ温かい。リクが起きて来るのを一時近くまで待っていてくれたのかもしれないと、リクは寝こけてしまいキースに悪かったと思った。

「セシリア様は、先生がさっき昼を食べに連れ出してくれた」

 言われてみれば家の中にセシリアは居ない。言葉も通じないし、気まずいし、リクとしては接触せずにいられればそれに越したことはない。キースは再び読書に戻る。

「二人で本を読んでいるの?」

 チャンスを抱えているということは、チャンスも読書をしているのかと聞いてみた。

「ああ、こうして人間のペースで本を読むのもチャンスには楽しいみたいだ」

 初めて会った時、チャンスは手紙を英語から日本語へ訳してくれた。当然チャンスは本だって読める。


 食事を終えた皿は食洗機に入れるようにキースから言われた。初めて見る食洗機。皿、コップ、スプーン・フォーク等の入れ方を教わる。洗剤を入れて、後はボタンを押せばOK。今朝の掃除機といい、ここにはリクが使ったことが無い家電が多い。部屋に戻って熱を測ると三十六度四分。道理で昼に起きてから体が楽だった。一階から女性の話声が聞こえてきた。セシリアが帰宅したのだろう。それからリクの部屋のドアがノックされエドが入って来た。

「具合はどうだ?」

「熱も平熱まで下がったし、大丈夫だよ」

「午後もちゃんと寝ているんだぞ。俺はまた仕事に戻るから」

「わかっている」

 エドは忙しそうに部屋から急いで出て行った。キースも午後の仕事を始めるのなら、もう直ぐ自分の部屋に戻るだろう。一階はまたセシリアが一人になる筈。そこへは行き辛い。リクも自分の部屋で夕方まで過ごすことにした。どうせ寝ているように言われたのだ。他にすることはない。でも夕飯の心配をする。昼はキースに作らせてしまったから、夕飯の支度は手伝いたい。キースが土曜日に買い出しで何を買ってきたのか、食材がわからなければチャンスに相談もできない。このところリクが寝込んだ所為で食事の支度はキースに頼ってばかり。もうそろそろリクも手伝いたい。とはいえ、エドとセシリアはどうするのだろうとリクは困った。アメリカの家庭料理なんてリクには作れない。等と考えているうちに、また寝てしまった。


 目を覚ますとベッドサイドにエドが居た。椅子に座って新聞を読んでいる。窓の外は明るいがもうエドの帰宅時間なのかと体を起こした。時計を見ると七時。朝じゃなくて夜であるとリクは勝手に自分の勘を信じることにした。

「お帰りなさい。午後中寝ていたみたい」

 目を擦りながらエドに声を掛けた。

「社内の皆もリックを心配してくれて、早めに帰してもらえたんだ。金曜日に医者を呼んだのを皆、知っているからね」

「皆、親切だね」

「家族が病気なら普通はそうだろう? 熱は下がったみたいだがもう直ぐダニーが来る。さっきメールが来た」

 今日でダニーに見てもらうのは最後かもしれない。でもまたどこかでリクはダニーに会いたかった。エドは椅子から立ち上がると、ダニーを迎えに一階に下りて行った。エドが部屋のドアを開けた時、一階から料理の匂いが部屋に入り込んできた。またキースに作らせてしまったと反省する。独特なハーブらしき匂いもしているのはセシリアの料理だろう。診察が終わったらセシリアは手伝えないけれどキースの手伝いはしようと、リクは様々な匂いの中から醤油の匂いを嗅ぎ分けていた。


 リクは今日はベッドに腰掛けてダニーを待った。熱も下がったし体調も悪くはない。ドアを開けて入って来たダニーは、リクを見ると安心したのかホッと息を吐いたのがリクにもわかった。診察は直ぐに終わりエドはダニーを夕食に誘ったが、ダニーは今日は仕事が残っているそうで、当主からの御誘いは光栄なのですがと丁重に断ってきた。残念だがリクとエドはダニーを玄関まで見送ることにする。リクはダニーに『また会おう』と言った。ダニーも『楽しみにしています』と言ってくれた。その時にはもっとダニーと英語で話ができるようになっていたいとリクは思う。


 ダニーを見送った後リクははりきって夕食の準備を手伝おうとしたら、エドからもキースからも止められた。体力を温存しておけとエドから言われた。リクは無理矢理ソファに寝かせられる。ソファ前のローテーブルの上にはチャンスが居て、リクを見張りのように睨んでいた。暇なリクはソファの背凭れから偶に首だけ出してはキッチンの様子を観察する。キッチンにはセシリアとキースが居て、二人で何かを作っていた。エドも手伝いに行ったがあまり役には立っていない。料理は不得意なのが直ぐにわかった。キースは日本に来てからの短期間で和食のレパートリーが増えた。リクの所為と言われれば否定できない位リクはキースに頼っていたし、今も頼っている。

 もう直ぐ夕食だ寝ちゃ駄目だぞとリクは自分に必死に言い聞かせるが、気を抜くと眠りそうになる。午前も午後も寝ていたのにまだ寝られるとは自分はどうなってしまったんだろうと悩みながら、襲ってくる眠気に抵抗を続けた。

「リク、夕飯だ」

 ソファの背凭れ越しにキースに声を掛けられる。リクはやっと食事かと息を吐いた。

読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ